第93回 「商売の波」に飲まれない経営とは

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第93回 「商売の波」に飲まれない経営とは

安田

当たり前といえば当たり前ですが、商売ってうまくいく時とそうでない時がありますよね。もちろんある程度先を予測して仕掛けるわけですが、景気や世界情勢など予測不能な要素もあるわけで。


倉橋

ああ、確かにそうですね。

安田

例えば昔「たまごっち」っていうのがありましたが、あれも人気の有名人がたまたま持っててブームになったと記憶しています。ああいう偶然起きた流行の波に、ビジネスとしてどこまで乗るべきかっていうのを、今日は聞きたかったんです。


倉橋

面白いテーマですね。「商品」に関して言えば波に乗りすぎるのはリスクだと思います。というのも、波のてっぺん、つまり「ピーク」が高くなればなるほど、その後の苦労も大きくなるんですよね。ユニクロもフリースが爆発的にヒットしましたけど、そのヒットがとんでもなく大きかったからこそ、第2第3のフリースを作るのに相当苦労したと思います。

安田

ははぁ、なるほど。ヨーロッパの老舗ブランド、エルメスやロレックスも、どんなに売れても一定以上は作らない掟のようなものがあると聞きます。それも「ピーク」を作らないためなんですかね。


倉橋

彼らは数百年という単位でブランドビジネスをやってますからね、瞬間的な利益よりも、長期的に価値が続くことを優先するわけです。ただし、これはあくまで「商品」の話であって、「サービス」については少し考え方が違うと思っています。

安田

ほう。サービスの場合はどうなんですか?


倉橋

「サービス」は商品と違って、固定された形がありません。市場のニーズや時代の変化に応じて柔軟に進化できる。そのため、いい波が来たら一気にアクセルを踏んで広げるべきだと考えています。波に乗らない=せっかくの成長機会を逃すことになりますから。

安田

なるほど。たしかに今、万代さんは狙ったマーケットがドンピシャで当たってますよね。新店舗を出すたびに集客も口コミも増えて、ブランドもどんどんできていく。単なる商品の売れ行きではなく、「リユース×アミューズメント」というサービスがうまく当たっている。こういう時は、慎重になりすぎず、攻めた方がいいと。


倉橋

そうですね。もちろんリスク管理は大事なんですが、過度に慎重になるとチャンスも逃してしまうので。商品と違って、サービスは形がない分、常に進化させやすい。むしろ進化を止めた瞬間に劣化が始まるわけです。

安田

確かに。それはサービスだけでなく、ビジネスモデルそのものと言い換えてもいいですね。一度うまくいった形に固執すると、その瞬間から鈍化が始まってしまう。


倉橋

仰るとおりです。ビジネスモデルにおいても、アクセルを踏みながら、少しずつでもブラッシュアップしていかないといけないんです。成功した形をそのまま広げるだけでは、いずれ市場の変化に対応できなくなってしまうので。

安田

ふ〜む、なるほど。例えば「いきなりステーキ」みたいに、全く同じスタイルの店舗で一気に何百店舗作った方が流行の波には乗れそうです。でも倉橋さんはそれはしないと。

倉橋

戦略としては一つの手だと思います。でも一つの型を量産するだけでは長続きしない。だから複数のビジネスモデルを少しずつ進化させるようにしているんです。

安田

そうか。1つのやり方だけを広げていくということは、1つの商品を大量に売るのとある意味同じような戦略ですもんね。それだけに頼っていたら、どこかで行き詰まってしまう。「波に乗る=市場に生まれたチャンスにスピーディーに対応する」ことは大事だけど、それに乗ったあとも進化を止めたら意味がないと。

倉橋

そういうことです。それでいうと、波に乗ること自体は悪くないんです。でもどうやって乗るか、どのタイミングで降りるかまで考えておかないといけない。それができないと、波に飲み込まれてしまう。

安田

なるほどなぁ。たまたまヒットした商品やサービスを、ただ横展開するだけではダメなんですね。

倉橋

仰るとおりです。特に商品に頼るビジネスは、一度作った型を超えるのがとにかく大変ですから。

安田

確かに。でも世に数多くあるフランチャイズビジネスって、まさに「うまくいったモデルを量産するやり方」ですよね。

倉橋

流行ってる間はいいんですよ。でも進化できないとどこかで一気に陳腐化してしまう。しかもフランチャイズは現場で自由に手を加えられない分、どうしてもフットワークが重くなる。そういう意味でも陳腐化が加速してしまう側面があって。

安田

ははぁ、なるほど。倉橋さんのように自分で進化させられるならいいけど、フランチャイズだと契約で縛られて、思うようにできないことが多々ありますからね。

倉橋

ええ。だからこそ僕は、他力本願なビジネスモデルにはあまり魅力を感じないんです。自分で進化させる自由がある方が長期的には強いので。

安田

なるほど。お話を聞いていて思ったんですが、倉橋さんは「社会の大きな波」に乗るというより、自分で波を生み出して、それに乗っている感じなんでしょうね。

倉橋

それが一番近い表現だと思います。社会の流れに便乗するのも手ですが、自分で作った波に乗る方が、コントロールが効くぶんリスクも少ない。

安田

なるほど。自分で波を作り、自分で乗る。それが一番賢いスタイルだということですね。

倉橋

そう思います。自然に見えて、実は意図的に作り出した流れに乗る。ビジネスって、意外とそういう地道な作業の積み重ねだと思います。

 


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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