第98回 時間を溶かす「空白」と、価値を生む「余白」

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第98回 時間を溶かす「空白」と、価値を生む「余白」

安田

藤原さんのメルマガに「忙しさを誇る人は多いけど、余裕を誇る人はあんまりいない」と書かれていて、本当にそうだなと。「本当に価値のある仕事は、時間を埋めることじゃない」と、最近よく仰ってますよね。


藤原

そうなんです。でも私も若い頃は「忙しく働くことが格好いい」と思ってましたよ。

安田

へぇ。藤原さんにもそういう時代があったんですね。


藤原

ええ。秘書がいて、分刻みのスケジュールをこなしている。自分の予定すら秘書に聞かないとわからない、みたいな社長を見て、「なんだかかっこいいな」と思っていました(笑)。でもある時「いや、それは違うだろう」と気付きまして。

安田

ほうほう。それに気付いたのはいつ頃なんですか?


藤原

40歳くらいじゃないかな。30代の頃はまだ「忙しい人=格好いい」と思っていた気がします。ちなみに安田さんは若い頃から気付いていたんですか?

安田

いやいや、私もそれくらいまでは「忙しい=かっこいい」と思ってましたよ。より正確に言えば、「忙しくしていないと社長として格好悪いんじゃないか」と思っていた。スケジュールが埋まっていない社長はサボっているように見えるんじゃないか、ダメなやつだと思われるんじゃないかって。


藤原

ははぁ、なるほど。周りの目を気にして、無理に予定を埋めてしまっていたわけですね。

安田

そうそう。それが40代半ばくらいになってようやく、やるべきことをやった上で「余白」があるのは、むしろいいことなんじゃないかと思い始めたんです。


藤原

そうなんですよね。さらにいうと、物理的な時間の余白以上に、「心の余白」が重要だなと。例えば、誰かからお誘いをいただいた時に「喜んで」と二つ返事で言えるかどうか。物理的にも心的にも「余白」がないと、即答できないだろうなと。

安田

確かに「心の余白」は大事ですよね。旅行に行っても、分刻みで予定を組む人っているじゃないですか。私、あれがすごく苦手で。


藤原

わかります。せっかく旅行に来たんだから、ゆっくりしたいですよね。

安田

そうそう。でもね、今までは単に「ゆっくりしたいだけ」だと思っていたんですが、藤原さんのメルマガを読んで、あれも「余白」だったんだなと気づきまして。


藤原

ああ、なるほど。確かに「ゆっくりすること」と「余白がある」はイコールではない気もしますね。

安田

そうそう! なんというか、道端の石ころ一つをじっくり眺める、みたいなことが「余白」だと思うんです。


藤原

ああ、わかるなぁ。一見無駄な時間にこそ価値があるんですよね。私は「想定外」の出来事がけっこう好きなんですが、「余白」がないとそれも楽しめないじゃないですか。

安田

ああ、わかる気がします。そう考えると最低限の目的だけ決めておくぐらいでいいんでしょうね。旅行なら、「この美術館だけは行こう」と決めて、他の時間は気ままに過ごす。


藤原

本当にそうですね。余白がない状態だと、たとえ海外に行ったとしても、大して楽しい出来事には出会えない気がします。

安田

そうですよね。私は39歳の時にスペインに一人旅をしたのが最後の海外なんですが、10代で初めてアメリカに行った時ほど感動できなかったんですよ。今思えば、あれも自分の「余白」がすり減っていたということなんだろうなと。

藤原

ああ、確かに。でもむしろ今の安田さんなら、きっと何倍も楽しめるんじゃないですか?

安田

ああ、そうかもしれない。最近は私、近所を歩くだけでも楽しいですから(笑)。

藤原

最高ですね(笑)。ただ一方で、「余白を作る」=「考えることをやめる」っていうのは違うんですよね。

安田

ほう、なるほど。頭を空っぽにすれば自動的に余白ができる、というわけではないと。

藤原

そういうことです。むしろ現代は、動画を延々と見続けたり、なんとなくテレビを眺めているだけで1日が終わってしまう。それは「余白を楽しんでいる」状態とはとても言えない。

安田

確かに! 余白どころか、むしろ情報過多と言うか、必要のない情報で頭がパンパンになってしまう感じですよね。江戸時代は、町人も能楽や和歌を楽しんでいたと聞いたことがありますけど、そういう優雅な感じとは全然違う印象を受けます。

藤原

そうなんですよ。今おっしゃった和歌や俳句なんて、まさに「余白」の娯楽ですもんねぇ。道端の草の芽吹きや季節が変わる風の微かな流れが歌われているわけで。余白のない人に無理やり俳句を詠んでもらっても、面白いものは出てこないでしょう。

安田

つまり自然の豊かさや感情の機微などを感じ取れる「感受性」が大事なんですよね。「余白」とは、スケジュールの空白のことだけを指すのではないと。

藤原

ええ、まさに。時間や心の余裕だけでなく、もっと概念的なものなんでしょうね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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