「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第68回「変えられないのはなぜ?」
前回、第67回は「引きこもってるのは誰?」
センター試験が変わる話。考える力を見るために「記述式に変えよう」って。
かなり揉めてます。
ですね。「誰が採点するんだ?」って。ちなみに記述式っていうのは、どういう意図なんですか?
答えの幅が広くなる。マークシートの場合は5択とかなので。「選択」と「自由に書く」ではアウトプットの仕方がまったく違う。
なるほど。ただ、そうなってくると「採点する側」にスキルが必要だと。
ものすごく必要ですよ。お金も時間もすごくかかります。
記述式に変えたらこういう問題が出てくるって、分からなかったんですかね?
みんな分かってましたよ。「無理だろう」って。
え!分かってたんですか?
はい。運営方法があまりにもしょぼかったので。「できるかい!」って。
それなのに運営側はやろうとした?
やろうとした。でもやってみたら「あ、無理です」みたいな(笑)
そもそも「日本全国で同時に試験を受けさせる」って意味あるんですか?
一律でやりたいんでしょうね。
なぜですか?
標準化したほうが管理・コントロールがしやすい。あと公平性において効率がいい。
そろそろ見直したほうがいい気がします。
その通りですね。
はい。向き不向きって人それぞれなので。同じ試験をみんなで受けること自体「どうなんだ?」って思います。
意味がないですね。今の時代には。
そうですよね。なんか「すごく中途半端な改革」って気がします。
だってコンピュータにセンター試験を解かせたら偏差値60取れますから。
え?偏差値60しか取れないんですか。90ぐらいあるのかと思ってました。
まだ60ぐらいですね。でもどんどん上がってきてます。
世界的に見るとどうなんですか。こういう一律の暗記主体の試験って。
なくなっていく方向だと思います。
やっぱりそうですか。
はい。世界の潮流として、だんだんなくなっていく。
日本の場合は「世界の後追い」をしてる感じですか?
いや、追いかけてもいないですね。ムラ社会ですから。だからかなり遅れてます。
でも日本の教育って、昔はすごく進んでたんですよね?
知識教育は今でも優れてますよ。知識、計算、基礎の習得は、ものすごいレベル高いです。
じゃあ応用力がないっていうことですか?
ないですね。コミュニケーション、チームビルディング、リーダーシップ、フォロワーシップ、プレゼンテーション、全部だめです。
日本人には向いてないんですかね?応用すること自体が。
いや、そうではないです。そういう教育を受けてる子どもたちは、どんどんできるようになってるので。
「教えてないからできない」ってことですか?
そうです。経験がないし、教える人がいないし、教える場がないから。
大問題ですね。
だから変えようとしてるんでしょうけど。
でも的外れですよね。ちなみに記述式は最終的には導入されるんですか?
いや、されないでしょう。現実的ではないので。採点ができない。人工知能が採点できれば可能ですけど。
人間が採点するのは不可能?
不可能です。主観が入りますので。
「バイトの先生にやらす」とか言ってましたもんね。
はい(笑)無茶苦茶ですよ。
それでなくても先生は忙しいし、給料も安いし。
そもそも表現って、ある程度アートの要素が入ってくるじゃないですか。
アートですか?
たとえば俳句をどうやって評価するんですか?評価する先生によって違ったりしますよね。
違いますね。でも違うからこそ価値があるわけだし。
そうなんですよ。だけど、そうすると共通試験の意味がない。
ということは、やっぱり共通試験をすること自体が意味なくなる?
はい。何らかの評価軸で「人の情報」が得られるのであれば、そっちに変わっていくでしょうね。
ネットの「書き込み分析」とか。その子の能力とか適性とか、わざわざ試験しなくてもわかりそうですけど。
そうなる可能性はあると思います。
とはいえ中学生や高校生って、今でもいい大学目指して勉強してるんですよね?
いい学校目指して塾行ってますね。
それはやっぱり親が喜ぶからですか?
親から見た消去法。まだそっちのほうがいいから。安全パイってやつです。
なるほど。他に選択肢が見当たらないと。
もっといいものがあって、実感値があったら、そっちに行くと思います。でもそれがないんでしょう。
海外の高校とか大学に行かせる親もだんだんと増えてます。
情報が得られるようになってくると、お金がある親は「行かせよう」ってなる。
やっぱり海外のほうが進んでるんですか?教育は。
さっき言ったコミュニケーションやクリエイティブは進んでますね。
海外に行くなら、小さい頃から英語も覚えたほうがいいですよね?
英語を教えるよりも「多文化の人と関わるコミュニケーション」を教えるべき。英語にこだわる必要もないし。
じゃあ何語ですか?中国語?
たとえばアジアのクメール語だったり、ベトナム語だったり、タイ語だったり。小さいときから交流させて「違う言語があるんや」と学ばせる。
なるほど。ということは言語を学習するというより、多文化と交流することが大事ってことですね。
そっちが目的じゃないですか。目的と手段が逆になってますよ。
国としては次にはどんな手を打ってくると思いますか?記述式が無理だとしたら。
元に戻すでしょうね。
え!元に戻す!?ってことは、マークシート?
マークシートでしょうね。手がかかりませんので。
そんなことしたら確実に負けていきますよ。世界中の子どもたちに。さすがに何らかの手は打つんじゃないですか。
打てないんですよ。そんな力がないから。
能力不足ってことですか?
はい。人の能力を引き出す能力がない。それがいちばんの問題です。