第155回 お客さん思いの店

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

1号店を開業してしばらくの間、私はカウンターに立ちながらお客さんの色々な要望に応えていました。

「バーだったら、あのリキュール置いといてよ。」
「あの焼酎入れてくれたら、もっとお店に来るよ。」

立地の悪いお店までわざわざ来てもらっているのだから、お客さんの期待には応えたい。

そんな思いもあって、できる限りお客さんの要望に応じて商品を揃えるようにしてきましたが、ある時ふと思うことがあって、要望に応えることを止めたのです。


「お客さんの要望に応えるお店」
これは一見、お客さん思いの良いお店に見えます。

事実、私もそう考えていたからこそ、お客さん達が思い思いに口にする要望に応え続けてきた訳です。当時の私と同様、商売を始めたばかりの頃はお客さんの要望に応えることで集客しようと考えるお店は多いのではないでしょうか?

でも、ある時思ったのです。
「お客さんの要望ばかり聞いていたら、何のこだわりもないお店になってしまう」
「要望に応えて商品を揃えるだけなら、自分のお店じゃなくてもできるだろう」と。

つまり「要望にできる限り応える」という行為は、一見お客さん思いに見えるものの、言い方を変えれば「お店のこだわりがない」とも言えるのであり、もっと言うならば、そもそもこだわりがないお店と思われていたからこそ、お客さん達から多くの要望があったのではないか、という気がしてなりません。

そう考えるのであれば、当時の私がやるべきだったのは、「お客さんの要望に応える努力」ではなく、「お店のこだわりに興味をもってもらう努力」だった、ということ。

冒頭で私は「要望に応えるお店が、お客さん思いのお店に見える」と書きました。

でも、本当にお客さんのことを思っているのならば「要望に応える」といった、他店でもできることしかやらないお店がお客さん思いとは言えず、逆に自分のお店ならではのこだわりに興味をもってもらい、お客さん自身がまだ気づいていない「楽しさの選択肢を増やす」取り組みに力を注ぐお店こそが本当のお客さん思いの店なのではないか、と今では思うのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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