さよなら採用ビジネス 第114回「行き場がないのはどんな人?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第113回「匠化する採用業界の未来」

 第114回「行き場がないのはどんな人?」 


安田

中小企業って「労働集約型のビジネスモデル」が多いですから、人がいないと回らないですよね?

石塚

まあ回らないでしょうね。

安田

そういう状況下でも、リストラは中小にまで波及するのか。石塚さんはどう思いますか?

石塚

よく日経新聞とかで語られる構図が、まさにいま安田さんが言ったことだと思うんですけど。根本的に構造の理解が間違ってます。

安田

間違ってますか(笑)

石塚

大手がリストラするのは基本40代以上の、年収が高い、要するにおじさん中心。

安田

そこがリストラの中心だというのはよく分かります。

石塚

大企業でも「低年収で事務や業務系の仕事をしてる人」って収支が合うんですよ。

安田

そこはリストラ対象ではないと。

石塚

もちろん。ここって意外にAI化・ロボット化できないんです。大企業がそぎ落としたいぜい肉は、あくまでも「高年収・低生産性」「高年収・低付加価値」の人材。

安田

そこは中小企業も同じですか?

石塚

じつは多くの人がイメージする中小企業って大きすぎるんです。

安田

大きすぎる?

石塚

実際の中小企業って、ほとんどの場合が年商10億以下。4億とか5億とかがせいぜい。それを20人以下でやってる。

安田

まあそうですよね。

石塚

そういう会社って侮れなくて。小さい分、固定費がかからないですから。

安田

確かに。20人以下って、いちばん儲かる規模かもしれません。

石塚

たとえば昨日も9名でやってる水道工事会社さんに行ったんですけど。聞けば聞くほどエクセレントなんですよ。

安田

へえ。

石塚

社屋なんて一軒家に毛の生えたような感じで、相模原の奥にあるんですけど。聞けば財務は優良、実績もすごい、技術があり。

安田

そういう会社って、地方に行くとたまにありますよね。

石塚

おっしゃる通り。で、求人の要望を聞いていくと「水道工事未経験でもいいから、35歳ぐらいまでで、やる気のある人をひとり」っていう。

安田

ひとり採れたら終了ですか。

石塚

「人が欲しい」って言っても、中小の場合は少ないんですよ。1人か2人で採用は完了しちゃう。

安田

その1人は確実に黒字化できるってことですか?

石塚

少数精鋭でやってるので生産性が高いんですよ。結果的に1人ぐらい抱えても育てられちゃう。中小企業の人手不足って一括りにされるけど、現場をキチっと見てほしい。

安田

すみません(笑)

石塚

中小企業の採用ニーズはあることはあるけれど、採用人数は少ない。3人採ったら、もう、おなかいっぱいですよ。

安田

じゃあ「いまいる社員のリストラ」はどうですか?

石塚

中小企業で「ちゃんと継続していく会社」って、総じて大手ほど「この人は切ったほうがいい」なんて人がいない。いてもせいぜい1人です。

安田

そうなんですか。

石塚

なんだかんだいって必要最低人数で回してるので。

安田

なるほど。

石塚

だから余剰人員って、中小企業にはそんなにいないんです。

安田

じゃあ、なぜ中小企業はこんなに赤字の会社が多いんですか?

石塚

赤字の会社が多いのは「値段を上げる」ってことができないから。儲かる仕事は大手は手離さない。つまり「もともと儲からない仕事を受けている」ってことだと思います。

安田

とは言え、社員全員が黒字だったら会社も黒字になるはずですよね。

石塚

中小企業は下請け仕事が多いですから。そもそもが値付けを間違えてる会社が多いんです。

安田

「値付けを間違ってる」ってことは、「安い仕事を取ってるから、さらに安い給料で雇わないことには赤字社員になっちゃう」ってことじゃないんですか?

石塚

社員の生産性が低いというより、「社員は普通だけれど、それでも儲からないような仕事を取ってきてる」ってこと。そこが根本的な問題。

安田

儲かるビジネスモデルの中小企業に移れば、給料分ぐらいは十分に貢献できると。

石塚

そうです。これからも続く中小企業ってそういう会社。ちゃんと儲かる値段で仕切るし、たとえ相手が大手でも儲からない仕事はやめた会社です。

安田

私の知る限り、そういう中小企業ってせいぜい2〜3割ですよ。言われたとおりの安値で受けて苦労してる会社がほとんど。

石塚

そういう会社はもう続かないと思います。続けたくても事業を承継したい人が現れない。忙しいばっかりで儲からない仕事って、息子や娘も継がないし。

安田

じゃあ中小企業の場合はリストラじゃなく、事業が続けられなくなって社員がマーケットに出てくるってことですか?

石塚

そうです。中小企業で人を手放すのは経営が厳しくなったときだけ。

安田

なるほど。

石塚

「ごめん、ちょっともう給料払えないから」って、ギリギリまでやってからの解雇。

安田

大手とはぜんぜん事情が違うってことですか。

石塚

事情が違う。いわゆる大手のような「先を見据えて、まだ余裕があるうちに不良資産を落とそう」っていう中小企業は、僕の知る限り1社も見たことないです。

安田

なるほど。大手の場合は儲かってるほどリストラしますけど、中小は違うと。

石塚

そうです。

安田

でも日本人の半分以上は中小企業で働いてるわけで。大手のリストラだけじゃなく、中小から結果的に出ることになる人も問題ですよ。

石塚

僕の現場実感でいうと、中小企業に勤めてる人って年収も安いので再就職しやすい。

安田

へえ。そうなんですか。

石塚

とくに都心ではなく地価の安いところに住んでる人。年収400万ぐらいでも十分暮らせたりするわけです。

安田

そのくらいなら仕事に困らない?

石塚

40〜50代の人でも、たとえ未経験でも、職種を選ばなければ結構ある。僕はそういう求人をいっぱいつくってますから。

安田

へえ。

石塚

意外に中小零細で働いてる人の雇用流動性って高いんですよ。

安田

なるほど。大手で40〜50代までいた人に比べたら、企業側も雇いやすいと。

石塚

そのとおりです。

安田

大企業の人より、マーケットで売れ残る率は低いってことですね。

石塚

そうなんです。選ばなければ、ほぼ決まります。

安田

じゃあ中小企業で働いてきたことが、結果的にはプラスに働くと。

石塚

そのとおりです。でもメディアで取り上げるのは大手企業のホワイトカラーばっかり。こっちは大変ですよ。流動性なんかないので。

安田

なぜ流動性がないんですか?

石塚

だって生活コストが高いから。稼がなきゃ生活できない。でも1000万円払えるほどのスキルは持ってないし。もう待ってるのは悲惨な話ばっかりですよ。

安田

じゃあ大変なのは大企業のホワイトカラーだと。中小企業で働いてる人は安心しなさいってことですね。

石塚

そうなんですよ。中小企業の40〜50代って基本的に真面目でコツコツ働くし。職住近接で生活コストも抑えてるし。

安田

せっかく頑張って大企業に入ったのに。なんか、かわいそうですね。

石塚

ほんとそう。よく考えると「どっちが幸せなのか」って思います。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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