第245回「セブン&アイグループの展望」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第244回「保育士を活かす方法」

 第245回「セブン&アイグループの展望」 


安田

イトーヨーカドーお店をどんどん閉めているそうです。

石塚

セブンイレブンに集中するということですよ。だけど、それも安泰ではない。

安田

セブンは好調じゃないんですか?

石塚

コンビニって店舗によって、売上の差がものすごく激しいんです。なので全部のお店が良いとは限らない。

安田

そりゃあそうですよね。

石塚

日販80万を超えるようなお店もあるけど、日販40万とかもあって。そういう店舗にものすごくパワーを割かないといけないわけです。

安田

放っておくわけにもいかないと。

石塚

優等生は放っておいても売れるからいいんです。だけど売上が伸びない店にパワーをかけても、そんなに生産性は上がらない。皮肉なことですがこれがコンビニの宿命ですね。

安田

ほとんどのお店はFCなので、オーナーに任せておけばいいじゃないですか。

石塚

それじゃあ売上は伸びないわけですよ。

安田

「FCオーナーになりたい」という人さえ増えていけば、本部は安泰じゃないんですか。

石塚

そんなに単純ではないですね。コンビニの成功確率って年々下がってますし。

安田

どういう理由で下がってるんですか?

石塚

店が増えてるから。同じ業態でも平気で近くにぶつけられるじゃないですか。

安田

「何メートル離れなきゃいけない」とか、決まりはないんですか。

石塚

一応の決まりはあります。けど本部に「そこに作るな」とは言えない。

安田

ほんと目と鼻の先にありますよね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

どうしても店舗によって勝ち負けが分かれちゃうんでしょう。

石塚

コンビニの商圏って半径750メーターなんですよ。

安田

へぇ~。

石塚

750メートルの輪をつなげていく。それで日本中を網羅するというのがセブン&アイ・ホールディングスの戦略なんです。だけど、なかなか机上の計算どおりにはいかない。

安田

750メートルも離れていないような店、いっぱいありますけど。

石塚

あります。同じ商圏の中に「あっ、またここにも」みたいな。

安田

今後はイトーヨーカドーを閉じて、さらにコンビニを増やすんですよね。

石塚

食品スーパーって、コンビニとは比べものにならないぐらい利益率が低いわけです。売上はたくさんあるけど儲からない。たとえば大根1本売って30銭とか。

安田

確かにそういうイメージです。

石塚

コンビニの収益率と比べちゃうと食品スーパーって儲からない商売なんです。

安田

なるほど。だからコンビニにシフトするわけですね。

石塚

ただ食品スーパーってブレがないから。地域ごとの食品スーパーはずっと続いているし、一定の利益が出る。景気にも左右されにくい。コロナでも手堅い商売なんです。

安田

じゃあ、なぜ撤退するんですか?

石塚

株主目線に合わせるしかないので。収益率だけで比較すると「儲からない事業にこれ以上突っ込むな」という話なんですよ。

安田

株主には逆らえない?

石塚

おっしゃる通り。セブン&アイはメインの5事業がありまして。いちばん収益率のいい事業ってどこかご存じですか?

安田

セブンじゃないんですか。

石塚

もう1個あるんですよ。抜群なのが。

安田

何ですか?

石塚

セブン銀行。

安田

セブン銀行ってそんなに儲かっているんですか!?

石塚

セブン銀行はもう凄いですよ。毎日チャリチャリ利益が落ちるから。

安田

あの機械を設置しているだけですよね。

石塚

おっしゃる通り。その次がコンビニエンス事業。で、だいぶ下がるけど次が食品スーパー事業。そして、そろそろ売却と言われている飲食事業ですね。デニーズとか。

安田

なるほど。

石塚

そして、とうとう売却が決定したのが、西武そごうです。

安田

話を聞いてると上の2つしか残らない気がするんですけど。

石塚

そうなんですよ。

安田

それだけでグループ全体の収益を賄えるんですか。

石塚

株主還元だけを考えたら、「即座に食品スーパー事業をたたき売って、強いところに選択と集中をせよ」ということなんです。

安田

でもそれだけだと、だんだん利益も減っていくでしょう。

石塚

おっしゃる通り。セブン銀行とコンビニだけで拡大し続けられるかといったら、厳しいです。

安田

ということは、また新たな事業をやるんでしょうか。

石塚

もちろんやるでしょうね。今のままだと利益も頭打ちだから。人口減少社会になると地方のコンビニは壊滅的に閉まり始めます。

安田

コンビニが減っていくんですか。

石塚

人口減だとそうせざるを得ない。四谷の本部は真剣に次を考えてると思います。

安田

セブン銀行はなぜそんなに儲かるんですか。銀行はATMが儲からないから設置しなくなったわけですよね。

石塚

セブン銀行は「振り込みと出金」に特化しているからです。

安田

特化してるから儲かるんですか?

石塚

あのATMにいろんな地方銀行の「ここで下ろせる」という機能が付いてるわけです。

安田

そんなのは都銀のATMにも付いてたじゃないですか。手数料だけでそんなに儲かるなら、なぜ他の銀行は撤退したんでしょう。

石塚

家賃が高いんですよ。

安田

家賃?

石塚

銀行の場合は物件を借りて、ATMコーナーを設置しなきゃいけない。

安田

採算が合わないってことですか。

石塚

街にあるATM1台の月間維持費って知ってますか?

安田

いや、知りません。

石塚

月間30万ですよ。

安田

家賃が高いんですか?

石塚

家賃と、電気代と、メンテナンス料ですね。だけどコンビニだとどうですか?

安田

コンビニの中につくれば家賃は必要ないですよね。

石塚

おっしゃる通り。コンビニは24時間開いてる。間違いなく人も来る。電気もついてるしエアコンも効いてる。一緒にメンテナンスもしてくれる。

安田

なるほど!言われてみればよくできてますね。

石塚

凄いモデルですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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