第51回「サウジアラビアのエンタメ産業といってもイメージが湧きません。具体的にはどのような感じなのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「サウジアラビアのエンタメ産業といってもイメージが湧きません。具体的にはどのような感じなのですか?」

   回答   

保守的なイメージの強いサウジアラビアですが、将来的に国際的スポーツやエンターテインメント分野において地域のハブになる可能性がある、と私は感じています。
私が2021年12月の渡航時に現地で見たものをお伝えしましょう。

●Formura 1の誘致
サウジアラビア初のF1グランプリが開催されました。
ジェッダの紅海に面して敷設された市街地サーキットで、全レース完全ナイターで行われました。

紅海の地平線に夕日が落ちていくにつれて、レース開始を待ち望んでいる会場の興奮が増していくのを感じます。


(↑アクロバットチームが会場を盛り上げる)


(↑決勝開幕の様子)

決勝の会場には、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子とともに観戦を楽しむマクロン仏大統領の姿も。
2023年にもサウジアラビアグランプリの開催が予定されており、次回はジェッダではなくキッディーヤというリヤド市南西部にある都市です。ここにも新たなサーキットが敷かれることになります。
ちなみに開催期間中は学校が休みになっており、これが「家族や友達と楽しんで」というメッセージだとすれば、国全体で取り組んでいるのを感じます。

●レッドシー国際映画祭(https://redseafilmfest.com/en/
紅海沿いの都市ジェッダにある世界遺産、ジェッダ歴史地区。
ここで国際映画祭が開催されました。
サウジアラビアで映画が解禁されたのはついこの間のこと。2018年までの35年間、映画館すら存在していませんでした。それなのに、もう国際映画祭です。
情緒あふれる古い街並みと最新のパビリオンが織りなすコントラスト。
その独特の雰囲気に新鮮さを感じたのか、地元民も多く訪れていました。

道のあちこちに伝統的な料理の屋台が出ていて、夜店のような楽しさもあります。
今年も12月に開催されます。

●音楽イベントの解禁
映画だけでなく、音楽イベントもつい最近まで禁止されていました。
しかし、上述のレッドシー国際映画祭ではワイクリフ・ジョンがコンサートを行っています。
また、F1会場近辺の特設ステージにはジャスティン・ビーバーも来ており、私も観ました。ジャスティンのライブ開始は午前0時を過ぎていましたが、熱狂の一言。
多くのサウジ人は日没後に動き出すため、非常に元気です。
さらに、首都のリヤドでは『MDLBEAST(ミドルビースト)』というEDMイベントが開催され、世界的に著名なDJであるスティーヴ・アオキやデヴィッド・ゲッタ等を招聘、4日間で70万人以上を動員しています。地域最大の音楽イベントが誕生したと言っていいでしょう。

(↑MDLBEASTで楽しむ人々。https://saudigazette.com.sa/article/614846より)

●日常的な楽しみも
非日常的なイベントだけではありません。最新のショッピングモールやカフェが次々とできており、2年前の景色とずいぶん違っていました。
特にカフェは雨後のタケノコのように増えています。
サウジの人々はカフェタイムが好きです。
陽が沈み涼しくなった頃に街へと繰り出し、家族や友人と憩いのひと時を過ごします。
また、これまでは男女が同じ空間を共有することに対して制限がありましたが、映画館やコンサートの解禁からもわかるように大幅に規制が緩和されています。
古い店舗は、男性のみしか入れない「シングルセクション」と女性も入れる「ファミリーセクション」に分かれていましたが、新しく造られるお店ではそういった隔離が見られません。
夜9時、10時といったピークタイムには「カフェはいくら作っても足りない」と言われるほど、老若男女問わず多くの人で賑わいます。

(↑サウジ発のコーヒーチェーン、OVERDOSEは24時間営業)

このように、日常か非日常かを問わず、国内で楽しむことのできるエンターテインメントが増えています。
上に挙げたものは一例で、私の知らないものもまだまだたくさんあるはずです。
なぜ短期間でこれほど変わってきているのか?
長らく禁止されていたもの(映画、音楽、男女同席)を解禁してまで?
その理由とは、背景とは。詳細は次回。
シュクラン・マッサラーマ。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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