人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。
第9回 「従業員」という言葉は使ってはいけない?
藤原さんが経営されている「従業員満足度研究所株式会社」ですが、なぜ「社員」ではなく「従業員」という言葉を選んだんですか? 従業員という言葉には、「従わせる」というニュアンスがあって少しネガティブな印象も受けるんですが……。
安田さんが仰る通り、私も「従業員」という言葉にはあまりいいイメージは持っていなくて。社長仲間と話していても、「うちの従業員が使えなくて……」みたいな言い回しによく使われますし。
ああ、確かにそういうイメージです。
ですよね。じゃあ「社員」の方がいいかと言われると、こちらは「正社員」のイメージが強すぎてしまう。パートさんやアルバイトさんが排除されてしまう気がして。
なるほど。そうかもしれません。
だから「事業に関わる全員」というニュアンスのある「従業員」を選んだ次第です。「理念」や「クレド」を掲げて同じ目的に向かっていく仲間たち全員、ということですね。そういう意味では社長だって「従業員」なんですよ。
ああ、つまり「社長に従う人たち」ということではなく、「共通の目的に従う人たち」という意味なんですね。そう考えると、「うちの従業員がさ……」という言い回し自体がそもそも間違っていると。
まさにそういうことです。でも、「自分自身も従業員なんだ」という認識の経営者はあまりいないでしょうね。どうしても「皆は自分に従っているんだ」と思ってしまう。
つまり一般的な社長が使う「従業員」と、藤原さんが社名に掲げた「従業員」は、そもそもの意味から違っているわけですね。
そうだと思います。とはいえ、私も社内では「従業員」という言葉は使わないんですけどね。
え、そうなんですか? それはなぜ?
まさにいま話していたように、どこか傲慢なニュアンスを感じさせてしまうからです。もちろん「従業員っていうのは、社長も含まれるんだよ」という話をすることもありますが、だからといってその定義付けを押しつける気もなくて。
でも、じゃあ、実際はどう呼んでいるんですか?
特に代わりになる呼び方はありませんね(笑)。「みんな」とか「私たち」みたいな言い方をしますかね。
へぇ。「スタッフ」とか「メンバー」とかも使わない?
現場では使わないですねぇ。メールマガジンなど外向けの発信ではたまに使うことはありますが、それも便宜的にわかりやすいからで。
ふぅむ、興味深いですね。そこに藤原さんの考え方がよく現れている気がします。便宜上そういう言葉を使うことはあっても、実際の仕事の現場には持ち込まない。
ええ。経営者は王様でも独裁者でもなく、単に会社のメンバーの一人に過ぎません。だから当然、行動指針も守らなきゃならない。
ああ、そういう意味では、社長自身が行動指針を守ってないケース、ありますよね。ああいうのはダメだと。
その通りです。社長が「これは(自分じゃなく)君たちが守るルールだから」というスタンスで作ったものには意味がありません。当然、社長自身も守るんです。むしろ率先してそれを実行する人でなければならない。
逆に言えば、もし社長がクレドに反したことをしていたら、社員が指摘してもいいってことですよね。
ええ。「いや、社長それは違いますよ!」「クレドに沿っていないんじゃないですか?」って言えないと意味がない。
いまこれを読んで「えっ、そうなの!?」なんて思っている経営者さんもいそうですが(笑)。でも国とかで考えると当然なんですよね。どんな偉い立場にいる人も、法律や憲法は守っている。それと同じで、つまり行動指針の方が社長命令より上になければいけない。
その通りです。評価制度についても同じで、誰かが行動指針に反したら評価が下がるわけですが、そのルールからは社長も免れない。社長だろうが評価を下げるべきなんです。
なるほど、すごくわかりやすいです。ちょっと話は変わりますが、海外ではエンプロイヤー(雇用主)とエンプロイ(雇用者)のように立場をハッキリと分けていますよね。日本でいう上級公務員などのキャリア組と、市役所の一般職員などのノンキャリア組みたいな。
ああ、そうですね。
これについては藤原さんはどう思いますか? このような区別は、従業員満足度にも影響しますか?
うーん、個人的にはそれは「上下の区別」ではないと思っていて。あくまで責任範囲や仕事内容による区分けに過ぎない。
ああ、なるほど。ただ「違う」ことを示しているだけだと。そういう意味では藤原さんの意見と矛盾するものではない。
ええ。社長だから偉いわけでもないし、パートさんだから偉くないわけでもない。だから、区別があることと従業員満足は必ずしも相関するわけではないと思います。区別があろうがなかろうが、それぞれの立場で何をするのか、どう伝えていくのかが重要なわけで。
そしてその指針となるのが行動指針などだと。
そういうことですね。「理念や行動指針に沿っていないのであれば、どんどん指摘してくれ」と言える経営者だと、従業員満足度は上がる傾向があります。
なるほど。重ね重ねこれを読んで「マジかよ…」となっている経営者さんがいそうですが(笑)、でも本来行動指針や理念というのはそれくらいの覚悟を持って決めるものですよね。そうでなければ「絵に描いた餅」になってしまう。
はい、その通りです。もし従業員満足度が低くて悩まれている経営者さんがいらっしゃったら、「自分自身はクレドや理念に則った行動ができているか」を考えるといいと思います。
もしそれで「俺、クレドに則ってないじゃん」となったら、自分をクビにしないといけませんね(笑)。
対談している二人
藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表
1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。