庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。
第56回 家と庭のバランスもガーメントデザイナーにお任せを
中島さんはガーメントデザイナーとしてたくさんのお庭を作られているわけですけど、この「ガーメントデザイナー」という名前も一緒に考えさせていただいたんですよね。
はい、その節はありがとうございました。人が自分に合う洋服を仕立てるように、「家に合うお庭を仕立てる専門職」という意味を込めて付けていただきました。
そうでしたね。ちなみに洋服って、奇抜な格好なのにすごく似合っている人もいれば、無難な服なのになんかしっくりこない人もいるじゃないですか。それと同じ感覚で、「この庭はこの家には合っていないなぁ」と感じることもあるんですか?
もちろん他人様の庭に意見を言うつもりはありません。でもあくまで私個人の感覚だけで言わせてもらうなら、正直ありますね。割合でいうと半分くらいは……
おっと、そんなに(笑)。でも庭のプロである中島さんが言うんだから信憑性があります。ちなみに「合わない」といってもいろいろあると思うんですが、例えば色合いとかってことですか?
それもありますね。家の外壁がグレー系なのに、ブロック塀は明るい色の化粧ブロックだったり。あとは素材感の違いとか。流行りのアルミの壁ががっしり作られた奥に、繊細な日本家屋が見えていたりすると…
なるほど。ガタイのいい外人さんが着物を着ているような感じですか(笑)。
そうですね(笑)。建物が小さめだったり背が低かったりするのに、壁だけ高く作られていると、アンバランスな感じがしてしまいます。
そうですよね。そう考えるとやっぱり建物と庭のマッチ感が重要ってことですね。でもそう考えてみると、中島さんはあまり塀を作らないイメージがあります。建物がちゃんと見えるような庭が多いような…
そうですね。結果的にはそういう造りが多くなっています。とはいえ、お客様がクローズな感じをご希望であれば、塀を作ることもありますよ。その場合もどこか目線が抜けるようにはさせていただきますが。
なるほどなるほど。完全に隠してしまうと、閉塞感を感じてしまいそうですもんね。外から帰ってくるときにも家が見えなくなっちゃうし。
そうですね。ちなみに建物と塀の距離も重要で。建物から2〜3メートルしかないところに高い塀を立てると、庭に出たときの圧迫感が強すぎてしまうんです。結果、家と庭がマッチしてこない。
ああ、なるほどなぁ。色味だけ合っていればいいわけじゃないんですね。様々な側面でマッチ感を演出していく必要があると。でも、中島さんが「合っていないな」と感じる家は、庭師さんがそういうことを考えなかったんですかね?
お客様に聞いた話だと、「どういうお庭がいいですか?」と聞いて、言われるままに作ることが多いらしいんです。「それだと建物とマッチしませんよ」なんて言わないみたいで。
ああ、そういえば美容師さんからも同じような話を聞いたことがあります。Instagramとかで気に入った髪型の写真を見つけて、それを投稿した美容師さんに「これにしてください」とオーダーするんですって。で、美容師さんは言われた通りの髪型にすると。
へぇ、そうなんですか。自分がやりたい髪型をするのは自由ですけど、人によって似合う似合わないがあるような気もします。
そうなんですよ。美容師って、本来はその人に合う髪型を提案するのが仕事のはずなんです。でも今は言われた通りに切る人が圧倒的に多い。そういう意味では、お庭もそうなってきてるんですかね。
そうかもしれません。お客様からいただいたご要望を、本当に似合う形にアレンジしていくのがプロの仕事だと思うんですが……
同感です。もちろんお客さんの要望も大事なんですけど、かといって言われたままに作るのは違うよなぁと。まして、でき上がった後に違和感が生まれることをわかっていて、それを伝えないのはどうなんだろうと。
そうですね。とはいえ、最初にお伝えしたように、他人様の庭に意見をいうつもりはないんです。ただ、自分たちにご依頼してくださったお客様に対しては、できる限り真摯に向き合いたいんですよね。
いいですねぇ。そういう意味では、以前からこの対談で出ているように、家が完成する前に声をかけてもらうのもいいですよね。中島さんの提案に合わせて、家の仕様を変えたりもできそうですし。
ああ、そうしてもらえると、建物も庭もベストなものを提案できると思います。腕の良い設計士さんを紹介することもできるので、ぜひお気軽にご相談ください。
対談している二人
中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役
高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。