「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。
第87回 経営者から社員に「戻れる人」、「絶対に戻れない人」
前回の対談で、「中辻さんは経営者になるべくしてなった」というお話しをしましたけど、今後の人生、もう一度社員に戻る可能性ってあると思います?
えー…どうやろなぁ…。でも、ないとは言えないかもしれませんね。今の時代、会社がどれくらい続けられるかなんてわかりませんから。
そうですよね。売上が立っていても、別の要因で潰れちゃうことだってありますし。ただ私は、もしそういう事態に陥っても、中辻さんだったらきっと別の事業を始められるんじゃないかなと。
うーん、確かにそうかも(笑)。
ですよね(笑)。
「経営者」としての仕事の楽しみを知ってしまったし、今の会社運営の仕方が私の理想なんですよ。だからもしマメノキカンパニーが潰れてしまったとしても、また別の会社を作って、今いるメンバーと一緒に働きたいです。
ははぁ、それを言える社長さんってなかなかいないですよ。社員さんたちとの一体感、すごいですね。
皆にはいつも本当に助けてもらっているので。それこそベニエ屋さんも、私1人だったら絶対に無理(笑)。皆がいてくれるからこそできたことなので。
ふ〜む、なるほど。じゃあ、ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、仮にマメノキカンパニーが買収されて、中辻さんだけが会社を去らなくてはいけなくなったらどうします? 残った社員は給料も増えてめっちゃ幸せです、なんて言っているとして。
うーん…みんながそれで幸せなんやったら全然いいとは思います。…ただ、すっごい自信満々に言いますけど(笑)、私がいなくなったらみんなも一緒に辞めると思いますね。
へぇ! すごい自信ですね。…でもね、私も社長だった時はそういう風に思ってましたけど、予想とは違った結果になりましたよ(笑)。
そうだったんですか(笑)。まぁ、今よりお給料が増えて待遇も良くなって、みんなが幸せだって思えるんであれば別にいいかな。私1人だけだったら、それこそ何をしてでも生きていくことはできるので。
なるほどなるほど。というのもね、最近、M&Aで事業売却するパターンがすごく増えているんですよ。それでその時に社長が一番苦しむのが、「この事業を売れば自分にはお金が入ってくる。だけど社員を裏切ることになってしまう」っていう葛藤なんですよ。
確かにM&Aって、社員も含めた会社ごと全部売ってしまうわけですもんね。社員さんからしたら「え、社長だけ抜けるん?」って思ってしまうかもしれない。
そうそう。ところが実際にそう心配しているのは社長の方だけでね、社員側は当たり前のように新社長のもと働き続けるんですよ(笑)。「社長が抜けなるなら自分たちも辞めます!」なんて言っていた人も、しれーっと残っている(笑)。
へぇ〜そうなんですか(笑)。でもなんで心変わりしちゃうんですかね。
基本的にM&Aで「買う側の会社」って「売る側の会社」よりもはるかに格上なわけですよ。だからM&Aされたことでいきなり上場企業になったり、業界トップのグループ会社になったりする。
なるほど! 会社の格がグッと上がるわけですね。
そうそう。さらに言えば、待遇も大きく改善される場合が多い。結果、M&Aされたことを喜ぶ社員の方が多くなるんです。売った社長からするとなかなか悲しい現実ですが(笑)。
なるほど…よ〜く心に刻んでおきます(笑)。
笑。ちょっと話が脱線してしまいましたが、中辻さんがまた社員に戻る、ということはなさそうですね。
そうですね。経営者って自分のやりたいことが実現できるし、大変だけどすごく楽しく働けるじゃないですか。嫌なお客さんからの仕事は受けないって判断も自分でできますし。
それ、すごく大事なことですよね。社員だったら「つべこべ言わずにやれ」と言われれば「わかりました」と言うしかないですから。まぁ中辻さんは社員さんにそういうこと言わないと思いますけど(笑)。
はい、絶対言わないです(笑)。
でもそう考えると、中辻さんってもちろん社員としても優秀ではあったんだけど、実際は「社員には向いていない」タイプなんですよね。「つべこべ言わずやれ」って言われても「嫌です」と言いそう(笑)。
あぁ確かに、納得いかなかったことはやりませんでしたね(笑)。でも逆に言えば、納得さえできれば言われていないことまで勝手にやってましたけど。
そうそう。それこそが「経営者の発想」なんすでよ。つまり社員には向いていない。社員って、社長の決めたことを100%受け入れられる「イエスマン」の方が向いているんですから。
笑。だからやっぱり中辻さんは「自分の思い通りにやっていいよ。その代わり成果は必ず出してね」っていう環境の方が向いているんですよ。自分でもそう思うでしょう?
思いますね。そっちの方が遥かに楽です。
でもね、普通の人はそうじゃない。「成果云々は社長の責任でやってくださいよ」って思うもんなんです。だから中辻さんみたいなタイプは、1回でも経営者という立場を経験してしまうと、元には戻れないと思いますよ。仮に社員に戻ったとしても、前よりさらに社長に歯向かうようになってしまうんじゃないかと(笑)。
確かにそうかもしれない(笑)。どこかの企業に社員として入社しても、あっという間にクビになっちゃいそうです(笑)。
笑。だから中辻さんは、今後もずっと「経営者」であり続けてくださいね!
対談している二人
中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役
1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。