第111回 伝統技術とAIの「理想の共存方法」

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第111回 伝統技術とAIの「理想の共存方法」

安田

いまIT業界ではAIの進化が目覚ましく、人間がやっていた仕事が次々とAIに置き換わっています。そしてこの流れは庭づくりのような伝統的な職人の世界にも、いずれ大きな影響を与えてくるのではないかなと。


中島

そうですね。すでに大手メーカーなどでは、AIを使って庭のデザイン案を作成するソフトが導入されています。更地の情報と簡単な要望を入力するだけで、デザインが自動で生成されるんです。

安田

ああ、やっぱり。デザインの世界ではもう活用が始まっているんですね。


中島

ええ。ただ今の段階では、AIが作るデザインは、どうしても画一的というか、よく見る感じのものになってしまいがちで。

安田

確かに、一般的なパターンの組み合わせで作るでしょうからね。個性的で深みのあるデザインを生み出すのは難しいと。


中島

そうなんです。だからまだ僕自身はAIを使っていませんし、今のところは使う予定もないですね。

安田

なるほど。気持ちはよく分かります。でも最近のAIの進化は凄まじいですからね。一般的な知識だけでなく、特定の個人の知識やスタイルを学習させて、「その人だけのオリジナルAI」を育てることが可能になっているんですよ。


中島

えっ、そんなことができるんですか?

安田

できるんですよ。例えば私がこれまで書いた文章をすべてAIに読み込ませれば、「安田佳生ならこう書く」という文体を学習し、私らしい文章を自動で生成してくれる。これを庭づくりに応用すれば、「中島さんAI」が作れるんじゃないかと。


中島

へぇ。僕が作る庭のデザインや、木の選び方の傾向をAIに学習させるということですか。

安田

仰るとおりです。中島さんがこれまで作られたお庭や設計思想、木の知識などをすべてインプットするんです。そうすれば、新しいお客様から要望を聞いたときに、AIが中島さんらしいデザイン案をいくつか提案してくれる。ゼロから考える手間が省け、より創造的な部分に集中できると思いません?


中島

なるほど…それはすごいですね。デザイン作成の時間が大幅に短縮できるかもしれません。

安田

しかもそれだけじゃなく、お弟子さんが剪定作業をしているときにその写真と完成イメージをAIに送ったら、中島さんの代わりにAIが指示を出してくれるようにもなるんです。「中島さんなら、ここの枝をもう少しこう切るはずですよ」なんて。


中島

は〜、すごい。現場に行かなくても指導ができてしまうわけですね。それが本当に実現できたらすごく助かります。一人で全ての現場を監督するのは物理的に限界がありますから。

安田

そうですよね。AIは単なる自動化ツールではなく、優秀なアシスタントや分身になってくれるんです。人を一人雇うことを考えれば、月数万円の利用料は決して高くない。中島さんがこれまで培ってきた技術や感性を、「AI」という形で継承していく、という考え方もできるかもしれません。


中島

自分の知識だけでなく、例えば「成長が遅い木」という条件で検索すれば、自分がまだ知らない木をAIが提案してくれる、なんてことも可能なんでしょうか。

安田

もちろん可能です。「こういう条件で、中島さんのスタイルに合う木を提案して」と指示すれば、膨大なデータの中から最適なものを探し出してくれますよ。

中島

それは本当にありがたいですね。自分の知識だけでは、どうしても発想が偏ってしまうことがありますから。それにしてもちょっと前は「AIが仕事を奪う」なんて言われていたのに、随分と状況が替わってきたんですね。

安田

ええ。それに最終的に石を積んだり、木を切ったりするのは人間なので、そもそもAIが全ての作業を奪うわけではありませんから。デザインを考えたり情報収集をしたりなど、これまで多大な時間がかかっていた部分をサポートしてもらうんです。


中島

そうかそうか。そうすればもっと現場での手仕事に集中できるようになるんですね。

安田

そうそう。それがAIとの理想的な共存の形だと思いますよ。

中島

なるほどなぁ。確かに見積もりの作成などをAIに任せられれば、かなり業務が効率化されそうです。人間がやるよりも早くて正確でしょうし。

安田

それは余裕で作成できますよ。最初は少し戸惑うかもしれませんが、スマホを使うのと同じで、一度慣れてしまえばもう手放せない。どうやって動いているかの仕組みを理解する必要なんてなくて、便利な道具として使いこなせばいいんです。

中島

なんだか「未来の庭師の姿」が少し見えたような気がします。伝統を守るだけでなく、新しい技術をいかに取り入れていくかが大事になってきますね。

安田

そうですね。AIを使いこなす庭師が、今の2倍3倍の仕事をこなし、より多くの人を幸せにしていく。そんな未来がすぐそこまで来ているのかもしれません。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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