変と不変の取説 第38回「福祉と保障の悪循環」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第38回「福祉と保障の悪循環」

前回、第37回は「サイクルを逆回転させる」

安田

ちょっと前ですけど「2,000万円ないと老後生きていけない」っていう問題。

麻生さんが「そんな報告は受け取らん」って言ったやつですね。

安田

はい。「なかったこと」にしたかったんでしょうけど。もうみんな知ってしまったので大問題になってます。

まあ分かってたことですけどね。

安田

ですよね。年金だけで生きていけるなんて誰も思ってない。

思ってませんよ。

安田

受け取らないっていう麻生さんも相当なもんですけど。野党も野党ですよね。

議論すべきところを間違えてますね。

安田

「100年安心と言ってたじゃないか!」みたいな。実際そんなこと言ってたんですか?

言ってないと思います。「100歳まで寿命が延びる」なんて誰も考えてなかったので。

安田

ですよね。麻生さんも「医学のおかげで寿命が延びてありがたいことだけど、100歳なんて想定してません」って言えばいいのに。

そうなんですけど。まあ言えないでしょうね。

安田

選挙で負けるから?

言った瞬間に票がなくなりますから。自民党の。

安田

やっぱり、なくなりますか。

老人が多いですからね。

安田

じゃあ、受け取らないのが正解だったんですか。

無茶苦茶ですけど、ああするしかないんでしょう。

安田

国民の多くは、本当に「年金だけで一生食っていける」と思ってるんですかね。泉さん思ってます?

いや、まったく思ってないですね。

安田

ですよね。

はい。そういうものに頼ろうとは1ミリも思ってないです。

安田

「出るかもしれないけど、どう考えてもそれだけでは生活できないよな」っていうのが普通の感覚じゃないですか。

そう思いますよ。

安田

でもテレビ見てると「俺たちを殺す気か」みたいなニュースばかりですけど。

そういうニュースは視聴率が稼げるんですよ。

安田

じゃあ視聴率のためですか。

だって基本的にみんな、働きたくないじゃないですか。

安田

そうなんですか?

そうですよ。もともと働くっていうのは苦役なので。早く終わらせて余生を楽しみたい。

安田

苦役ですか。働くことが。

はい。多くの人にとってはそうじゃないですか。

安田

それは昔からですか?

会社員になってからはそうでしょうね。定年まで勤め上げて「やっと自由になれた」みたいな。

安田

「やっとシャバに出られる」みたいな(笑)

そうそう(笑)。「終わったら自由にしてやるから、それまで頑張って働け」っていうのが会社と社員との約束。

安田

つまり、サラリーマンにとって仕事は苦役なので、定年後はそれから解放されてゆっくり過ごしたいと。

「社会保障があるから。それまで苦役頑張ってね」っていう。

安田

なるほど。

だからそれを信じてやってきた人は、やっぱり「だまされた!」ってなるんじゃないですか。

安田

退職金と年金で生きていけると信じてたってことですね。

そうです。

安田

でも、どうなんですか。退職金っていったって、よほどの大企業でなかったら……

まあ、それだけじゃ生きていけないですね。

安田

ですよね。年金だって大した金額じゃないし。だったら今までと変わらないじゃないですか。

今までは寿命がそんなに長くない設定でしたから。

安田

寿命が伸びた分だけ苦しくなったと?

そうでしょうね。

安田

でもニュースだと「高齢者の半分ぐらいは年金だけで生活してる」みたいに言われてますけど。

家を持ってて住宅ローンも払い終わって、という比較的豊かな人は年金で生活できるんですよ。

安田

そうじゃない人は年金だけでは暮らしていけない?

そうだと思います。働いてるか、もしくは生活保護か、どっちかですよね。

安田

なるほど。

あとは子どもに養ってもらうか。昔、年金がないときは、養ってもらうために子供をたくさん産んでました。

安田

今は少子化の真っ只中ですからね。子供に養ってもらうのは無理があるでしょう。

無理ですね。子供のほうもそんな余裕がない。

安田

国も子供も頼らずに「自分で生きていこう」 って思わないんですかね。

「大丈夫ですよ」って信じさせられて来たので。

安田

信じさせられた?教育によって?

はい教育によって。「今はがまんせい!」みたいな。だから「がまんしてきたのに!」ってなってしまう。

安田

でも、もうだいぶ前から「怪しいよね」って言われてるじゃないですか。自分の人生なんだから、自分でなんとかしようと思わないんですか。

そういう社会制度を1回つくってしまったので。抜け出すのは容易じゃないんですよ。

安田

でも制度が破綻しかけてるじゃないですか。それでも国家は老人とか食えない人を保障するべきものなんですか?

それは国家のあり方によって変わりますね。

安田

国家のあり方ですか。

日本の場合は老後を国が保障してあげて、その分「国家のために頑張ろう」という考えなので。

安田

そもそも、それが間違ってたんじゃないですか?

昔は重労働がメインだったので平均寿命が短かった。子供もたくさん生まれたし。ちゃんと成り立ってたんですよ。

安田

状況が変わったと。

はい。高齢者が仕事を続けようにも、ITとかの知的な仕事ばかりが増えていくし。

安田

もうアメリカみたいに「自分のことは自分で」ってやったらどうなんでしょう。

急には難しいですけど、そうならざるを得ないでしょうね。国が保障するとなると、政策的には思い切ったことができなくなりますから。

安田

それはどうして。

守りの政策ばかりになるので国が発展していかない。必ずどこかで限界が来ます。

安田

じゃあ、どこかで変えるしかないと。

はい。このままだと安定収入を得るために消費税上げ続けるしかない。でも消費税を上げるっていうのは経済的には完全にブレーキなんですよ。

安田

消費税アップはもう既定路線ですよ。

そうせざるを得なくなってるんですよ。福祉と保障の悪循環みたいな感じ。国家も国民もどこかでこの悪循環を断ち切るしかない。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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