「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。
第58回 退職されるかどうかは、すでに採用時に決まっている?
前回の対談の中で、中辻さんの会社は「同じような悩みを抱えている人」を採用することで、うまく組織を作っているなぁと感じていました。
ありがとうございます。
でも、そういうことをうまくやれる会社ばかりじゃないわけで。結果、なかなか社員が定着せず退職者を出してしまう。中辻さん的に、「辞めていく社員」には共通点があると思いますか?
そうだなぁ。やっぱり「組織の暗黙のルール」とか「組織の色」みたいなものに馴染めない人は、遅かれ早かれ辞めていくんじゃないでしょうか。「自分はこの会社に合わない」と感じて。
ということは、退職者があまりに多い場合は、会社のカルチャーの方を変えていくべきなんですかね?
うーん、どうだろう。そもそも会社のカルチャーに合わない人は、採用するべきではないんじゃないのかなぁと思います。
なるほど。つまり「カルチャーに合う・合わない」を重視して採用する、と。
私自身「能力」より「チームワーク」を大切にしているので、そういう方を採用しているように思いますね。もちろん、能力が高いのに越したことはないんですけど(笑)。
確かに、優秀かどうかというのと、会社のカルチャーに合うかどうかっていうのは、また別の話ですもんね。
そうですね。例えばウチの会社で言ったら、社員のお子さんが熱を出したとかで突然お休みをしたとしても、周りのメンバーがフォローするのが当たり前なんです。それがウチのカルチャーだから、「なんで休むのよ」なんて責める人は誰もいない。
ふむふむ。でも世間には「なんで他人の子どもの事で他の社員が迷惑を被らなくちゃいけないんだ」なんて言う人もいそうですけど。
もちろんその気持ちもわかります。だけどそれをよく思えない人であれば、ウチの会社には合わないなと。
たとえその人がめちゃくちゃ仕事できる人でも、採用することはない、と?
ないと思いますね。私自身がそのカルチャーを何より尊重しているので。
なるほど。会社にとって「利益をもたらす人かどうか」を判断基準にするのではなく、「会社の考え方に合うかどうか」を重視すべきだと。
私はそう思っていますね。ただそうは言っても、ウチもまだ社員が7人しかいないので。その人数だから和気あいあいとやれていますけど、もっと人数が多かったらうまくいかないのかもしれない(笑)。
なるほど(笑)。ちなみに社員の皆さんは全員お子さんがいらっしゃるんですか?
いえいえ、いない方もいますよ。
そういう方でも、先ほどの「暗黙のルール」のようなものに対する理解度は高いんですか? お子さんがいるかいないかで、価値観も変わってくる気もするんですが。
うーん、どうなんでしょうね…。今はお子さんがいなくても、今後できるかもしれないし。何より社員同士がお互いの子どもをよく知っているんですよ。ウチ、子連れで出社するのもOKなので。
え、毎日子連れで仕事に行けるんですか?
さすがに毎日はないですけど(笑)。長期休暇中とか、突然の学級閉鎖とか、どうしても預け先の都合がつかない時なんかは、子連れで出社している社員もたくさんいて。
へぇ! 社員みんなで子育てしているような感じですね!
極端に言うと、そうかもしれないですね(笑)。
ということは、そういうのが嫌な人は、そもそも最初からお断りだと。
そうですねぇ…そういう「見えない壁」のようなものを作っていいのかはわかりませんが、少なくとも面接の段階ではウチの社風についてはしっかり説明していますね。
仕事している横で子どもがキャーキャー走り回っている場合もありますよ、って?(笑)
そうですね(笑)。黙々と静かなところで自分の仕事だけをキッチリこなしたい、という人には、ウチの会社は合わないかもしれない。そのあたりは面接でもしっかり伝えているつもりです。
なるほどなぁ。じゃあ逆に「暗黙のルール」にも理解があって、会社のカルチャーにもすごくフィットしていて、これまでずっと頑張ってきてくれていた人が辞めるとなったら。中辻さんだったらどうします?
うーん、ありがたいことにまだそういう経験がないので(笑)ちょっとわからないですね…。でもきっとすごい考えるでしょうね。で、退職したいっていう子と話をして、改善できるようなことがあれば直すから、もうちょっと頑張ってみようよって言うかな。
まずは必死に引き止める、と(笑)。
はい、それはもう(笑)。ただ、例えば「別の職種に挑戦してみたい」とか「独立してやっていきたい」とか、私の力ではどうしようもないことが理由なのであれば、引き止めずに応援しますね!
なるほど。というかこれまでの中辻さんのお話を聞いていると、やっぱり全ては「採用時点での見極め」が一番大事なんだという気がしてきました。
そうですねぇ、私もそれは一番大切にしています。もし採用した人が「カルチャーに合わなかったから辞めます」って言ったとしたら、面接の時になんでそれを見極められなかったんだーって自分自身を責めると思う(笑)。
多くの社長さんって、あまりそこを重視していないのかもしれませんね。社風の話はするでしょうけど、「風通しがいいです」とか「上司にも気軽に提案ができます」とか、いいことしか話さないというか。
ああ、確かに(笑)。そういう面接、たくさん見てきました(笑)。
ですよね(笑)。でもやっぱり、「会社のカルチャーに合うかどうか」が明確になるような見せ方をしないと、採用時点でミスマッチが起きてしまうんでしょうね。
本当にそう思います。以前、私がどういう風に面接を受けてきたかというお話をしましたけど、あの考え方って、何も「面接される側」だけに限ったことではないと思っていて。「面接する側=会社」も、自分のことを大きく見せないとか、取り繕うことはしないっていうのが、大事だと思いますね。
そうですよねぇ。でもほとんどの社長が「この人は高いスキルがあるな」とか「明日からでもすぐに稼いでくれそうな経歴だ」とか、そんなことだけで採用の判断をしていて。
というか、そういう人材が欲しいなら、極論、フリーランスの人とやりとりすればいいんですよ。専門スキルを持った高いレベルの人がいるんですから。
そうか、スキルだけを求めているなら外注すればいいわけですね。
そうそう。社内で一緒に仕事を進めていくのであれば「会社の価値観」に合う人じゃないといけないと思っていて。せっかく採用するんだったら、その人がメンバーに加わることで、社員にとっても会社にとっても良い相乗効果をもたらしてくれる人がいいですよね。
仰るとおりだと思います。中辻さんって「採用」についてよく考えられているんですね。どこの会社も皆、中辻さんのやり方で採用すれば、早期退職する人はぐっと少なくなると思いますよ!(笑)
対談している二人
中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役
1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。