このコラムについて
経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週金曜日21時。週末前のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。
『ゴッドファーザー』に見る二代目の苦悩
ビジネスに直結しそうな映画と言えば、何を置いても『ゴッドファーザー』ではないだろうか。1972年に公開されたフランシス・F・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』はマーロン・ブランド演じるマフィアのドン、ヴィトー・コルレオーネの帝国が二代目に引き継がれるまでの話である。
1974年の第1作『ゴッドファーザー』ではすでに強大な帝国となったコルレオーネファミリーが新しい時代の変化に付いていけず、少しずつ歯車が狂い始める過程が描かれ、もっともマフィアらしからぬ大学出のインテリ、三男のマイケルがヴィトーからファミリーを引き継ぐことになる。
そして、いよいよ『ゴッドファーザーPARTⅡ』である。この作品でコッポラは、マイケルが二代目ドンになっていく様子をシンプルに描くというスタイルを捨てた。マイケルという現代と、父であるヴィトー・コルレオーネがシチリア島からニューヨークに渡りマフィアのドンへとのし上がっていく過去を交互に見せるという構成を採用したのである。
この構成を採用したことで、コッポラは父と子の生き方の違いを伝え、時代の変化を見せつけることに成功した。しかも、尊敬と畏怖の念をもたれる父と、ただ恐れられるだけの存在になっていく息子を活写しながらも、互いの深い愛情を描き出したのである。
つまり、『ゴッドファーザーPARTⅡ』は、マフィアという膨大な利益を生み出す組織が時代の荒波の中で、どのように変化していくのかを見るための映画とも言える。しのぎがギャンブルや売春からドラッグへと大きく舵を切る。なによりも大切だったファミリーの結束が金の前で音を立てて崩れていく。
焦り、疑心暗鬼になり、身内にまで制裁を加えるようになったマイケルは、老いた母に「父さんは家族を大切にしたね」と話しかける。母は「大丈夫。家族はなくならないよ」と慰めるのだが、憔悴しきったマイケルは「時代が違う」と小さく吐き捨てるのだ。
マイケルはビジネスを成功させながら、自らは不幸のどん底に堕ちていく。しかし、それはおそらく「時代が違う」というだけの理由ではないだろう。「時代が違う」と感じてしまう不幸は先代がいる二代目ならではの不幸だ。そして、それを自分自身で容認してしまう弱さは二代目だからこその弱さなのかもしれない。
私は『ゴッドファーザー』が好きで、特にこのPARTⅡがいちばん好きなのだが、この映画を見る度に思うことがある。それは、若い頃のマイケルがデートの時に見せていたあの笑顔を、ドンになってからも時々でいいから見せていれば、彼の人生はもっと違うものになっていたのかもしれない、ということだ。
著者について
植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。