日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「ラマダンで毎年イスラム教徒は断食しますが、大変ではないのでしょうか?」
今年のラマダン期間は4月13日から5月12日です。今週始まったばかりですね。
ラマダンと聞くと、どんなイメージを持たれるでしょうか?
「断食でしょ?大変そう」とか「デトックスできて美容と健康に良さそう」というイメージを持っている人は私の周囲にも結構います。
日本で断食というと数日間を1クールとして行うパターンを思い浮かべるかもしれませんが、イスラム教の断食は「太陽が出ている間は食べ物を口にしない」というスタイルで、日没後は食べてOKです。つまり1日で1クールです。
仕事は時短になるケースはあるものの、基本的に通常通り行われますし、どこか特別な場所に篭って断食を行うこともありません。
普段どおりの日常に断食が差し込まれると、どのようなことになるのでしょうか?
実際の見聞
一度ラマダン期間中にパキスタンを訪れたことがあります。
日中は普通に仕事です。みんなご飯を食べていないだけです。ムスリムでない私はホテルで通常通り朝食を食べ、昼過ぎに移動のために外に出ました。いつもどおりドライバーと待ち合わせて出発したのですが、いつもより運転が荒いのです。いつ最後に食べたのかと聞くと、夜明け前との回答でした。7時間ほど食べていない計算になります。
渋滞はもともと頻繁に起こりますが、心なしかクラクションの音を聞く回数も多い気がします。太陽が昇ってから食べていないので、イライラが募っているのかもしれないなと思いました。
水も飲んではいけないことになっているのですが、暑い夏の日だったので喉が渇きます。「君たちはムスリムじゃないから別に水飲んでもいいよ。倒れたら大変だ」と言われるも、実際にペットボトルに口をつけるとやはり視線を感じます。事情がわかっているスタッフならともかく、見知らぬ人々からは「アイツ水飲んでやがるぜ」と思われている気がして、かなり気を遣った覚えがあります。それからは喉が渇いたらペットボトルの水をトイレに持ち込んで飲むという、学校のトイレでタバコを吸うヤンキーのような行動を繰り返していました。
(かったるくてモスクで寝る人々。仕事はいいのか?と思う一方、気持ちもわかる)
「大変そう」というイメージはある程度そのとおりな気もしますが、その分日没後に食べるイフタール(断食明けのご飯)が盛り上がります。
テレビをつけるとイフタールまでの時間をカウントダウンしている番組があったりと、どこか日本の年越しの雰囲気とも少し似ています。
カウントダウンがゼロになり、「OK、食べていいよ!」となれば大変な勢いで食事が始まります。溜めていた食欲が夕食時に爆発する形です。
私も一度試しに日中食べずにいましたが、空腹が最高の調味料となり、めちゃくちゃ美味しかった記憶があります。
ラマダン期間中は、静かに断食するというより、むしろお祭りに近い空気があります。
街が微熱を帯びるというか、特に日没後はみんなフィーバーしてテンション高めで、ビジネス的にも繁忙期となります。これが一ヶ月間続くのです。ラマダンはまさに商戦期です。
日本人が断食という言葉からイメージするものと異なる部分も多いかと思います。
上手に活用するとデトックスできて健康に良い、というのは否定しませんが、食生活はドカ食いスタイルに切り替わりがちなので、気を抜くとむしろ太ってしまうことも多々あるようです。
それもあって、女性向け雑誌やウェブには「ラマダンを太らずに乗り切る10の方法」的な特集がよく組まれています。
(「私のラマダンダイエット&フィットネスプラン」。サウジのウェブ記事より)
日本では男女問わず美容やダイエットへの関心が年々高まっていますが、アラビアをはじめとするイスラム圏でもそれは同じです。その一方で、ダイエットに励む人々にとっては障害ともなりうるラマダンが毎年来ます。健康的で美味しくて、食べても太りにくい食品があったら、大変喜ばれるかと思います。日本はこの分野が進んでいるのではないかと予想していますが、ビジネスチャンスを感じた方は是非トライしてみましょう。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。