日曜日には、ネーミングを掘る #044 椿ちゃん

今週は!

私の今年の仕事始めは4日。
当日は自宅のある鎌倉から
少し早めに東京に出て、
日本橋室町にある利久庵で、
大好きなかしわ南を食べてから
仕事場に行きました。

日本橋は、大路小路、大賑わい。
それでもなんとなく
落ち着きのあるところが、
この街の良さなのでしょうね。

東京・日本橋界隈といえば、
江戸時代からつづく
老舗が多い地区としても有名ですが、
なかでも馬喰町にある柳谷本店は、
1615年創業、
日本最古といわれる化粧品メーカーです。
椿を原料とする鬢付け油からはじまり、
大正時代には男性用整髪料
『柳屋ポマード』を開発。
植物素材にこだわった商品づくりで
ファンを増やしていきました。

こんな歴史ある同社ですが、
1990年代に入り経営難に陥ってしまいます。
時代のニーズが爽やか系に移るにつれて
看板商品であったポマードが
おやじ臭いとの印象を持たれ、
売上が激減。一時は、
廃業の危機とまで言われました。

そんな老舗企業を救ったのが、
2004年に発売された『椿ちゃん』です。
昔から日本女性に愛されてきた椿油を、
クリームと併せてべたつきを抑えて
売り出したところ、
口コミで売り上げを伸ばし、
翌年には54万個を販売。
その後、シリーズも続々と生まれ
会社のV字回復を支えてきました。

コンセプトとネーミングを考えたのは
当時のまだ20代だった女性社員。

「椿油の『椿ちゃん』なんてどうですか?」

と企画会議の場で思い切って
提案したのだそうです。

「広告予算もないし、とにかく
店頭で目立たないと思って付けた名前です」

案の定、

「そんなふざけた名前、話にならん」

と全員が反対。
そんななかでただ一人

「いいじゃん。かわいいじゃん」

と賛成してくれたのが、
外池栄一郎社長でした。

長い前段になってしまいましたが、
このネーミング、正直言って、
プロのコピーライターに依頼したら
生まれてこなかったと思います。
仮に私に依頼がきていたとしても、
思いついたかもしれませんが、
提案はしないでしょうね。
「この人なんにも考えていなんじゃない?」
と言われるのが怖くて、もっとひねった、
老舗の対極にあるようなスマートな
名前を出すように思います。

『油美人草』とか『Hair’s Heaven』とか
(いや~売れなそう)

ネーミングはプロに依頼するもの
と考えがちですし、
実際プロの方が当たるアベレージは
高いと思います。でも、
ときには今回のケースのように
社員の「無防備さ」「無鉄砲さ」に
かけてみるのもひとつのやり方ですよね。

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