第180回 経営者だったら即クビ!?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第180回「経営者だったら即クビ!?」


安田

骨太方針?

久野

はい。岸田内閣が発表した基本方針。

安田

どんな方針でしたっけ。

久野

新しい資本主義という謎の言葉をもってきて。あたかも「世の中変わるぜ」みたいなこと言い出したんです。

安田

よく分かりません(笑)

久野

いろんな人から「新自由主義とか、新しい資本主義って、いったい何なんですか」みたいにめちゃくちゃ批判されて。

安田

だって何言ってるか分からないですもん。

久野

だんだんブレてきたんでしょうね。

安田

つまり何が言いたいんですか?

久野

たんす預金が1000兆円ぐらいあるから、それを運用してもっと活性化させようという話ですね。

安田

つまり「投資して自分で増やせ」ってことですよね。

久野

そういうことです。アメリカは大体67〜68%株式投資してるんですけど、日本は9割近くが貯蓄だと。それをアメリカ並みに投資しようと。

安田

つまり、国としては収入を増やす策はないから、自分で頑張ってくれと。

久野

そうは言えませんから(笑)

安田

新しい資本主義という言葉を使ってるわけですね。

久野

そう思います。

安田

でも1000兆をアメリカ並みに運用したら、すごい勢いで国民の資産が増えていきますよね。

久野

ちゃんと運用すれば5〜6%ぐらいは増えると思います。

安田

ひとつ疑問があるんですけど。給料が増えないのに、なぜ貯金だけ増えていくんですか。

久野

使わずにため込んでるってことですよ。将来が不安だから。

安田

投資して運用するという戦略は正しいと。

久野

正しいとは思うんですけど。ただそんな戦略は誰でも思い付くので。

安田

総理大臣がやることではない?

久野

それはそれでやったらいいと思うんですけど。もっと根幹的なところをやらないと。

安田

たとえば?

久野

たとえば自動車産業が厳しくなってる中で、どこにリプレイスして国家産業を育てるか。

安田

産業を育てなきゃダメだと。

久野

投資に回すのはいいんだけど、稼いでくるお金はどうするんだってことですよ。

安田

でも1000兆もあったら、もう金利だけで食えるんじゃないですか。1000兆の5%って50兆ですよ、久野さん。

久野

すごいですよね(笑)でも投資させようと思うと、リスクが伴うので長期で見なきゃいけないんです。

安田

長期では見れませんか。

久野

なぜこんなに国民がため込んでるかっていうと、将来が不安なわけですよ。だからお金をとっとかなきゃいけないし、生活費以上に投資する人っていないと思うんです。

安田

物価もどんどん上がりそうですし。

久野

入ってくる金額が増えない以上、投資には回せない。とくに低所得者の方は投資に回す余裕なんてない。「富裕層の人はいいよね」って話で終わっちゃう。

安田

「国が代わりに運用します」というのはどうですか。

久野

どうやって運用するんですか。

安田

手堅いGAFA株とかに投資する。日本国内には一切投資せず海外の手堅い株だけに投資。

久野

日本の産業が死んじゃうじゃないですか(笑)

安田

でも久野さん、「日本企業の株は買うな」って言ってたじゃないですか。

久野

自分は買わないです(笑)でもみんなは買わないと。

安田

今の日本の状態を考えたら国内株を買うって、かなりリスキーですよ。

久野

株式って、会社を応援するスタンスも大事なので。

安田

トヨタの株を買って応援するとか?

久野

そう。でもひとつ問題があって、日本のいい会社の株って単位がでかすぎて買えないんですよ。

安田

やっぱり国がまとめて運用するしかないですよ。1000兆運用したらすごいファンドができますし。日本帝国ファンドみたいのつくって。

久野

やっていいのかちょっと分からないですけど(笑)

安田

1000兆あったらFacebookぐらい買い取れるんじゃないですか。買い取った瞬間にダメになりそうですけど。

久野

確かに。

安田

久野さんに「1000兆委ねます」って言われたら、2、3%の金利だったら増やす自信ありますか。

久野

全然ないですね。

安田

ないですか。でも海外のファンドって、それ以上の配当を約束して大金を預かってるわけでしょう。

久野

スキルも情報力もぜんぜん違いますよ。

安田

対抗策は貯金しかないんでしょうか。

久野

対抗策にはならないですね。円の価値が下がってるので、貯金するとどんどん目減りしていきますから。

安田

分かってるはずなのに貯金しちゃうんですよね。

久野

デフレが長く続き過ぎちゃったのもありますよ。デフレって貯金してたら増えてくってことなので。

安田

それは国内だけの話ですよね。

久野

そうですけど。日本人ってかなりドメスティックな国民性じゃないですか。隣の国のこともそんなに知らないし。

安田

岸田さんは投資を促すために「税制を変える」と言ってます。

久野

いや、税金下げても厳しいんじゃないですか。

安田

貯金しておくよりはいいと思うんですけど。

久野

普通の日本人はあまりにも投資に対して知識がないので。僕らがやってる確定拠出年金も説明するのにすごいパワーがかかります。

安田

教育から変えていかないとダメだと。

久野

投資の授業を始めようという動きはあります。だから5年後、10年後には変わってくるんじゃないですかね。

安田

若者がお金を持ち始めたら変わるかもしれないと。

久野

でも彼らが投資できるほど稼げるかっていう問題があります。産業を活性化させる策をもっと打っていかないと。

安田

骨太方針には「人材教育と科学技術に重点を置きました」って書かれてます。

久野

抽象的過ぎますよね。どこの産業に重点を置くのかハッキリさせないと。

安田

なぜハッキリさせないんでしょう。

久野

いろんな人に気を使い過ぎて、言えなくなっちゃってるんじゃないですか。

安田

人材教育と科学技術に重点を置きますなんて、何も言ってないに等しいと。

久野

企業が「人に投資します」「新規事業に投資します」って言ってるのと同じですね。

安田

頑張りますみたいな。

久野

売り上げを上げますみたいな、そんな感じ。

安田

経営者だったら即クビですね(笑)

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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