「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第26回「50年かかる変化」
前回第25回は「下がるべくして下がった生産性」
労働法の改正で、企業の生産性を上げようって話ですけど。
はい。
企業を変えるんだったら、経営者だけじゃなくて、労働者の側も変えないといけないですよね。
当然そうなるでしょうね。
となると、根本である義務教育を変えないと、変わらないと思うんですけど。
いま変えようとしてますよね。
それは、どのように?
センター試験は、マークシートをやめて「筆記式にする」という話であったり。
それだけでは、変わりませんよね。もっと根本的な教え方を変えないと。
そうなんですけど。そういう教え方ができる先生がいないので。
じゃあ結局、変わらない。
変わらないんじゃないですか。
でも、変えないと。
安田さんだったら、どうやって変えるんですか?
たとえば今、生産性の低い会社を強制的に退場させようとしてますよね。
はい。労働法の改正ですね。
同じように、教育現場でも「できない先生」は退場してもらって、できる人と入れ替える。
先生は公務員なのでクビ切れないですね。
民間ではクビを切らせても、公務員はクビ切らないってことですか?
そうです。クビは切れないので、自然減を待つしかない。
私立の学校はどうなんですか?自分たちの判断で、教え方とか変えてもいいんですか?
小中は義務教育なので、カリキュラムが決まってます。小学校1年生で習う漢字とか。
そのカリキュラムは変えてもいいんですか?
いや、ダメです。私立の学校にも税金入ってますので。
税金入ってるから、文部省には逆らえないと。
そうです。
でも、国公立よりは、まだ私立のほうが変えやすい気がしますけど。
それは、そうでしょうね。
北欧の先進国とかでは、教育内容も教え方もどんどん変わってますよね。
宿題が廃止されたり。
ですよね。日本はなぜ変わらないんですか。
まず、親が変わらないと、ダメですね。
親ですか。
はい。親が「いい大学行けよ」って、塾に行かせてるうちは変わらないですね。
大学の入試基準が「記憶して点を取る」ことから変わったら、塾の教え方も変わるんじゃないですか。
受験を根本的に変えるには、大学の存在価値を変えていく必要があります。「何のために大学があるのか」みたいなこと。
順番からいったら、どこが最初に変わるんですか?もし日本の教育が変わるとしたら。
私は企業だと思います。今はまだ、そこをゴールに勉強しているので。
じゃあ、まず生産性高い会社しか残らなくなって、採用する人員も変わって、それに合わせて大学も変わる。
はい。就職の優位性がないと、大学に生徒が集まりませんから。
なるほど。じゃあ、企業が変わり、大学が変わり、高校が変わり……っていう順番ですか?
順番的にはそうなるでしょうね。
じゃあ、小学校までいくの、だいぶ先ですね。
だいぶ先です(笑)
そんなに先で大丈夫なんですか?
その間に外国から優秀な人材が、いっぱい入ってくるでしょうね。
いまこの時代でも「ひたすら暗記する」っていう授業はあるんですか?
普通にありますよ。必修科目として。
歴史の年表を覚えるとか、そういうのも?
小中学校はもちろんあります。基本なので。
最低限の知識が必要のは分かるんですけど。年号とかを覚えても、あんまり意味ないような気がします。
その通りですね。本当はテストもiPadみたいなのを持ち込み可にするべきなんですよ。
それは斬新ですね。
たとえば「江戸時代の特徴的な文化にこういうものがあります。なぜできたのかを検索してまとめなさい」みたいな。
年表を覚えるよりは、ずっと実用的なスキルですよね。
はい。
社会に出てもiPadとかを使って、検索しながら仕事しますからね。
そうなんです。iPadがあるのを前提で授業をやったほうが、理にかなってるんです。
海外ではどうなんですか? iPadを使った授業。
普通にありますよ。
やっぱり、あるんですか。
だって、ある方が自然じゃないですか。
検索できるってことが?
はい。「検索して解を求めよ」とか、「検索して論文書け」とか。
そうですよね。iPad使って答え導き出すのも、立派な能力ですからね。
そうです。
日本はまだ、ぜんぜん遠いですね。
中学までは、とにかく禁止が多いですよ。
そうなんですか。
うちの息子の行ってる中学なんて、昭和の校則がまだ残ってますから。
どんな校則ですか?
「三つ編みをしてはならない」とか。
なぜ、だめなんですか?三つ編み。
いや、わからないですね。
「三つ編みだめ」って、訳わからないですよね。
あとは「携帯を学校に持ってきてはならない」とか、修学旅行も「これを持っていってはならない」とか。
まあ、ルールは必要なんでしょうけど。あまり考えてない感じがしますよね。
考えてないですよ。単なる慣習みたいな。
あるべき教育って、泉さんはどう考えてるんですか?
私は「全体像を教える教育」が必要だと思ってます。
全体像?
大局的なことをしっかり教えてあげる。で「あと細かいことは自分で調べなさい」と。
「覚える必要があれば自分で覚えろ」と。
そうです。いちばん大事なのは、大局を教えること。
大局的なものの見方ってことですか?
そうです。何が大事なのかが分かる能力。
確かに。それ大事ですよね。
知識より思考力のほうが大事ってことは、みんな分かってるわけですよ。
政治家とか文科省の人とかも、分かってるんですか?
分かってるでしょうね。
分かってるけど、変えたくないってことですか。
いや、変えるのがものすごく大変だということです。
変えるためには、何が必要なんですか?
法律を変えないといけない、雇用のことも考えないといけない、先生たちの教育をやらなくちゃいけない、教科書も作り直さなくちゃいけない、などなど。
なるほど。
膨大なる作業が待ってるわけです。
いきなり教育革命みたいなことは起こらない?
今の体制では不可能ですね。
じゃあ、教育の根本が変わるには、かなりの時間がかかると。
このままだったら50年ぐらいかかります。
…次回へ続く…