第60回 「思考するバグ」がもたらす新しい視点

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第60回 「思考するバグ」がもたらす新しい視点

安田

私も藤原さんも、何かにつけて「本当にそうなのかな?」という違和感を持つことが多いですよね。だからこそこうして思考をぶつけ合うのが楽しいわけですが(笑)。一方で、あまり疑問を抱かずに日々を過ごしている人もいるわけじゃないですか。そこが不思議だなぁと。


藤原

確かにあまり疑問を抱かず日常を過ごしている人は多いでしょうね。私たちのように、ちょっとしたことにも引っかかりを感じるのは、少数派なのかもしれません。

安田

そうなんですよ。いちいち疑問を抱かないことが「スタンダードな生き方」だとするなら、私たちはシステムでいうところの「バグ」的な存在なんじゃないかとさえ思うんです(笑)。


藤原

なるほど、面白い表現ですね(笑)。でも実際、流れに逆らわず身を任せている方が、効率的でスムーズな場合も多いですからね。

安田

とはいえ、疑問を持たずに生きている人って、私からすると映画のエキストラみたいな感じがするんです。いないと物語は進まないけど、顔も名前も出ない存在というか。まぁ、ものすごく自己中心的で失礼な考え方だとは分かっているんですが(笑)。


藤原

つまり「必要だけど、交換可能な存在」のように見えてしまうと。

安田

まさにそういうことです。なぜそれほど疑問を持たず生きていけるのか、やっぱり不思議で仕方ないんですよね。


藤原

うーん、私も「なんでも疑問に思っちゃう派」なので、安田さんと同じ気持ちではあるんですけど(笑)。でも逆に言えば、そういう生き方の方が楽そうでいいなとも思いますよ。それに、全員が私たちのような「疑問タイプ」だったら、社会が回っていかない(笑)。

安田

確かに(笑)。とはいえ、私はこういう人間なので、今更「疑問を感じない人」にはなれない。そして人間はやっぱり自己肯定したい生き物なので、「疑問を感じないまま生きるなんて、なんてもったいない人生だろう」なんて考えちゃうわけです。


藤原

安田さんは以前、著書でも「ちくわの穴」についても疑問を持ってましたもんね。ちくわの穴はちくわの内側なのか? 外側なのか? っていう。そういう普段ならスルーしがちなテーマにも面白さを見いだせるのは、特別な才能なのかもしれませんね。

安田

まぁ、そのせいで苦労もするわけですけどね(笑)。周りからは「なんでそんなどうでもいいことに疑問を持つんだよ」なんて言われて。


藤原

わかります(笑)。僕もそれで苦労しました。特に学生時代はひどかったなぁ。周りから全然理解してもらえなくて。

安田

ああ、確かに私もそうでした。学校って、言われたことを素直にこなした方が圧倒的に有利な仕組みじゃないですか。余計なことを考えると苦労が増えるんですよね。


藤原

そうそう。テストでいい点を取るとか、先生や親に褒められるとか、そういう評価軸が決まっていて。その軸自体に疑問を持ってしまうような子は、ひたすら生きづらい(笑)。

安田

でも人間って好奇心と探究心のおかげでここまで繁栄したわけでしょう? 「ここに留まる方が安全だ」という固定観念を壊してまで、新しい土地や文化を求めて動いてきた。それが人類の進化の原動力だったわけで。


藤原

仰るとおりだと思います。ただ昨今はテクノロジーや医療がものすごく進歩して、言わば「考えなくても生きていける」ようになった。俯瞰で見れば、それ自体は人類にとっての大きな幸福なんだとも思います。

安田

その理屈もよくわかるんですよ。先ほど話したように「疑問を持つ」ことは周囲とのハレーションを生みがちですから。ただね、じゃあみんな本当に「考えなくても生きていける」ようになったのかというと、むしろ不安を抱えたり鬱になったりする人が増えているようにも感じるんですよ。


藤原

ああ、確かに。それは「日常的に疑問を持ってこなかった」ことの弊害なのかもしれませんね。平和に過ごしていける間はいいけれど、いざ何かの問題に直面した時に「考える」ことができない。やがてそんな自分に絶望し、「何のために生きているんだろう」と行き詰まってしまうと。

安田

そうそう。そういう意味でも「考えない」ということが幸せにつながるとはどうしても思えなくて。私からすれば、皆「常識」を信用し過ぎなんですよ。「健康診断は早期発見が大事だから毎年受けるべき!」みたいなね(笑)。


藤原

ずいぶん具体的な例が出てきましたね(笑)。まぁでも、会社の健康診断なんかは、皆ほとんど惰性で受けているだけですもんね。自分の頭で「考え」て、「よし、今年は受けておくべきだ」と結論付けている人が何人いるのかって話ですよ。

安田

そうそう。だから私も色んな人から「とりあえず行っといたほうがいいよ」なんて言われるんですけど、「それは本当にあなたの考えなんですか? 常識だからそう言っているだけじゃなんじゃないですか?」と突っ込みたくなってしまって(笑)。


藤原

笑。安田さんからすると「考えが浅い」ように見えてしまうんでしょうね。将棋でいえば「一手先だけ読んで行動してる」感じに見えてしまうのかもしれませんね。まあ、多くの人はあまり難しいこと考えたくないんだと思いますよ。

安田

でも我々は残念ながらそういう性分じゃない。システムのバグなので(笑)。


藤原

笑。バグだとしても、必要なバグだと思いますよ。 世の中に少数でも「変だよね?」と声を上げる人がいないと、それはそれで社会がおかしくなる気もしますから。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

Twitter

1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから