第246回「楽天の誤算」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第245回「セブン&アイグループの展望」

 第246回「楽天の誤算」 


安田

楽天モバイル事件。

石塚

あれはやばいです。

安田

楽天の元部長が100億円も会社のお金を使い込んでいたという。

石塚

ですね。

安田

どうやったら100億も着服できるのか。

石塚

単純な話で、200億円のアンテナ工事に100億円乗っけてたんですよ。

安田

200億の工事に100億乗せるって、めちゃくちゃ大きいじゃないですか。

石塚

ね。

安田

そんなのバレないわけがない。

石塚

うまくやってたんでしょうね。

安田

100億は絶対返ってこないでしょう。

石塚

まあ、無理でしょうね。その10分の1も戻れば御の字でしょう。

安田

楽天って部長が100億も決裁できちゃうんですね。

石塚

僕はこの事件でふたつ思うことがあって。楽天って「非常に混乱しているんだなあ」というのと、「権限のパワーがすごい」ってこと。

安田

権限のパワーですか。

石塚

部長や執行役員になるとすごい権限なんでしょうね。だからいろんなことをやれる。

安田

でも100億を搾取できちゃう立場に置くってどうなんでしょう。

石塚

まあ人間ですからね。魔が差す時もあるし。

安田

普通はできないような体制になってるじゃないですか。ダブルチェック、トリプルチェックが当たり前で。

石塚

これが事業の加速とコンプラを両立する難しいところで。こういう事件があってコンプラを厳しくすると、裁量範囲が減って仕事が面白くなくなる。

安田

まあそうですけど。

石塚

事業スピードは、能力のある1人がガーッと動かしたほうが早いわけです。

安田

それはそうですね。

石塚

「よし、俺がまとめて決めるから、これで発注する!」ってどんどん進めて。

安田

確かに。

石塚

それを「部長の次は本部長、本部長の次は執行役員、執行役員の上は取締役で、最後はCEOの……」なんて言っている間に1か月たっちゃったりして。

安田

それが日本の大企業の問題点ですもんね。

石塚

そう。だからこのバランスはすごく難しいんです。どうしてもこういうリスクがつきまとう。

安田

中国の日系企業では現地社長がなんの決済権も持ってなくて、馬鹿にされるみたいです。

石塚

共産党って人治主義の極だから。能力よりも相手の弱みを握ったり、ライバルを蹴落とす力のほうが優先される。サラリーマン社長では成り立たないんですよ。

安田

共産主義の中国のほうが実力主義になっていると。

石塚

そう、実力主義になってる。すごい権力闘争ですよ。命がかかってますから。

安田

とはいえ100億を水増しされて分からない制度も大問題です。

石塚

基地局をつくる工事って、少なく見積もっても5年かかるわけです。そうすると月々の工事発注金額って5億なんですよ。

安田

そのうち1億6,000万は水増しですよ。

石塚

1億6,000万の工事発注なんてザラじゃないですか。

安田

そうなんですか。

石塚

1億6,000万をうまく7~8人で分けて。自分の手元に2,000~3,000万入るようにするスキームでしょうね。

安田

それが3年間もバレないっていうのが、ある意味すごいですけど。

石塚

ある意味すごく信頼された、仕事ができる人なのかもしれません。

安田

もしかして給料が安かったんでしょうか。

石塚

たぶん三木谷さん、そんなに携帯電話事業に詳しくないんでしょうね。「この人間にまかせておけば間違いない」と思ったんじゃないんですか。

安田

信じちゃった、ってことですか。

石塚

そう思います。まあ、しょうがないですよ。信じて任せた人間が飲んじゃっただけで。

安田

飲んじゃった!

石塚

その飲み方が1,000万2,000万だったらともかく。「桁が違うぞおまえ」っていう話ですよ。

安田

桁が違いすぎますよ。

石塚

これから連鎖倒産がどんどん出てきます。

安田

え!誰が連鎖倒産するんですか?楽天以外に被害者がいるんですか。

石塚

当然、楽天は「払うわけねーだろ」って言うでしょう。傘下の孫請け、ひ孫請けまで工事代金が支払われなくなる。

安田

なんと。

石塚

もう倒産しているという噂は聞いてます。だって工事代金が入ってこないですから。

安田

発注先の業者が全部グルだったってことですか。

石塚

わかっていて握ったところと、全く関係ないところとがあるでしょうね。

安田

グルだったところはともかく、関係ない会社には払わないといけないでしょう。

石塚

下請けが2次3次構造になってるから。おいしいのは発注側と1次請けまでじゃないですか。2次3次なんて、ただ言われたことをやっているだけで。

安田

そこの支払いも止まっちゃうわけですか。

石塚

当然でしょう。ぜんぶ切るでしょ。

安田

アンテナは誰が建てるんですか?工事を請けてくれる会社も人材も不足してるのに。

石塚

おっしゃる通り。このままだと立ち行かなくなるかもしれません。

安田

そもそも楽天の携帯電話事業って儲かってるんですか。

石塚

無料サービスで顧客数を伸ばしてきたんですけど。

安田

「有料になったから楽天やめます」って人が出てきてますよね。

石塚

菅さんがグッと携帯料金を下げちゃったから。料金が変わらなくなれば、それは安いドコモを使いますよ。

安田

ここまで三木谷さんが携帯事業にこだわるのは、どうしてですか。

石塚

モバイルを押さえることによって全部押さえられるから。決済も今みんなスマホじゃないですか。

安田

確かにそうですね。

石塚

インフラを押さえることによって、そこをぜんぶ押さえにかかりたいわけですよ。

安田

なるほど。

石塚

楽天経済圏というものをすべて盤石にしたい、という思いがあるんじゃないんですか。

安田

壮大なビジョンですね。

石塚

ただし、インフラ事業をゼロからやって成功した人は、歴史上ほとんどいない。資金的にもかなり厳しいと思います。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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