中東で見つける小さなブルーオーシャン
第2回「イスラム世界と過激派とマーケティング」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

質問:イスラム過激派は一部の人だけというのは本当ですか?普通の人は危なくないんですか?

過激派は確かに存在すると思いますが、数についてはよくわかりません。
国や地域によっても異なると思うので、個人の経験からしか述べられませんが、少なくとも私の出会った人の中にはいなかったように思います。

中東と聞くだけで過激派を連想したり、中にはアラビア文字を見るだけで「なんか怖い」と感じる人もいますが、それは過敏反応のように思えます。

サウジアラビアやパキスタンは、それぞれアルカイダやタリバンといった国際的武装組織の発展と深い関係がありますが、ではその国に住んでいるのはそういう人たちばかりかというと、もちろんそれは違います。

「日本人は親切な人間だけで構成されている」とか「日本は原発事故で全土が放射能汚染されている」という文を読むと相当な違和感を感じると思いますが、それと似ていると考えてもらっていいかもしれません。

実際どんな人たちかと言えば、のんびりした人が多いというのが率直な印象です。
単なる国民性かもしれませんが、陽気でフレンドリーな人達が多く、過激派のイメージを持って接するとおそらく拍子抜けするでしょう。
総じておしゃべりで、会話量が大変多いのも特徴です。
人がそういう感じなので、街も全体的にのんびりしており、場合によっては日本よりも平和を感じる瞬間さえあります。
もちろん心の中の過激さまではわかりませんが、少なくとも今のところ拉致された経験はありません。

気をつけることといえば、

①現地文化のマナーに則ること。とくに宗教はアイデンティティの根幹に関わるので、リスペクトが必要。
②危ないと言われている地域には行かず、目立った行動をしないこと。
③窃盗や交通事故といった日常に潜む危険に気をつけること。

細かく挙げればもっとあるでしょうが、こういった基本的事項を守っておけば、とりわけ過激派のことで気を揉む必要はないと思います。

陽気な人々

ISの出現以降、日本では「過激派」「原理主義」という言葉がイスラムと結びつけられることが特に増えたように思いますが、過激派というなら強硬手段を辞さない環境保護団体も過激派ですし、原理主義という言葉も元はキリスト教由来の用語です。
つまり、過激で原理主義的な人達はイスラム世界に限らずどこにでもいるのですが、ついイスラムと結びつけてしまうとすれば、メディアの影響が大きいのかも知れません。

ISは広告宣伝活動に長けていて、効果的に恐怖を与えることに成功した組織です。
いわゆる炎上マーケティングが抜群に上手いとも言えるでしょう。
過激派や原理主義という言葉を聞いてイスラムをイメージするようなら、それはある意味で彼らの術中にハマっているとも言えます。

ビジネス面から言えば、「中東こわい」と遠ざけるのは、結構もったいない気がします。
市場が大きく、日本製品に対する信頼も厚い。
また一旦取引が始まると信用ベースでの取引になることが多いので、日本人の商売感覚にもマッチしやすい部分もあります。

一方、メディアにはネガティブな情報ばかり。
たとえ市場の可能性に気づいてはいても、大きな企業であればあるほどリスク回避の観点から敬遠するでしょう。

つまり、勝手に参入障壁が高くなっている地域なのです。

みんなが及び腰の中、横からスッと壁の向こうに行けるとしたら?
タイトル通り、まさにブルーオーシャンが見つかるかもしれませんね。

両替後の札束ではしゃぐ inサウジアラビア

 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ)

和光株式会社 専務取締役。
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

感想・著者への質問はこちらから