第5回 官僚になりたい人ってどんな人?

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第5回 官僚になりたい人ってどんな人?

安田
20代で国家運営を考えていたっていうお話が非常に印象的でして。私も今でこそ国のことを考えるようになりましたが、60近くになってやっとっていう感じですから(笑)。

酒井
いやいや(笑)。今まではそういう人の方が多かったでしょうね。
安田
えっ、今は違うんですか?

酒井
今役人になりたいっていう人は、10代で留学経験がある人が多いですね。「世界の中の日本」を知っているからこそ、日本という単位でどうこうしようという話になるわけで。
安田
なるほど。今は「日本の官僚になりたい人」=「グローバル経験がある人」なんですね。

酒井
そうなんです。そこが面白いというか、官僚として本来あるべき姿なのかもしれません。
安田
ちなみに昔は違ったんですか?

酒井
昔は単に頭のいい人のトップ層がなっていた感じですよね。そういう人がイメージする「一番大きいこと」が国家運営だったという。
安田
確かに。経済でも同じことが言えますね。

酒井
そうですね。昔は三菱のトップに行けば日本で一番のエリートだったのが、Googleのアメリカ本体に行かないとってことですから。
安田
それで言うと、GAFAみたいな会社に入るようなグローバルな視野を持った人だったら、日本の国益より人類益を優先しそうな気もするんですけど。

酒井
そうですね。その方が多数派だと思います。
安田
そうですよね。そんなグローバルな人の中にも、国の利益を優先したい人がいるんですかね?

酒井
というより、グローバルの場で「日本人とは」とか「アジア人とは」というアイデンティティを意識した時に初めて、「日本のために」っていうのが選択肢に上がると思うんです。
安田
なるほど、世界の中の日本という、一つのローカルの地域を良くしようみたいな感覚なんですね。

酒井
ええ。昔に比べて今はそういう感覚で入る方が多いと思います。
安田
ちなみに酒井さん自身は、20代の頃に自分のことより日本のことを考えてたんですか?

酒井
やりたい仕事っていう意味では、国のことって面白いなと思ってましたね。
安田

普通の会社員さんって、最初は自分のことで手いっぱいじゃないですか?そこからだんだん力をつけて順番に出世していく。当時の官僚さんは逆だったりするんですか?


酒井
それは考えたことなかったですけど、ある意味当たってるかもしれない。
安田
国家のことを考えて20代を過ごして、だんだん偉くなっていったら自分の収入とか老後とかを考えるようになるんですか?

酒井
20代の頃は理想に燃えているので、一番広いことを考えますよね。でも年を重ねるうちに、「どうやったら実現可能性の高い政策が作れるか」ということを考え始めるようになるので。
安田
なるほど。だんだんと利害調整を考えるようになると。官僚さんでもそうなんですね。

酒井
結局のところ、官僚がいろんなところの利害を調整していく役割を担うので、より狭い範囲での利益を実現することが中心になっていく気がしますね。
安田
ああ。自分の利益に偏っていくということじゃなくて、具体的に利害関係のある人のことを考えていると、結果的に狭くなっていくっていうことですね。

酒井
そうですね。今話をしながらそう思いました。
安田
ちなみに政治家さんって、地方で選ばれないと国会議員になれないというのがすっごい矛盾していると思うんですけど。地域の利益を最優先させる人を国の政策決定の場に持っていっていいんだろうかと。

酒井
それはおっしゃる通りですね。日本の政治家がダメになった理由として、小選挙区制を挙げる方は非常に多いです。
安田
ああ、確かによく聞きますね。

酒井
例えば今の小選挙区制だったら勝てないようなタイプの人が、中選挙区だったら3番目とかで通れたんですよ。そういう人は別に地元第一じゃなくてもよかったんです。
安田
なるほど。それが小選挙区になるとそうもいかないと。

酒井
そうなんです。今の小選挙区って一国一城の主なので、一人でその地域のことを全部できなきゃいけない。そうすると、票にならない外交政策とか防衛政策とかに時間を使う人が減るんですよね。
安田
その辺は票にならないんですね、地方では。

酒井
地方の皆さんにとっては、日本の防衛がどうこうっていう話はあまり関係がないというか(笑)。
安田
例えば「私はこの県の代表として国会議員になるけれども、県のことより国のことを優先します」なんて言ったとして、「そういう人こそ我が県の代表だ」みたいにならないもんなんでしょうかね?

酒井
どうでしょう。今の小選挙区の地盤って、県議会議員とか市議会議員よりも下手すると狭かったりするわけですよね。
安田
ああ、なるほど。ということは票を取らなきゃいけない数も少ないですよね。

酒井
そうですね。例えば政策は任せたからもう好きなことやってくれ、という委任を受けていれば通るんですけど、その人間関係を作るには、毎日田んぼに立って握手しないといけない。
安田
そこに矛盾があるわけですね。

酒井

世襲の方は毎日田んぼに立たずに政策のことだけを考えることはできますからね。

安田
なるほど。実際に政治家っていうのは、国会議員になったらやっぱり地方より国のことを優先するんですか?

酒井
いや、やっぱりそういう方は選挙に落ちることも多いのでなかなか難しいですね。
安田
でも本当は、地方より国家を優先する人が国会議員になるべきですよね。

酒井
もちろんそうですね。皆さんそう思って政治家になっているはずなんですけど(笑)。
安田
そりゃそうですよね(笑)。では政治家の話が出たところで、次回は官僚さんの話を聞いていきたいと思います。

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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