「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第25回「下がるべくして下がった生産性」
前回第24回は「コントロールからサポートへ」
労働法の改正が動き出しました。
ですね。もう待ったなしでしょう。
ポイントは「残業させない」「有給休暇をきちんと取らせる」ってことですよね。
生産性を高める方向に「舵を切らせる」ということですね。
労働時間を減らして、それで収益が上がらないんだったら「退場してくれていいよ」ってことですか。
そういうことですね。
ある意味、企業の選別が始まってると。
はい。始まりました。
労働人口が増えない以上、1人あたりの生産性を上げるしかないですもんね。
「労働時間を増やしてGDPも増やす」ということの限界が来たってことです。
どんなに頑張っても、24時間以上は働けないですから。
そうです。生産性を上げる方向に舵を切るしかない。だから、そういう企業を増やしたい。
で、そういう企業を増やすために「長時間働かす」ことを法律で禁止したと。
そういうことですね。まだ分かってない経営者が多いですけど。
たとえば国が直接経営しちゃうってのは、どうなんですか?
どういうことですか?
昔はやってたじゃないですか。国鉄とか。
国営企業をつくるってことですか?
国営企業にしちゃったほうが、コントロールしやすくないですか?
いや、国営化は無理ですね。今までも散々失敗してきましたから。
なぜ失敗したんですか?
国営企業っていうのは、効率化と真逆なんで。
なるほど。ちなみに法改正っていうのは、何を指針にしてるんですか?
やっぱり民主主義なので、大多数の人たちの意見に左右されますね。
そうなんですか?「一部の金持ちのための政治」とか言われてますけど。
いや、やっぱり政治の基本は大多数です。
じゃあ、政治家は大多数を見て法律を作ってると?
大多数は「ブラック企業はダメ!」「働く人たちの権利を守れ!」って思ってますから。
それは票のためってことですか。
もちろん。やっぱり政治家には票が必要ですから。
まずは円安にして、輸出してる大企業が儲かれば、下請けも儲かる。っていう理論でしたよね。
そういう方針でしたね。
でもイマイチうまくいってない。
もっと根本的な働き方改革が必要だってことに、気がついたんじゃないですか。
ようやく気がつきましたか。
はい。
でも票集めという意味ではどうなんですか。大企業がバックについてるイメージですけど。
「うちの会社は自民党寄りですから」とかいって、ある程度暗黙的な圧力で「投票せえよ」みたいな。
組織的に票を入れさせてましたよね。
はい。企業献金もあるし、やっぱり経団連とか大企業が力を持ってました。
今どうなんですか。「選挙、自民党に入れろよ」って言ったら、大企業の社員ってみんな自民党に投票するんですか?
それが業績に直結する場合は、そうなるでしょうね。
業績に直結する場合?
たとえば建設・土木業界とかは、民主政権になると「コンクリートから人へ」で公共投資の予算ががんと減る。
そういう業種は自民党に票が流れると。
はい。でも食品業界とかは、まったく関係ないので。
そういう場合はどうなるんですか?
トップが言って、表面上は「わかりました」ってなりますけど、実際は自由にやってる。
ということは、トップダウンでは「大企業の組織票」は動かないってことですか。
そうです。
じゃあ、一般国民にウケる政治をしたほうが、票は集まるってことですね。
そうだと思います。
今回の労働法改正ですけど。
はい。
普通に考えたら、働く人は「休みが増えたほうがいい」と思うんですけど。
収入が減らないなら、絶対そうですよね。
でも残業できなくなって、収入が減ってしまう。「改悪だ」って言う人も多いですけど。
だから一応、建前は副業推進とかになってるんですよ。
なるほど。副業推進とセットだと。
はい。「残業やめましょう」と「企業は副業を認めましょう」はセット。
それが出来ない会社は退場ですよと。
そうです。
じゃあ、目先の残業代が減るのはしんどいけど、最終的には労働者にメリットがある?
全体の最適化として、ちょっと痛みはあるけど「その流れをつくっていこう」ってことですね。
1人あたりの生産性を一定基準以上に高められない会社は、もうやっていけない。
やっていけなくなりますね、間違いなく。
中小企業って、まだまだ経営者の意識がそこにいってない人が多いですけど。実際つぶれますか?
2〜3割はつぶれると思いますね。つぶれるというか、引き継ぎしないというか。
潰すぐらいだったら、やる気のある若者に「安くM&A」してあげて欲しいですけど。
そういうケースは、もう出てきてますよ。
そもそもの話なんですけど。
はい。
なぜ日本だけ、こんなに生産性が落ちちゃったんですか?
気がついたら先進国最下位ですからね。
もう途上国にも抜かれ始めてます。なぜ日本だけ、こんなに落ちてきたんですか?
やっぱり洗脳教育じゃないですか。子どもたちに「努力」とか「一生懸命」とか、習字書かすじゃないですか。
「文句言わずに、効率が悪くても一生懸命やれ」っていう洗脳?
そう。「量をやれ」「時間かけてやりなさい」「継続は力なり」みたいな。
楽しちゃいけないよと。
「もっと楽できるんちゃうんか」とか、発信すること自体がアウトなんですよ。
先生が許してくれないってことですか?
仮に、先生に提案しても、まったくもって意見は通らないわけです。
それはなぜ?
カリキュラムが決まってるからです。「先生はこの順番でやっていきます」って言うしかない。
先生はどう思ってるんですか?教育委員会には言えない?
言えないですね、まったく。
言っても受け入れられないんですか。
受け入れられないですね。完全にガチガチに決まっちゃってるので、すべてが。
ということは、生産性は「下がるべくして下がってる」ってことじゃないですか。
はい。その通り。
つまり国策として「失敗した」ってことですか。
そうです。
「失敗した」っていう自覚はあるんですか?政府に。
いや、ないでしょうね。
なぜ?
「責任の所在」みたいなものがないから。それがこの国の、いちばん大きな問題なんですよ。
…次回へ続く…