「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第4回 「新しい通貨と日本の教育」
前回「使えるお金・使えないお金」では、お金を使うのも能力、稼ぐだけが能力じゃない。という話で締めくくられました。さて、今回はお金の使い方を説明するのかと思いきや、通貨自体を考えます。快適に使うにはどんな能力がいるのでしょうか。
お金の代わりに「人気」とかが、通貨になるといいですよね。
人気がある人は「タダでなんでも手に入って、なんでもサービスしてもらえる」みたいな?
そうなったら素敵じゃないですか?
確かに。いい人が増えそうですよね。
でしょ。
でもそれで全員は、幸せになれないような気もします。
どうしてですか?
たとえば、みんながいい人で人気者になったら、みんな豊かになるんですか?
なると思いますよ。
でも全員の収入が10倍になっても、全員がお金もちにならないですよね。
ならないですね。お金の価値が下がるだけ。
それと一緒じゃないですか。全員の人気が今の10倍になっても、人気の価値が下がるだけ。
いや、そうはならないと思います。お金の価値は相対的な評価で決まりますから。
人気は違うと?
人気は絶対的な評価だと思います。人気があると周りの人が協力してくれるじゃないですか。
この人のために、何かやってあげようと?
はい。「協力してくれる人が多い」ってことと、「お金をいっぱいもってる」ってこととは違う。
どう違うんですか?
次元が全然違います。みんながお金持ちになったら、より、たくさんお金をくれる人にしか協力しなくなる。
人気の場合はどうなんですか?
みんなが人気者になったら、みんなに協力するようになって、みんなが協力してもらえる人になる。世の中は一瞬で豊かになりますよ。
なるほど。でも、どうなんですかね。評価社会、人気社会とか言われてますけど、自分の回りを見ていたら、そんな風にみえないですよ。
どんな風に見えますか?
みんな、お金になることしかやらない。
残念ながら、人気はまだ通貨になってないので。
人気を通貨にするためには、何が必要ですか?
信用ですね。人気という通貨の信用。
人気という通貨がきちんと豊かさをもたらしてくれたら、信用も高まりますね。
そのためには、順番が大事なんですよ。
まず、人気のある人になる。
はい。そのためには、無償で人に喜ばれることするとか、困っている人の役に立つとか。
でも、やらないですよね。
やらないですね。洗脳されてますから(笑)。
豊かになるには「お金を手に入れるしかない」という洗脳でしょうか?
そうです。実際、学校では「人気者になる」ために勉強するのではなく、「稼げるようになる」ために勉強してますので。
そうですよね。
最初からそれですから。今の学校教育は「要らないこと」ばかり教えています。
でも文字読めなかったら学習もできないですよ。
マンガ読みたいと思ったら、一生懸命辞書を調べて自発的に勉強しますよ。
そうですかね?
外国の子供なんかそうじゃないですか。
確かに。「マンガ読むために日本語勉強してる」って子供、いますもんね。
でしょ。お兄ちゃんがマンガ読んで面白そうにしてたら、気になるでしょ?
「それ何なの?」って聞きますよね。
字読めなかったら「これ教えて」って聞くと思うんですよ。
私のお兄ちゃんは、そんなに親切じゃなかったですけど。
だから、お兄ちゃんに「辞書調べろ」って言われて、辞書片手にマンガよんでるうちに、すらすら読めるようになって、他のマンガも読みたくなる。
辞書使うのだって文字がいりますよ。
もちろん、最初は誰かから教えてもらうしかないです。
じゃあ、学校で教えるのと何が違うんですか?
動機です。「これ教えて」と自分から聞きたくなるかどうか。
無理やり教えるのではなく。
そうです。日本の教育は、好奇心からスタートしない。決まったカリキュラムを教えるだけ。
「稼げる人」になるためのカリキュラム?
というよりも「企業が稼がせやすい人」にするためのカリキュラムですね。
結局、稼げる人にはなってないですけどね。
もはや時代に合ってないんですよ。
じゃあ、教える内容を変えたほうがいいと?
内容も大事なんですけど、もっと大事なのは「教え方」ですね。
言語の教え方って、昔と今は違うんですか?
昔は物語で伝承していたわけですよ。「昔々あるところに…」って。演劇とか歌とか。つまりエンターテインメントを通して、みんな学習したわけです。
なるほど。
学校の勉強ってそうじゃない。エンターテインメントじゃないので。
なぜエンターテインメントが必要だったんですか?
だって面白くないと、誰も興味を持たないじゃないですか。
今は興味がなくても、みんな勉強しますよね。
それが逆に怖いんですよ。最初から、勉強は面白くないものだと割り切ってる。
なんで割り切れるんでしょうね。
親も、先生も、決まったカリキュラムを学んで「稼げる社会人になること」が正しいことだと信じてるんですよ。
だから子供もそれを信じてしまうと?
だって周りの大人がみんなそうだったら、もう洗脳されちゃいますよ。
悲しいですね。学問って、金儲けの為だけにやるものじゃないと思うんですけど。
でも実際に「稼げる人になる」ために教えてます。間違いなく。
でも、不思議なんですけど。
何がですか?
だって、そこまでこだわってるのに、全然「稼げる人」になってないじゃないですか。
だから、時代に合ってないんですよ。昔はそれでいい会社に入って、稼ぐことができた。
でも今は稼げない。このカリキュラムって、ものすごく頭がいい人たちが考えてるわけでしょ。なぜ時代に合わせて変えないんですか?
変えないんじゃなくて、変えられないんですよ。もともと自分たちで作ってないので。
え!自分で作ってないんですか。
つくられたものを輸入して、義務教育としてやってるだけ。
なんと。
フィンランドとかは、教育をバリバリ変えてます。宿題はゼロ。でも世界トップランクの学力です。
宿題やればやるほど頭が悪くなるって、あれホントなんですか?
本当です。
だったら、やめればいいじゃないですか。自分で作れないんだったら、またフィンランドから輸入すればいいんですよ。
いや、無理ですね。
何故、無理なんですか?
今までの教育が間違ってたと、認めなくちゃいけないから。
認めたらいいじゃないですか。
誰が認めるんですか?
それは、カリキュラムを作ってきた責任者とか。
そんなことするわけないじゃないですか。
責任を取りたくないってことですか?
もちろん、それもありますが、そもそも忖度し合って物事を決めているので。
責任者がいないと?
「私が決めました」「すべて私の責任です」みたいなことには絶対になりませんね。
それは昔からなんですか?
いや。敗戦のショックと、そのあとの洗脳じゃないですか。
では、その前は?
バリバリ変わってたんじゃないですか。
敗戦でどう変わったんですか。「お前たちはもう考えるな」と言われたとか?
あれだけの失敗体験をしましたから。総国力をあげてやってきて、打ちのめされて、自分たちが信じてきたものを全て否定された。
それで何を信じていいのか、分からなくなったと?
はい。そういう状態の時に、アメリカから道筋を与えられて、民主主義・資本主義の国になっていくわけですけど、自分たちで作ったものは何もない。
じゃあ、もうずっと、戦後70年も、自分たちでは作っていないと?
そういうことです。
じゃあ、教育はなぜアメリカ方式になっていかないんですか?
なってますよ。稼ぐ人材を効率よく育てる教育。
アメリカの教育って、答えを教えるのではなく「自ら課題をみつけて、それを解決していく」というのが根幹じゃないんですか?
なんか、そういうイメージがありますよね。
ただのイメージですか?
文化としてはあると思います。個の文化ですから。でも私は、アメリカ式の教育が進んでいるとは全然思わないですね。あそこは貧富の差で教育がきまる。
優れているのはエリートだけだと?
そのエリートも、保守的な人がものすごく多い。
確かに。世界の中で、今アメリカは浮いちゃってますからね。
アメリカの真似をしていればいいという時代は、もう終わりつつあります。
でも日本の政治家や官僚は、アメリカから離れられるんですか?
いや、無理でしょうね。
…次回第5回へ続く…
場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談
| これまでの取説をピックアップ |
第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。
第2回:「お金が崩壊するとき」
お金の価値が変わると、お金を稼ぐ方法、稼ぎたい理由も変わってきます。