第31回 経営者の上手なお金の使い方

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第31回 経営者の上手なお金の使い方

安田

前回、前々回と「経営者のお金の使い方」の話題が出ましたけど、上手い使い方と下手な使い方について、もう少し深掘りしたいなと。


藤原

おもしろそうですね! 私としては、「使った結果増えるか増えないか」が一つの基準になるんじゃないかと思いますね。

安田

使って増えるなら上手い使い方で、増えないなら下手な使い方だと。


藤原

そういうことです。かつ、増えるタイミングが短期なのか長期なのかも重要かなと。長期で増えるものじゃないとあんまり意味がない気がして。

安田

すごく共感します。株でも何でも、短期で稼ぐとなるとほとんどギャンブルなんですよね。そういう市場だとベテランがAIとかを駆使してやっているわけで、個人投資家がいきなりやって勝てっこない。


藤原

本当にそうですね。一方で、その会社の事業や経営基盤をしっかり理解して、10年20年先の将来を考えて上がると判断した株は、かなりの確率で当たる。

安田

そうそう。それと同じだと思うんですよ。長期になればなるほど、投資が回収できる確率は上がる。すぐに回収しようとするからうまくいかないだけで。


藤原

そこですよね。社長さん自身もそうだし、社員に対しても、「この投資をしたとして今月いくら儲かるんだ」と、あまりにも短いスパンでのリターンを求めるじゃないですか。お金の使い方が下手な人って、そういう「短期的な視点」の人が多いんじゃないかなと。

安田

仰るとおりだと思います。さらに言うと、そういう人って「損をしたくない」っていう気持ちがすごく強い。確実に利益が出そうなものにしかお金を使わないので、結果的に手に入るリターンも小さくなってしまう。


藤原

競馬のオッズとかと同じで、確実に儲かりそうなものはリターンが少ないですからね。

安田

そうなんです。だから本当に儲けたければ、「同業他社が1円も使わないもの」とかにお金をかけることが大事で。同業他社が1000万円かけたからうちは1200万円かけるぞ、という人もたまにいるんですけど、それでは大きな差は出ないわけですよ。


藤原

そうですよね。多少は効果が出るでしょうけど、他社も同じようなことを考えているわけですから、どうしたって一人勝ちにはならない。

安田

そうそう。一方で、「他社が1円もかけてないもの」って全く効果が出ない可能性もある反面、確変してものすごく跳ねる可能性があるわけです。それこそ数十万の投資で、何千万、何億ってリターンになるかもしれない。


藤原

ありますよね。単発では効果が出なくても、徐々に「確変の芽」みたいなものが出てきたり。

安田

そうなんですよ。業界で誰もホームページなんか作ってない時にホームページを作ったり、リスティング広告なんて誰もやってない時にやってた人って、やっぱり成功しているわけです。


藤原

うーん、でも大体の中小企業の経営者さんってその時はやらないんですよね。

安田

そうですね。地域の同業者がある程度やって成果が出始めて、半数くらいまでいくと安心して皆がやるんですけど、もうそこには旨味はない。


藤原

その理屈が理解できたとして、実際にやる人ってどのくらいなんでしょうね。

安田

100人に1人もいないですね。1000人いたら2~3人っていうところじゃないかな。


藤原

そんなに少ないんですね。だからこそ成功するんでしょうけど。

安田

松下幸之助さんの講演を聞いて、実際にその通りにやったのが京セラの稲盛さんだけだった、という話は有名ですよね。


藤原

「こんなに成功哲学を教えてもらったら、皆成功するぞ」と思っていたら、周りの人は「そんな抽象的な話じゃなくて、明日の売上を増やす具体的な方法を教えてくれ」って聞きに行ったらしいですね。

安田

そうそう。その差は大きいですよね。成功体験ってどうしたって抽象的になるじゃないですか。具体的に教えたとして、その通りにやったからといってうまくいくものでもないし。


藤原

つまり「どうやったらうまくいくか」じゃなくて、「なぜうまくいったのか」という原理原則を理解することが重要なんですよね。

安田

仰るとおりだと思います。それなのに皆「答え」を知りたがる。


藤原

ええ、まさに。確実に儲かるものにしかお金を使いたくない人って、とにかく具体的なことを知りたがりますもんね。

安田

でも冷静に考えれば、「確実に儲かります」っていうものほど怪しいはずじゃないですか。そんなものが本当にあったら人に教えずに自分でやるわけで(笑)。「こうやったら売れる」という本を買って、その通りにやったのに売れなかったという営業マンも似たようなことをしていると思いますね。


藤原

そう考えると、「答えが書いてあるもの」はほとんど役に立たないですよね。きっと皆、それを経験として知っているはずなのに、やっぱり答えを求めてしまう。抽象的な話を聞いた時に、自分ごとに置き換えて具体化できる人かどうかが分かれ目のような気がします。

安田

ああ、確かにそうですね。そして逆に抽象化能力の高さも必要ですよね。たとえ答えを聞いたとしても、なぜその答えに行き着いたのかということを抽象化して、さらに自分の場合はどうかと具体化する。具体化能力がある人は多いんですけど、抽象化能力は決定的にかけている。

藤原

なるほどなぁ。確かに言われてみるとそうですね。

安田

具体的なことを各論に落とし込んでいくのは、真面目な人ならできたりするんです。それよりも「そもそも何のために経営をやってるんだっけ?」みたいなところですよね。

藤原

わかります。「何のために人を雇ってるんだっけ?」ということだったりね。私も紆余曲折あって、やっとそこに辿り着いたわけですけど。

安田

経営者に限らず、日本人全般でそれを考えられる人はものすごく少ないと思います。教育の影響もある気がしますね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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