第88回 日本の庭師が海を渡る時代

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第88回 日本の庭師が海を渡る時代

安田

中島さんは結構海外でお庭を作られたりしてますけど、今後も増やしていかれる予定なんですか?


中島

増やしていきたい気持ちはありますね。やっぱり海外の方が規模の大きい仕事ができたりするので。

安田

ああ、なるほど。「腕の見せどころ」なわけですね。単純に海外の方がギャラも高いですしね。


中島

確かにそれもありますね。為替で2倍になることもありますし。

安田

最近、寿司職人とか日本の技術を持った人が、どんどん海外に行ってるんですよ。ニューヨークで寿司を握ると、めちゃくちゃ稼げたりするので。中島さんみたいに腕のある人ほど、海外で活躍する機会が増えていくんだと思います。


中島

そうなんでしょうね。もっとも、僕の周りでは海外で仕事をしたことがある人の方が珍しいんです。ほとんどの人が国内だけでやられてますね。

安田

じゃあまだこれからって感じですね。でも日本の庭師さんって、本来は海外でもっと求められていいと思うんですよ。庭師さん側からしても、こだわって庭を作りたいならどんどん海外に出ていった方がいいような。


中島

まぁ確かに日本だと、「門柱と駐車場とカーポートだけ」みたいな仕事も多いので、「もっと技術を発揮したいのに…」と考える人もいると思います。

安田

ですよね。工夫の余地も少ないというか、技術の差が出にくいというか。しかも予算も限られてるし。そもそも「美意識や感性にお金をかける」という発想がなくなってきている気もしますしね。


中島

そうかもしれません。まぁ土地も家も高いし、ある程度は仕方ないと思うんですけど。

安田

それはそうなんですけどね。ただシンプルに、300坪とか400坪くらいある大きな庭を任されて、しかも予算もたっぷりあって、「さぁここを中島さんの思う通りにデザインしてください」って言われたら楽しいじゃないですか(笑)。


中島

職人冥利に尽きますね(笑)。そういう依頼をもらうのは海外の方が可能性が高いわけですが、それはそれで課題もあって。例えば中国やアメリカって、大きな機械しか流通していないことが多いんですよ。

安田

ああ、広い土地を大きな機械で作っていく感じなんですね。


中島

そうそう。だから細かい作業をするのが難しかったりするんです。日本から持ち込もうにもあれこれ制限があって大変で。

安田

ははぁ、そのあたりはやっぱり勝手が違うわけですね。ちなみに現地で雇う職人さんたちの腕はどうなんですか? こちらが求めたクオリティで仕上げてくれるんでしょうか。


中島

う〜ん、ケースバイケースですかね(笑)。「大丈夫、できるよ」とは言ってくれるんですが、びっくりするくらい違う仕上がりになることもあって(笑)。

安田

海外あるあるですね(笑)。「できる」と言いながら、できてない。日本では「できません」って言う人が多いのと対照的ですよね。ちなみに人手自体は簡単に集まるんですか?

中島

ああ、人を集めること自体は問題ないですね。日本のような人手不足感はあまりないです。

安田

なるほど。質の面では課題あるけど、人手は揃うと。他に困ることってあります? 食事とかが合わなかったら大変そうですけど。


中島

僕が行った場所は海沿いで海鮮も美味しかったので、問題なかったです。たまたま食に恵まれた場所だっただけかもしれませんが。

安田

食の好みにうるさい人だと、海外勤務は難しいかもしれませんね。ともあれ道具と人の問題が大きいとなると、やっぱり拠点を決めて現地で人を育てる方向になるんでしょうか。

中島

そうですねぇ。そういう形が現実的なんでしょうね。もしくは日本で一緒に働いていた仲間と一緒に行くのもありだと思います。

安田

確かに確かに。ちなみに将来的にどれくらいの割合で海外の仕事をやっていきたいですか?

中島

半分くらいは海外でもいいのかなと思います。今までのお客さんのメンテナンスもありますし、完全に離れるというのは難しいでしょうから。でも気持ちとしては、もっとやってみたいかもしれない。

安田

は〜そんなに。時々は日本に帰ってきてもらえるように、日本国内にも「作ってて楽しい庭」を増やしていかないといけないですね(笑)。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

Facebook

高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから