この記事について
半世紀も生きてきますと、【ことわざ】の持つ意味が、より深く染みるようになりました。昔の人はうまいこと言ったもんだなぁと、しみじみ。時代の転換期、大きく世の中が変わってゆく中でも、人やこの世の本質的な部分は、案外変わらなかったりします。結構スルドイところを突いてくるのです。
本日のことわざ
「狂人走れば不狂人も走る」
気が付くと、もう師走か!ホント一年早いよなあ。
たいがいの大人は毎年そう言ってるよなww
師走の語源は諸説あるそうだけど、僧侶(師匠)が馳せる「師馳す」から、師匠も走り回る程忙しい「師走」という字が当てられたという説が一般的かな。
ほう~「走る」つながりという事で、本日のことわざという訳か☆
【狂人走れば不狂人も走る】人は他人につられて行動しがちという意味。
そうね、人間の特徴のひとつだね。
これさ、防災の点からいうとホントこの習性を考慮するのはとっても大事なんだ!
ほほう。
あともうひとつ【正常性バイアス】という特性も併せて考えると良いんだ。
正常性バイアス?
人は自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりする傾向があるんだよ。「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」とか思ってしまう。正常性バイアスは、災害が発生した時、逃げ遅れてしまう大きなひとつの要因になっているんだ。
へえ~、どうしてそんな認知の特性があるんだろ。
予期せぬ出来事が起こるたびに、いちいち過剰に反応していたら疲れちゃうでしょ。それで人は、ある程度その辺は鈍感にできているみたい。
へえ~
火災警報器や非常ベルが鳴っても、「大変だ~!!」って、いきなり逃げ出す大人はほとんどいない。「防災訓練かまた誤報か何かでしょ」という感じ。
意外とみんな冷静なのね。
これがさ、本火災だと分かってひとたび誰かが逃げ始めると、急に我も我もとなるわけ!
ここで【狂人走れば不狂人も走る】という訳だ!
そうなんだよ、極端なの。早い段階で避難などの行動に出ていれば、火災や水害の被害から逃れやすくなるのに、ギリギリになって慌てて大勢の人がいっぺんに避難し始めるからパニックになったりするんだ。特に火災の場合はその傾向が強い気がする。
それで「本日のことわざ」と「正常性バイアス」という特性と両方を鑑みて、防災を考える事がたいせつという訳だね☆
正常性バイアスが被害を大きくさせたと言われるケースはいくつもあるんだ。2003年の韓国での地下鉄火災や、2014年の御嶽山噴火などはまだ記憶に新しい事例だよね。
御嶽山に関しては、亡くなった方の多くが噴火後も火口付近で噴火の様子を撮影していたそうで、、、
逃げ遅れる要因のひとつである「正常性バイアス」が注目されるきっかけのひとつに、東日本大震災の津波被害がある。津波警報が出されていたにもかかわらず、避難をしなかった人たちがいたんだ。そりゃ、これまで津波警報が出たとしてもたいした津波は来なかったから、今回も大丈夫だろうと考えてしまうのは自然なことだよね。
そうだね。
実際、大津波が押し寄せる様子を実際に見て慌てて避難を開始したけど、間に合わなかった。
これまでの経験がバイアスをかける要因にもなってしまったんだね、、、
そしてもうひとつ、東日本大震災の津波に関しては今回のことわざが大きな役割を果たしたという、プラスとなった結果もあるんだ。
【人は他人につられて行動しがち】ということだな☆
そう!いわゆる「釜石の奇跡」と呼ばれるもの。
なんか、聞いたことあるな。
釜石の子供たちは学校で、津波についてとてもよく学んでいて繰り返し訓練も行っていたんだ。それで、大地震が起こって津波警報が発令されたとき、的確な行動に出た。逃げることをしぶる大人たちを説得したり、また高台に逃げる子供たちの姿につられて避難を開始したひとたちもいたそうだ!これがまさに、今回のことわざが良い意味で機能した例だよね。
なるほど!それで、防災を考えるうえで大切なのは、今回のことわざ【他人につられて行動しがち】【正常性バイアス】という人間の持つふたつの特性を生かすこと、、、なんだね☆
はい!そうです。事業所などの責任者や防災担当の方々は防災対策を考える上で、この特性を生かす事も大切ですと伝えたいです。また個々の人たちも、何かあった場合「周りのひとが○○しているから」ではなく、「自分で判断して冷静に行動すること」をどこか心に留めておいてもらえるといいなって思います☆
著者について
黒須 貴子(くろす たかこ)
https://tempurayama.com/
数々のアルバイトや専業主婦などを経て、消防設備の会社を設立。下請けからの脱却、女性消防設備士の登用など、難題に直面してきた経験をシェアして生かせる〈社長峠の茶屋〉を始める。学生時代はパンクロッカー、現在はヴィジュアル系のキャンサーサバイバー。