第6回 「日本一高い」と名乗る理由

この対談について

「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。

第6回 「日本一高い」と名乗る理由

安田
初めての経営にもかかわらずここまでトントン拍子にうまく利益を出せていると「この会社、自分でやります」とは考えないんですか?

中辻
うーん、ないですね。というのも、今は専務取締役という立場ですごく自由にやらせてもらっているので。「社長にならなきゃできない」っていうような不便は感じないんですよね。
安田

じゃあたとえば、自分の給料も自分で決められるんですか?


中辻

はい、そうです。

安田

へえ。社長の久保さんに反対されたことは、ない?


中辻

ありません。とはいえ自分のことになると私情が入ってしまうので、役員報酬を決める時は税理士の方に助言をいただきながら決めています。

安田

なるほど。あの、これは答えにくい質問かもしれませんが、社長の久保さんは、出資はしているけどある意味何もしていない状態ですよね。それでも報酬は取っているんでしょうか?


中辻

はい。そもそも設立して数年間は、ペイント王の会社の2階で運営していたんですよね。家賃も半分しか払っていませんでしたし、おんぶに抱っこの状態でした。

安田

そうでしたね。


中辻

その当時は久保さんへの役員報酬も払えていなくて。だから何年か経って売上が立ってきたことで、むしろようやく役員報酬を取っていただけるようになったということなんです。

安田

なるほど。それはそうと、こうやって素晴らしい経営代行をやってくれる中辻さんのところには、「ウチも出資するから、経営代行やってよ」みたいな依頼がきそうなものですけど。実際、受けるつもりはあります?


中辻

いやあ、ないかなあ(笑)。まだ経営の「け」の字くらいがわかってきたかなというくらいですから。でももし一緒に切磋琢磨できるようなお話であれば、お受けしてもいいかなとは思います。

安田

そうなんですね。私が感心するのは、経営者としてのセンスの良さなんですよ。たとえば2年目で赤字になってでも「人」に投資したり、「日本一高いポスティング会社」って名乗っていたりする部分。


中辻

ありがとうございます。

安田

ほとんどの経営者は、「質が高い」ことは当然アピールするけど、わざわざ「高い」ことは言う必要ないって思っているはずなんです。それを言えちゃうところがすごい。なぜ「日本一高い」と言おうと思いついたんですか?


中辻

ペイント王での経験が大きいと思います。ペイント王ではポスティング業務の一部を外部の会社に委託していたんですが、久保さんや社員さんがポスティングした時との反響の差があまりにも大きくて。

安田

外注したポスティングは、あまり効果がなかった?


中辻

そうですね。それで、外の会社に「質」を求めるのは無理なんじゃないかと思い、自社のポスティング組織を大きくしていったんです。

安田

で、最終的にその組織を切り離して立ち上げたのが、MAMENOKI COMPANYというわけですね。


中辻

はい、そうなります。そもそも自分の会社のターゲットって、社長さんや社員さんが一番良くわかっているはずで。だから一番費用対効果が良いのは、自分の会社でたくさんチラシを配れることなんです。

安田

なるほどなるほど。


中辻

でも、ポスティングの人材を集めるのも大変ですよね?だから外注せざるを得ないんですけど、自社と同じような品質で配ってくれるポスティング会社はないんだなってことに気付いたんです。

安田

そんなにないものですか?


中辻

なかったですねえ。やはり安ければ安いほうがいいと考える経営者さんが多いので、ポスティング会社側も価格で勝負しがちなんです。

安田

高いと売れない時代ですしね。


中辻

はい。だからポスティングの商談って「ここに配りたいけど、1枚あたりの最安値はいくら?」というところから始まるんです。でもそれって、結局はスタッフさんにしわ寄せが来るんですよね。

安田

安くするためには、人件費を削るしかないということですね。


中辻

ええ。でも一方の配布スタッフさんも、生活をかけてチラシを配っています。得られる報酬に満足感がなければ、いかに効率よく配り終えるかということばかり考えていくんですよね。

安田

とりあえずチラシを撒けばいい。早く終わればいい、と。


中辻

そうなんですよ。だからチラシのターゲットも気にせず、とりあえず目についた集合住宅にバーっと入れていってしまうんです。その方が効率が良いから。

安田

でもそれでは反響が出ない。


中辻

そのとおりです。そこでウチでは、「ポスティングスタッフさんには満足いただける報酬をお支払いします。その代わり、私たちの希望に沿った配布をお願いします」というスタンスにしたんです。

安田

つまり、反響にこだわったポスティングをしてもらうと。そうなると必然的に人件費も上がるよね、って話なんですね。


中辻

そういうことなんです。ですから「日本一高い」っていうのは、「利益をいっぱい取ります」ってことではないんです。スタッフさんに適切な単価を渡すために、お客様から相応の費用をいただく。そうすると結果的に、他より高くなるという。

安田

なるほど。末端の人がちゃんと成果を出そうと思える報酬体系にすると、自ずと「日本一高く」なっちゃうんですね。別にわざと高くしようとしているわけじゃないぞ、と(笑)。


中辻

そう、それが言いたかった!(笑)。設立してすぐにこの方向性にしたんですけど、やはり当初は問い合わせの段階から「高すぎる。バカにしてるの?」なんて言われることも多くて。自分の考えが間違っているのかな、と不安に思うこともありましたね。

安田

普通はそう思ってしまいますよねえ。


中辻

ちなみに今、大阪で一番安い会社さんだとA4サイズのチラシを1枚1.8円で受けているんですよ。

安田

MAMENOKI COMPANYは、おいくらなんですか?


中辻

ウチは最低価格で1枚7.15円。

安田

約4倍!


中辻

でもちょっと想像していただきたいんです。1枚1.8円で受けた場合、どんなに多く見積もってもスタッフさんに落ちる金額は1円程度。で、チラシって平均1時間に300枚くらいしか撒けない。

安田

まともにやれば、ってことですよね?


中辻

そう。そうすると、その人の時給は300円ですよ?私だったら、まともに配布なんてしないで、適当に捨てちゃうと思います(笑)。

安田

それはそうなりますよね(笑)。


中辻

というようなことを考えれば、適切価格かどうかって容易に想像できると思うんです。ちなみにウチの場合は時給1,200円くらいは取っていただけるような価格帯で、スタッフさんにお願いしています。

安田

屋外をずっと歩いて行う作業ということで、疲労度も加味すれば、それくらいが妥当な金額ですね。なるほど。「日本一高い」の理由がわかりました。

 


対談している二人

中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役

Twitter

1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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