「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第29回「改善の達人という自覚」
前回、第28回は「リッチの定義が変わるとき」
今年のゴールデンウイークは長かったですね。
10連休ですからね。
実は先進国の中で、日本っていちばん休みが多いらしいですね。
祝日は多いですね。
祝日はいちばん多い。にもかかわらず年間休日は少ないんです。つまり祝日にしないとみんな休まない。
日本人らしいですね。
でも同じ10日間に全員で休んだら、ものすごく混雑するじゃないですか。どこ行くにも高いし、混んでるし、サービスの質も低下するし。
まあそうですよね。
普通に考えたら、休みを分散したほうがいいわけですよ。好きな時に休めたほうが、ぜんぜんいい。でも、そうすると誰も休まないらしいです。
やっぱり日本人のベースには「みんなが頑張ってるのに、自分だけ楽したらあかん」っていうのが、あるんでしょうね。
強制しないとやらない国民性なんですかね。明治の開国も、民主主義も、「強制されて仕方なく」って感じですけど。
戦争に負けて、無理やりGHQとかにつくられた部分はありますよね。
でも結果的に、民主化して良かったという部分もあるわけで。外圧っていうか、強制っていうか、それがないと変わらないんですか?日本人って。
大きく変化させようと思ったら、外圧が必要なんでしょうね。
変化が苦手なんですか?日本人は。
苦手なんでしょう。
でも日本って、すごくニッチなものがたくさんあるじゃないですか。
ありますね。
あれは発明じゃないんですか?発明って変化ですよね。
あれは改善でしょう。
改善ですか?
改善とか工夫でしょうね。
なるほど。変化せずに工夫し続けてたら、ああなったってことなんですか?
社会全体の構造を変えるような、ライフスタイルすら変えてしまうものって、日本からはあまり出ないですよね。自動車も発明してませんし。
ウォークマンは「日本人が生活を変えた」みたいに言われてますけど。
ラジカセは元からあったじゃないですか。重たいけど、持ち歩いてた人は一杯いた。
じゃあ、元々あったものを小さくしただけ?イノベーションというよりは改善なんですか。
改善ですよね。超改善じゃないですか。
超改善で、びっくりするぐらい小さくしたら「ライフスタイルが変わっちゃった」ってことなんですか?
はい。そうだと思います。
ガラケーも日本独自の文化ですけど、携帯電話を日本がつくったわけじゃないですもんね。
そうです。
じゃあ「iモード」と「iPhone」ではぜんぜん概念が違いますか?
違いますよね。iモードは改善ですから。iPhoneは発明。
日本は「イノベーションの国だったのが、そうじゃなくなった」みたいに言われてますけど、実はもともと「改善の国」ということですね。
改善の国ですよ。イノベーションを見せてもらって、パクって改善するのは得意なんです。
美術品とかはどうなんですか?改善を極めていったら、あんなに凄くなるんですか。
そうです。凄くなっちゃったんです。
じゃあ、何百年もかけて改善していくことが、日本の凄さ?
はい。漢字なんかもそうじゃないですか。改善じゃないですか。そこから平仮名・カタカナできてますし。
なるほど。平仮名・カタカナは、発明ではなく改善だと。
自分たちが使いやすいように、訓読みもつくり出しました。
中国人がもう使ってない漢字とかも、いまだに使い続けてたりしますよね。
そうです。改善して使い続けてるんです。
なるほど。じゃあ、改善は得意なんだけど、改革は「強制されないとできない」ってことなんですか?
そういうことでしょうね。
じゃあ、日本人が「自ら休むようになる」みたいなことは、不可能なんですか?
なかなか難しいですよね。
「うちの会社は社員が自由にやってるから、大きなお世話なんだ」っていう会社もありますけど。
もちろん、自立的にできる人も一部いて、そういう人たちからすると「邪魔しないでほしい」と思うんじゃないですか。
ですよね。私も、いつ休もうが放っておいて欲しいです。
ただそういう変革者みたいな人たちは、日本の中ではマイノリティーなんですよ。
これでも、ちゃんと生きてますけど。
マイノリティーなりに、頑張って生きてるってことじゃないでしょうか。
そういうマイノリティーが活躍するようにはならないんですか?
たぶん改革の時期になったとき、マイノリティーの改革者たちが、すごく活躍するんじゃないでしょうか。
そういう特殊な時期だけですか?基本は改善の国のままで。
そう思いますね。言ってもそれが日本の強さであり、価値でもあるので。
確かに、刀とかもそうですよね。たかが刃物を、あそこまで仕上げるわけですから。
何百年もかけて、芸術品の域まで仕上げてる。
「そんなに切れなくてもいいんじゃないか」っていうぐらい、切れますしね。研ぐだけでも何人もの職人がやってたり。
はい。鞘や鍔をつくるだけでも、ものすごい手が込んでるんですよ。
でも信長が鉄砲使ったら、イチコロで勝てなくなっちゃいましたけど。
もはや武器の領域を超えて進化してるんですよ。だから美術品としてはすごい価値がある。
やっぱり日本は改革で勝負しても勝てないですか?
勝てないですね。
改革は定期的に取り入れながらも、改善をメインにしたほうがいい?
GoogleとかFacebookとかも、真似して、改善して、自分たちでガラパゴス化していけばいいんですよ。
真似でいいと。
世界の松下電器だって「マネシタ電器」って言われてましたから。フィリップスはじめ世界中を探して、分解して、研究して、改善するみたいな。
それはWebの世界でもできるんですか?
できると思います。
AmazonとかGoogleをうまく使って、いかにそれを細かく改善していくか、みたいな。
そうです。
インフラづくりにはあんま向いてないんですかね。日本って。
基盤づくりは、あまり向いてないですね。
でも江戸時代とか、すごく安定してたじゃないですか。
今のものを安定させる基盤はつくれるんですよ。当時は100万都市って世界で江戸ぐらいで、下水道もしっかりしてて、ゴミも少なく、犯罪も少なかった。
令和になりましたけど、天皇家も千年以上続いてますもんね。
いまの状態を安定させるインフラはつくれる。でも変革するインフラはつくれないんですよ、やっぱり。
でも今って世界的に変革期じゃないですか。
ですね。
これがちょっと落ち着いてきたら、日本人が本領を発揮しだすってことですか?
私はそう思いますね。
じゃあ、スマホでのビジネスとかが当たり前になってきたら、日本の出番。
ニッチ領域はかなり強いので、そこを攻めていくといいですね。
やっぱりニッチが得意なんですか?日本人って。
得意ですね。
じゃあ、あんまりデカくしないほうがいいってことですか?グローバル企業とか。
正直、そこは向いてないと思いますね。
たとえば、ものすごくニッチなAmazonみたいな?
そうです。「お米だけ売るAmazon」みたいな。
…次回へ続く…