変と不変の取説 第29回「改善の達人という自覚」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第29回「改善の達人という自覚」

前回、第28回は「リッチの定義が変わるとき」

安田

今年のゴールデンウイークは長かったですね。

10連休ですからね。

安田

実は先進国の中で、日本っていちばん休みが多いらしいですね。

祝日は多いですね。

安田

祝日はいちばん多い。にもかかわらず年間休日は少ないんです。つまり祝日にしないとみんな休まない。

日本人らしいですね。

安田

でも同じ10日間に全員で休んだら、ものすごく混雑するじゃないですか。どこ行くにも高いし、混んでるし、サービスの質も低下するし。

まあそうですよね。

安田

普通に考えたら、休みを分散したほうがいいわけですよ。好きな時に休めたほうが、ぜんぜんいい。でも、そうすると誰も休まないらしいです。

やっぱり日本人のベースには「みんなが頑張ってるのに、自分だけ楽したらあかん」っていうのが、あるんでしょうね。

安田

強制しないとやらない国民性なんですかね。明治の開国も、民主主義も、「強制されて仕方なく」って感じですけど。

戦争に負けて、無理やりGHQとかにつくられた部分はありますよね。

安田

でも結果的に、民主化して良かったという部分もあるわけで。外圧っていうか、強制っていうか、それがないと変わらないんですか?日本人って。

大きく変化させようと思ったら、外圧が必要なんでしょうね。

安田

変化が苦手なんですか?日本人は。

苦手なんでしょう。

安田

でも日本って、すごくニッチなものがたくさんあるじゃないですか。

ありますね。

安田

あれは発明じゃないんですか?発明って変化ですよね。

あれは改善でしょう。

安田

改善ですか?

改善とか工夫でしょうね。

安田

なるほど。変化せずに工夫し続けてたら、ああなったってことなんですか?

社会全体の構造を変えるような、ライフスタイルすら変えてしまうものって、日本からはあまり出ないですよね。自動車も発明してませんし。

安田

ウォークマンは「日本人が生活を変えた」みたいに言われてますけど。

ラジカセは元からあったじゃないですか。重たいけど、持ち歩いてた人は一杯いた。

安田

じゃあ、元々あったものを小さくしただけ?イノベーションというよりは改善なんですか。

改善ですよね。超改善じゃないですか。

安田

超改善で、びっくりするぐらい小さくしたら「ライフスタイルが変わっちゃった」ってことなんですか?

はい。そうだと思います。

安田

ガラケーも日本独自の文化ですけど、携帯電話を日本がつくったわけじゃないですもんね。

そうです。

安田

じゃあ「iモード」と「iPhone」ではぜんぜん概念が違いますか?

違いますよね。iモードは改善ですから。iPhoneは発明。

安田

日本は「イノベーションの国だったのが、そうじゃなくなった」みたいに言われてますけど、実はもともと「改善の国」ということですね。

改善の国ですよ。イノベーションを見せてもらって、パクって改善するのは得意なんです。

安田

美術品とかはどうなんですか?改善を極めていったら、あんなに凄くなるんですか。

そうです。凄くなっちゃったんです。

安田

じゃあ、何百年もかけて改善していくことが、日本の凄さ?

はい。漢字なんかもそうじゃないですか。改善じゃないですか。そこから平仮名・カタカナできてますし。

安田

なるほど。平仮名・カタカナは、発明ではなく改善だと。

自分たちが使いやすいように、訓読みもつくり出しました。

安田

中国人がもう使ってない漢字とかも、いまだに使い続けてたりしますよね。

そうです。改善して使い続けてるんです。

安田

なるほど。じゃあ、改善は得意なんだけど、改革は「強制されないとできない」ってことなんですか?

そういうことでしょうね。

安田

じゃあ、日本人が「自ら休むようになる」みたいなことは、不可能なんですか?

なかなか難しいですよね。

安田

「うちの会社は社員が自由にやってるから、大きなお世話なんだ」っていう会社もありますけど。

もちろん、自立的にできる人も一部いて、そういう人たちからすると「邪魔しないでほしい」と思うんじゃないですか。

安田

ですよね。私も、いつ休もうが放っておいて欲しいです。

ただそういう変革者みたいな人たちは、日本の中ではマイノリティーなんですよ。

安田

これでも、ちゃんと生きてますけど。

マイノリティーなりに、頑張って生きてるってことじゃないでしょうか。

安田

そういうマイノリティーが活躍するようにはならないんですか?

たぶん改革の時期になったとき、マイノリティーの改革者たちが、すごく活躍するんじゃないでしょうか。

安田

そういう特殊な時期だけですか?基本は改善の国のままで。

そう思いますね。言ってもそれが日本の強さであり、価値でもあるので。

安田

確かに、刀とかもそうですよね。たかが刃物を、あそこまで仕上げるわけですから。

何百年もかけて、芸術品の域まで仕上げてる。

安田

「そんなに切れなくてもいいんじゃないか」っていうぐらい、切れますしね。研ぐだけでも何人もの職人がやってたり。

はい。鞘や鍔をつくるだけでも、ものすごい手が込んでるんですよ。

安田

でも信長が鉄砲使ったら、イチコロで勝てなくなっちゃいましたけど。

もはや武器の領域を超えて進化してるんですよ。だから美術品としてはすごい価値がある。

安田

やっぱり日本は改革で勝負しても勝てないですか?

勝てないですね。

安田

改革は定期的に取り入れながらも、改善をメインにしたほうがいい?

GoogleとかFacebookとかも、真似して、改善して、自分たちでガラパゴス化していけばいいんですよ。

安田

真似でいいと。

世界の松下電器だって「マネシタ電器」って言われてましたから。フィリップスはじめ世界中を探して、分解して、研究して、改善するみたいな。

安田

それはWebの世界でもできるんですか?

できると思います。

安田

AmazonとかGoogleをうまく使って、いかにそれを細かく改善していくか、みたいな。

そうです。

安田

インフラづくりにはあんま向いてないんですかね。日本って。

基盤づくりは、あまり向いてないですね。

安田

でも江戸時代とか、すごく安定してたじゃないですか。

今のものを安定させる基盤はつくれるんですよ。当時は100万都市って世界で江戸ぐらいで、下水道もしっかりしてて、ゴミも少なく、犯罪も少なかった。

安田

令和になりましたけど、天皇家も千年以上続いてますもんね。

いまの状態を安定させるインフラはつくれる。でも変革するインフラはつくれないんですよ、やっぱり。

安田

でも今って世界的に変革期じゃないですか。

ですね。

安田

これがちょっと落ち着いてきたら、日本人が本領を発揮しだすってことですか?

私はそう思いますね。

安田

じゃあ、スマホでのビジネスとかが当たり前になってきたら、日本の出番。

ニッチ領域はかなり強いので、そこを攻めていくといいですね。

安田

やっぱりニッチが得意なんですか?日本人って。

得意ですね。

安田

じゃあ、あんまりデカくしないほうがいいってことですか?グローバル企業とか。

正直、そこは向いてないと思いますね。

安田

たとえば、ものすごくニッチなAmazonみたいな?

そうです。「お米だけ売るAmazon」みたいな。

…次回へ続く…


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


| 第1回目の取説はこちら |
第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

感想・著者への質問はこちらから