第113回 制約は「自由」になるためにある

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第113回 制約は「自由」になるためにある

安田

昔、あるクリエイターさんから「制約」について非常に面白い考え方を教わりまして。


藤原

ほう、興味深いですね。「制約」というと、例えば会社だと行動指針などがありますけれど。

安田

そうそう。行動指針って「社員が変なことをしないように規制していくもの」だというイメージじゃないですか。でもその方によれば、規制や制約というのは実は「自由になるためにこそあるんだ」と。


藤原

ああ、でもわかる気がします。何もかもが自由でルールが存在しない状態というのは、かえって動きが取りにくくなったり、お互いに衝突して不自由になってしまうこともありますから。

安田

そうなんです。法律も同じで、「これとこれとこれは駄目」というNGラインを明確に決めるということは、裏を返せば「それ以外は自由にやっていい」ということになるわけで。つまり、私たちが自由でいるためにあえてNGを作っているんだと。


藤原

なるほど、非常に腑に落ちます。「駄目なこと以外は自由」という前提があれば、安心して行動できますよね。

安田

仰るとおりです。藤原さんは組織づくりやルールの専門家でもいらっしゃいますが、組織にどういうルールを作っていくかはものすごく大事なところですよね。


藤原

大事ですね。単に制約のための制約になってしまっては全く意味がありませんし。

安田

そうですよね。でも現実を見ると、学校の厳しい校則なんかは「本当に人を自由にするためのルールなんだろうか」と疑問に思えるものも少なくないですよね。


藤原

う〜ん、確かに。個人的には、ルールは「できるだけ少ないに越したことはない」と常々思っているんです。少なければ少ないほど柔軟に動けるようになりますから。

安田

同感です。とはいえ、規模が大きくなって色々な人が集まってくると、どうしても最低限のルールは必要になってきますよね。そのあたりのバランスはどうやって取っていけばいいんでしょう。


藤原

そこが重要なポイントで、組織の価値観と倫理観が一定程度共有されていれば、そもそもルール化する必要がないことが多々あるんです。つまり、「どういうルールを作ろうか」という考え方ではなく、「価値観と倫理観の共有によってルールを最小限に抑えよう」という方向が正しいわけです。

安田

なるほど。皆が同じ方向を向いていて暗黙の了解ができていれば、「いちいち言わなくてもわかるでしょ」という状態になりますもんね。それが結果的に、自由で居心地のいい組織を作ることにつながると。


藤原

そういうことです。一つエピソードを思い出したんですが、行列に並んでいる時にトイレに行きたくなったら、日本なら前後の人に声をかけて少し抜けるといった融通が利きますよね。

安田

「ちょっとトイレに行ってきますので、場所を見ておいてください」みたいなやり取りですね。


藤原

そうそう。それが中国ではちょっと勝手が違うようで。一度列を抜けたら二度と元の場所には戻れないという暗黙のルールがあるようなんです。

安田

えっ、じゃあトイレに行きたくなったらどうするんですか?


藤原

ギリギリまで我慢して、どうしても我慢できなくなったらその場で用を足してしまう人もいるらしくて。まぁ人づてに聞いた話なので真偽は定かではないんですが。

安田

それはすごいですね。列を抜けたら戻れないという制約があるからそういう行動に出てしまうと。国民性や文化の違いによって、ルールのあり方やそれに伴う行動が変わってくるというのは面白いですね。

藤原

そうなんです。もし日本の会社だったら、「トイレ以外の場所で用を足してはならない」なんてルールをわざわざ就業規則に書く必要は全くないですよね。当たり前の価値観として共有されているから。でも文化によってはそれを明文化しなければならない場合もある。

安田

私も昔、大阪の下町でちょっとガラの悪いエリアに営業へ行った時のことを思い出しました。「ここに痰を吐かないでください」という看板があって驚いたんですが、裏を返せばその看板を立てておかないと平気で痰を吐く人がいるということなんですよね。

藤原

まさにそういうことですよね。秩序が自然と保たれていて、皆が共通の価値観や倫理観を持っていれば、そんな看板やルールは必要ない。ルールが増えていく背景には、そのあたりの共有ができていないという問題が潜んでいることが多いんです。

安田

なるほどなぁ。信号機なんかもそうですよね。「赤は止まれ、青は進め」というたった二つのルールがあるおかげで、皆が安全に交差点を渡ることができる。もし信号という制約がなければ、いつ渡ればいいかわからず大混乱になってしまいます。

藤原

「赤は止まる」という制約を受け入れる代わりに、「青になれば確実に渡れる」という自由と安心を得ているわけですよね。このルールを守らない人がいると、今度は「破った時のための罰則ルール」が必要になってしまう。

安田

ああ、そうやってルールがどんどん増えていってしまうんですね。

藤原

ええ。ルールを「自分を縛る不快なもの」と捉えるか、「全体をスムーズにして結果的に自分を自由にしてくれるもの」と捉えるかで、人生の生き方そのものがだいぶ変わってくる気がします。

安田

ルールを前向きに捉えられるようになれば、精神的にも自由になるし、日々の生活がずっと快適になりますよね。ルールを作る側も、「皆を快適にするために設計する」という視点が欠かせないということなんでしょう。

藤原

ところで安田さん、「ポジティブリスト」と「ネガティブリスト」という言葉はご存知ですか?

安田

いや、聞いたことはないですね。言葉の響きからすると、なんとなくポジティブリストの方が優しそうな印象を受けますけど(笑)。

藤原

実はネガティブリストの方が自由度が高いんです。ネガティブリストというのは、「これとこれはやってはいけない」という禁止事項だけがリスト化されていて、それ以外のことは「全部自由にやっていいよ」というルールのあり方なんです。

安田

なるほど。冒頭でお話しした法律の考え方と同じですね。「ダメなこと」さえ避ければ、あとは個人の裁量で自由に動ける。ではポジティブリストというのはその逆ということですか?

藤原

ええ。ポジティブリストは「やっていいこと」が細かく記載されていて、「そこに書かれていないことは一切やってはダメ」というルールです。日本の自衛隊などは、このポジティブリストでできていると言われています。

安田

は~、それは大変そうだ。何か新しい行動を起こそうとするたびに、いちいちリストに載っているかどうかを確認しなければならないわけで。書かれていないことは身動きが取れなくなってしまって、相当窮屈でしょうね。

藤原

そうなんですよ。言葉だけ聞くとネガティブリストの方が厳しそうに感じますが、実際には最低限の禁止事項だけを定めたネガティブリストで動ける組織の方が、遥かに自由でクリエイティビティを発揮しやすいんです。

安田

ということは、多くの場合は「ここを制約することで皆が快適に動けるよね」という急所を突いた必要最小限のルールだけを設けるべきなんでしょうね。でもそれをわかっている人が設計しないと、ルールのためのルールばかりが増えてしまうと。

藤原

仰るとおりです。ルールを守らせるための監視ルールができたり、破った時の罰則ルールができたりして、どんどん組織が硬直化して窮屈になっていってしまう。組織づくりをする人はそういう視点を必ず持っておくべきだと思います。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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