第181回「日本劣等改造論(13)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― お金からの卒業(前編)―

成功者とは?

と聞かれると「富豪」のイメージが湧いてこないだろうか。成功の定義は人の数だけあるのに、似たようなイメージが誘発されるとしたら、知らない間に洗脳されているかもしれない。そういえば成功本といわれるジャンルのほとんどは、お金持ちになれるとか、不労所得を得て、早期にリタイアして悠々自適ライフをしようといったテーマがほとんど。

こういった成功本を売るための広告は、「今のあなたは成功者でないよ」という印象を与え、影を生む。失敗者という劣等ウイルスを広めているようなもの。抗ウイルス薬(成功本)を飲みなさい(読みなさい)と購入を促しているのだが、これはウイルスをばらまきながら薬を売るのと同じ仕組みの素敵なマーケティング手法だろう。

素敵なお客さんにならないために、お金について学んでおこう。お金は数字という1次元(線)で表すことができる。多いとか少ないとか一つの指標で捉えられるということ。3次元(空間)に住む人間にとって次元を落とせば理解しやすいので、人は数字に走る。しかし、この1次元の世界は窮屈。レール上を走る電車のように直線の上しか移動できないからだ。

平面という2次元的に狭い日本で、思考も窮屈とは。国土が狭いなら、思考ぐらいはでっかくいきたい。そんな国の成長指標はGDPというお金で表される。GDPという経済指標は過去のデータでしかなく、これから成長するかどうかの可能性(未来のデータ)ではない。

狭い国土で、思考は窮屈、さらに過去のデータで生きている。幸せだろうか。

幸せ感を失うと、未来は開かない。お金があるから幸せでなく、幸せだからお金も得られるのだが、1次元の時間軸は、過去から未来へと一方向にしか動いていないので、「お金があるから幸せである」という思考になる。この1次元思考人に「幸せ感が高まると、お金も豊かになるよ」といっても、「はぁ〜?何能天気なこといってんの」となる。

この1次元思考を卒業するには、広い大地(2次元)と広い空(3次元)に意識を合わせればいい。この素晴らしく広大な大地と突き抜ける空が1次元から開放してくれる。大自然の天と地に意識を合わせたいのだが、そんなことよりも日々のお金に意識がいくのが現実だろう。

そんな現実を生み出した背景を歴史に聞いてみよう。日本は150年前に「富国強兵」を掲げ、1次元の世界に没頭した。お金を増やし、軍事力を高め、勝ち負けといった直線的世界に入った。結果、日本は世界第3位のGDPに。それにも関わらず、相対的貧困の割合は16%。ひとり親世帯の貧困率は50%を超え、こども食堂は日本全国に3800もある。

世界のGDPに目を向けてみると、第1位のアメリカと第2位の中国と第3位の日本で世界のトータルGDPのおよそ半分を占める。それにも関わらず、相対的貧困率の高さは、先進国の中で1位アメリカ、2位中国、3位日本である。お金的に豊かになればなるほど、その国に豊かな人と貧しい人の格差が広がっている。これぞ、お金が1次元的なものだという証拠。

お金からの卒業というのは、1次元から意識を開放するということ。お金がないと日々の暮らしが成り立たない生活をしている限りは、どうしても1次元に染まってしまう。後編では、そんな1次元の日常を離れて、次の次元へ思い切って飛び込んでみることにしよう。

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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