第160回 お店の流れを変えられる人

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

記憶が確かであれば、私のお店が初めて広告を出したのは、開業してから1年後くらいだったと思います。なぜ開業して1年間、広告を出さなかったのかと言うと、それは単純に広告を出すお金がなかったからであり、正確には「出せなかった」と言う方が正しいのかも知れません。

そんな事情もあり当時はよく、こう思っていたものです。
「広告を出すお金さえあれば、うちも一気にお客さんが増えるのになぁ」と。

つまり、お客さんが増えないのは広告を出せないからであり、お金を投資して広告を出すことこそが現状の流れを変えてくれる一手になると考えていた訳です。

でも、それから長い年月が経った今、当時の考えを振り返ってみて思うのです。
この考え方は完全に間違いだった、と。


「広告を出して認知度を高めることができれば、自分の商売は上手くいくはず」
当時の私と同様に、こうした考えを持つ店舗オーナーは多いと思います。

じゃあなぜ今、当時の自分の考えが間違っていたと思うのか?

それは、実際に広告を出してもお店の現状が変わることはなかったから。そして、実際にたくさんのお客さんが来てくれるようになった頃には、一切の広告を出していなかったからです。

「開業して1年が経っているにも関わらず、お客さんが増えない」という事実。
今から思うこの原因は、お店の認知度不足よりもリピートしたくなるお店の魅力不足。

たとえ広告を出すお金がなかったとしても、そのお店がお客さんにとって魅力的ならば、開業して1年も経つ頃にはリピーターが増えていたはずです。

にも関わらず、私のお店にお客さんが増えなかったということは、私のお店がリピートされないお店だったという事に他ならず、そんなリピートされないお店がいくら広告を出したとしてもリピーターが増えるはずもなく、逆に自らお店の魅力不足を地域に広める結果にしかなりません。

つまり、広告に力があるとするなら、それは「流れを変える力」ではなく「流れを加速する力」であり、冒頭に書いた「広告を出すことが現状の流れを変えてくれる一手」にはならない、ということ。

結果的に私は広告にお金を投資するのを止め、そのお金を店内環境の改善に投資したことで、リピートしてもらえるお店を作ることができました。

私は広告を使うこと全てを否定するつもりはありません。

ただ、広告さえ使えば現状を変えられると考えるのは間違いであり、広告はあくまでお店の現状を広める行為でしかないということ。お店の流れを変えられる人がいるとするなら、それは広告会社の誰かではなく店舗オーナー自身であり、オーナー自身の思考や選択の変化こそがお店に新しい流れを作り出すのだと今は思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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