第176回 ビール売り子の日常

 このコラムについて 

「担当者は売り上げや組織の変革より、社内での自分の評価を最も気にしている」「夜の世界では、配慮と遠慮の絶妙なバランスが必要」「本音でぶつかる義理と人情の営業スタイルだけでは絶対に通用しない」
設立5年にして大手企業向け研修を多数手がけるたかまり株式会社。中小企業出身者をはじめフリーランスのネットワークで構成される同社は、いかにして大手のフトコロに飛び込み、ココロをつかんでいったのか。代表の高松秀樹が、大手企業とつきあう作法を具体的なエピソードを通して伝授します。

本日のお作法/ビール売り子の日常

初夏。

ビールを飲みながらのスポーツ観戦には絶好の季節ですね。

先日、某大手ビール会社の人事マネジャーBさんとの打合せ時に、興味深い話を伺いました。

「野球場のビール売り子、特に東京ドームの売り子は、倍率20倍を軽く超える超人気職種なんです」

「若手採用難の時代に、採用、育成のヒントが詰まっているんだろうな、とウォッチしているんです」

とのこと。

「スタジアムの華」などとも呼ばれる売り子さん。

中には、芸能界にスカウトされる方もちらほら存在するようです。

「報酬」は、基本的に「固定給+歩合制」であり、時給や日給に、販売したビールの数だけ「インセンティブ」が加算されるという仕組み、とのことですが、

「カリスマ売り子になると、1試合3時間くらいで平均250杯以上も販売し、高収入を獲得している」ようで、

その動きには、特徴があるとのこと。

◆身だしなみに気を配る

決められた制服があるが、帽子や胸元に、ホームチームの優勝記念バッジや、引退した名選手のお手製プロマイドを貼り付けたりして、「チームへの想いを可視化・共有」

◆常連客をファンにする

売り子の販売エリアはおおよそ固定化されているが、試合開始直後は比較的ゆるい状況なため、開始前はエリア外に座っている常連さんを探す時間にあてる。そして「見つけた~!会いたかった!」などと歓喜の声をあげながら小走りで向かい、最初の1杯を買ってもらう。さらに、「次の試合ではどの辺りに座るんですか?」と確認し、「また1番に駆けつけちゃいます!」の声がけをし、心をわしづかみにしちゃう

◆常に周囲の状況を把握する

ビールを注ぐ際には、注ぎ口に目を配るのは時折で、ほとんどは相手の表情を見て、会話をする。その隙に、少し上の客席を見渡し、自分に声がけをしてくれそうな人を押さえておく。ビールを注ぐ時間自体は新人もカリスマもほぼ同じだが「この時間をどう過ごすかで差がつく」。ビールを注ぎながら客席を見渡す間、自分に向かって手をあげる客がいれば満面の笑顔で大きく反応する。こうするだけで、その客は待機してくれる

◆日頃から体を鍛え、ハードな状況に備える

生ビールサーバーはおよそ20kg。。幼稚園児を常に背負って階段を上り下りしているようなもの。。日頃から体を鍛えることで「試合終盤に他の売り子が行きたがらなくなる手薄な上段席に販売に行ける」。上段席の客は、自分たちも上り下りが面倒なので、一人が頼むとその周囲の客も続けて発注する傾向にある

◆自分も楽しむ

ホームチームがホームランを放ったり、ピンチを切り抜けたり、球場が盛り上がった時には、周囲のファンとともに飛び跳ねたり、歓喜の声を上げながらハイタッチをしたり、「純粋に楽しむ」。その姿を見た客は、好感を抱いてくれる

なるほど。

ただただ歩き回ってビールを売る。そんな動きをしている他者とは異なり、細部にまでこだわると大きな「差」が生まれるのですね。

まさにトップセールスの仕事の流儀、緻密な営業戦略そのもの。

ちなみに、

人気職種のもうひとつ。新幹線の売り子である「パーサー」の求人広告のキャッチコピーは、「特別なことをしなくても、求められる存在」、、

いや、こちらでも飛び抜けた活躍をしている方は細部にまでこだわり抜いていることかと思うのです。

 

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高松 秀樹(たかまつ ひでき)

たかまり株式会社 代表取締役
株式会社BFI 取締役委託副社長

1973年生まれ。川崎育ち。
1997年より、小さな会社にて中小・ベンチャー企業様の採用・育成支援事業に従事。
2002年よりスポーツバー、スイーツショップを営むも5年で終える。。
2007年以降、大手の作法を嗜み、業界・規模を問わず人材育成、組織開発、教育研修事業に携わり、多くの企業や団体、研修講師のサポートに勤しむ。

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