第53回 「格差是正」の先に待つ、総貧困時代

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第53回 「格差是正」の先に待つ、総貧困時代

安田

一般的に格差って悪いものとされてるじゃないですか。「格差こそが諸悪の根源だ、格差があるから世の中がよくならないんだ」みたいに言う人がいっぱいいる。


藤原

Xで投稿をしていても、そういう反応をもらうことがありますね。

安田

まさにそうなんですよ。でも個人的にはすごく短絡的な意見だなと思っていて。だって、今のお金持ちが全員貧乏になったところで、貧乏な人がその分お金持ちになるわけじゃないでしょう?


藤原

そうなんですよね。例えば極端な例として、金正恩の全財産を北朝鮮国民全員で分けたとしても、一人あたりに行きわたる額はわずかで、生活水準が劇的に改善されるほどではない。

安田

そうそう。だから、格差が善なのか悪なのかはさておき、「格差の是正」は別にすべてを解決する方法じゃないんです。格差がなくなったところで、全員が幸せになるわけじゃないわけで。


藤原

仰るとおりですね。しかも日本で語られる格差って、たとえばヨーロッパの昔の身分制度とか、インドのカーストみたいな話とは別じゃないですか。本人がどうあがいても逃れられないような格差ではないというか。

安田

そうですよね。政治家の地盤を継ぐ二世議員とか、親が金持ちだとか、そういうアドバンテージはあっても、別に身分制度みたいなもので規定されているわけじゃない。たとえそういう有利な条件がなくても、本人の努力次第で政治家やお金持ちにはなれるわけで。


藤原

わかります。しかもいま日本で言われるお金持ちって、別に年収◯億みたいな話じゃないでしょう? 「年収1000万円以上」くらいのものじゃないですか。それくらいならゼロからでも十分に手が届く可能性がある。多くの人がそれに向けてまじめに努力すれば、全体の豊かさは底上げできるはずなんですよね。

安田

そうそう。今は平均年収が450万円くらいなので、それを2倍強にすればいいだけなんです。そう考えるとやる気があって真面目にやれば全然余裕で実現できると思うんですよねぇ。


藤原

でもなぜか皆、「格差是正」の方に考えが向かっていくんですよね。自分が上がるんじゃなく、上を自分の所まで下ろそうとする。

安田

本当にそうなんですよ。世間がそうなので、メディアや選挙もそういうメッセージを発するようになる。「格差是正を掲げた方がウケがいいぞ!」ってことで。


藤原

ああ、確かに。「今あるところから取って、ない人に配る」というのがわかりやすい構図なのかもしれませんね。

安田

そうそう。でも先ほどの北朝鮮の話同様、お金持ちからさらに税金を取って全国民に分配したところで、一人頭で考えたら大した金額にならないんですよね。例えば1億円以上稼いでる人は、そもそも収入の7割近くを税金や社会保険料で取られているわけで、その「残り」を全国民に配ってもタカが知れている。


藤原

そうなんですよ。それなのに「お金持ちからお金を取って、貧乏な人に配れば国民は豊かになる」と信じている人が多い。根っこにあるのは「他責思考」なんでしょう。

安田

ふーむ、なるほど。自分が悪いわけじゃなくて、仕組みが悪いんだと。確かにそう考えれば、一時的には気持ちが楽なのかもしれませんけど。


藤原

仕組みや政治が悪いから自分は悪くない、むしろ割を食ってる側なんだという理屈ですよね。「だったら儲けてるズルい奴らからお金を回収して、真面目な俺たちに配ればいいじゃないか」という。

安田

そうやって足を引っ張れば引っ張るほど、皆が稼ぎにくくなって貧乏になっていく気がしますけどね。皆が豊かになるよりも、皆で仲良く貧乏になる方を望んでるんじゃないのかとすら思えてきます。


藤原

いや、まさに。実際にそう思ってる人もいるんじゃないですかね。人の成功が許せなくなってる人、増えている気がしますよ。

安田

確かに日本全体にストレスが充満してきてる感じですよね。でも一方で、年1000万円以上稼ぐ人はたくさんいるわけですよ。彼らだって自分たちと同じ制度の中でやっているわけで、決して上に行くことが無理なわけじゃないんです。でもなぜかその事実には目を塞いでしまう。


藤原

確かに。それで思い出したんですが、中国って社会主義じゃないですか。でも中国人の国民性としては、平等よりも競争が好きらしいんです。放っておくとガンガンに競争し始めてしまうから、その国民性を社会主義で抑えているんですって。

安田

なるほど、おもしろい話ですね。そう考えると日本はきれいに真逆ですよね。平等が大好きで競争が苦手なんだけど、資本主義っていう。


藤原

そうそう(笑)。つまり日本は資本主義で一生懸命「競争しろ、競争しろ」と焚きつけているわけですよね。でも本質的には社会主義の方が親和性が高いという。

安田

確かに、言われたことをきちんと遂行することに長けている人が多いですからね。外資が入るとアレルギー反応を起こす人もいますけど、むしろその傘下に入って言われた通りにやる方が労働者の給料は増えるのかもしれない(笑)。


藤原

確かに(笑)。ある意味「組織の歯車」になる方が向いているのかもしれませんね。それが外資のようなきちんと儲かっている会社であれば、給料もたくさんもらえるでしょうし。

安田

そうですね。ただ問題の根本は、心のどこかで豊かになることに自分でブレーキをかけている人が多いことですよ。それがあるから他人の成功も許せなくなっていく。「出る杭を打つ」みたいに上から押さえつけられているような言い方をされますけど、実際は下から皆が引っ張っているのかもしれませんよ。

 

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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