第118回 クレーム処理こそ経営者が率先してすべき

この対談について

「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。

第118回 クレーム処理こそ経営者が率先してすべき

安田

中辻さんはここのところ、「優秀な社員が育ってきているからいろんなことを任せるようにしている」と仰っていますよね。でもどんなに優秀な部下でも「これだけは任せられない」という仕事もあると思うんです。


中辻

つまり「経営者がやらなくてはいけない仕事」っていうことですよね。それでいうと1つ明確にあるのは「ミスの処理」ですね。クレーム対応なども含めて、「自社の失態」について責任を取るのは私の仕事と捉えています。

安田

はー、なるほど。でもそれってすごく嫌な仕事じゃないですか。それこそ社員に「代わりに対応しといて」って言いたくなると思うんですけど(笑)。


中辻

笑。やっぱりそこには「雇用する側」と「雇用されている側」という立場の違いが明確にあるので。仮に部下の子が失敗したり至らない点があったりした時は、「会社の長」として私がしっかり対応すべきだと思っています。

安田

以前お話ししてくださった「チラシを拾いに池に入る」みたいなことも、中辻さんにとっては当たり前の行動だったと(笑)。でも正直なところ、クレーム処理で一番大事なのは、一番偉い人がどれだけ早く出てくるかということなんですよねぇ。


中辻

そうなんですよ。だって自分が逆の立場だと考えた時に、ちょっと言い方は悪いですけど、下っ端の社員が来て「すみません〜」なんて言われても、こちらの温度感が伝わってないのかなってさらにイライラしません?(笑)

安田

わかります(笑)。「事情はよくわかっていないけど、とりあえず怒られに来ました」みたいなね。


中辻

そうですそうです。何の情報共有もされていないような人を寄越されても、「この人、何のために来たんや?」って思ってしまいますよね(笑)。

安田

そういう意味で考えると、中辻さんが率先してミスに対応するのは、お客さんに対する責任感ということなんですかね。部下を守るためというよりも。


中辻

そうですね。結局、会社として何かミスがあったということは、どこかで仕事の詰めが甘かった証拠だと思うんです。そしてその最終責任者は私なので、私が出ていくのは当然で。「今後二度と同じミスはしないぞ」という戒めも込めて、すぐに対応するようにしています。

安田

なるほどなるほど。ではその「ミス対応」以外に「経営者にしかできない仕事」ってありますか?


中辻

そうですねぇ。ちょっと曖昧な言い方ですが、「会社の舵を切ること」ではないでしょうか。例えば私は日頃から部下の子たちに対して、「5年後どういう会社にしたいか」という話をよくしているんですけど。

安田

ああ、なるほど。経営者は会社という船の船長だということですよね。「自分たちは今ここを目指して進んでいるんだよ」と説明してもらえたら、乗組員も安心です。「ということは自分はこういう役割を全うすればいいんだな」とわかりますし。


中辻

そうなんですよ! まさにそういう意図で話しているんですよね。そして最近は1から10まで指示せずに5くらいに留めているんです。6から10は自分で考えてもらいたいなと。

安田

は〜、やっぱり素晴らしいですね。経営者として会社のビジョンを語り、自分の頭で考えて行動させつつも、何か問題が起きたら率先して経営者自ら責任を取る。これって、対外的なものだけでなく、社員のモチベーションから考えてもとても大事なことだと思います。さすが中辻さんですね!


中辻

ありがとうございます(笑)。

安田

でも敢えて言うと、それって会社規模が大きくなればなるほど難しくなってくる部分でもあって。要するに経営者の目が全部には届かなくなっていくわけです。今後会社が大きくなって、中辻さんの知らないところで何かが起きた時はどうします?


中辻

むしろ「経営者に情報が行き渡っていない状況」を改善する必要があると思いますね。先方に謝罪に行かなければならないという段階まで進んでいるのに、経営者が何も知らされていない状況自体がマズイなと。

安田

確かになぁ。それこそ「何もわからないけど謝罪に行けと言われたから来ました」じゃ、例えそれが会社のトップだろうが納得はできませんもんね(笑)。


中辻

そう、そんなのありえないです(笑)。だって謝罪なんてミス対応のごくごく一部分なわけで。

安田

ほう、なるほど。つまり他にもやるべきことがある?


中辻

ええ。そもそも「起こってしまったことはしょうがない」わけじゃないですか。重要なのはその後で、「どういう不都合が発生しているか」「その不都合をどうしたら解決できるか」「お客様の信頼をどう取り戻すか」ということを考えなければならない。そしてそれを担うのは経営者以外にいないわけで。

安田

いやぁ…すごいですよ。普通、怒っている人からは逃げたくなるのに、中辻さんってそういうシーンに強いんですね。私なんて、自分が会社をやっていた時に「社長を出せ!」なんて言われたらトイレに隠れていましたから(笑)。


中辻

笑。私も20代の頃は、クレーム対応するのは嫌でしたよ。でもいろんな修羅場をくぐりぬけてきて、今はもう大丈夫になりました(笑)。「この人はどういうところに不満を持って、これだけ怒っているのか」というのを見極める力がついてきたんだと思います。

安田

へぇ、そうなんですね。でも中にはワーワーずっと怒鳴り続けるような人もいるじゃないですか。そういう人にはどういう対応をしているんですか?


中辻

まずしっかり話を聞いて、怒っている理由を理解しようとしますね。一生懸命、相手の気持ちに寄り添おうとするんです。実際、2時間半くらいずーっと怒られ続けたこともありますから(笑)。

安田

2時間半?! それ、最終的にどうなったんですか?


中辻

それだけ長時間、自分の話を聞いてくれたってことで、だんだん満足してきたみたいで。最終的にちょっと仲良くなって帰っていかれました(笑)。こういう経験も踏まえて、クレーム処理をする時はしっかり相手の話を聞き、自分たちが悪かった部分についてはしっかり謝罪し、今後はどう対応していくか、というのを自分の口から伝えることが大事だと考えるようになりました。

安田
なるほどなぁ。やっぱり中辻さんは経営者向きだということが、改めてよくわかりました。

 


対談している二人

中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役

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1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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