第216回 思い入れのある商品

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

いつも読んでいただいている皆さま、本年もどうぞよろしくお願いします。

さて、私のお店では昨年、ちょっとした出来事がありました。
その出来事というのが、創業期から直営店を支えてきた人気の食事メニューがラインナップから消えたこと。

私にとっては非常に思い入れのあった商品。
でも、そんな思い入れこそがお店の業績を悪化させる要因にもなりかねないのかもしれません。


私は現在、直営店の商品開発には関わっていないため、その商品をメニューから外すという決定を担当役員から聞いた時、ビックリしてしまいました。

理由については、以前よりも出数が減っているということもありましたが、同時にその商品だけにしか使わない食材があり、仕込みの手間や食材のロスを考えるとその商品をなくした方が良い、という声が各店舗から上がっているためとの事でした。

つまり、私としては創業時から現在までを支えてくれた思い入れのある商品ではあるものの、現在お店を運営するスタッフからしてみれば、お店の利益率を悪くする一商品に過ぎないということ。

恥ずかしながら私はこの決定を聞いた時、一瞬強い抵抗感を持ってしまいました。

「今のスタッフはこの商品がどれだけお店を助けてきたか理解していないんじゃないか」
「食材のロスが出るなら、この商品の食材を使える他の商品を考えればいいじゃないか」

そんな抵抗感だったように思います。

でも、冷静に考えれば出数が減っているという事実は、それだけお客さんから求められなくなっている事の表れであり、食材のロスを減らすことでお店の利益率を改善しようと考えることには何の疑問の余地もありません。

そう考えれば、その商品をメニューに載せ続けるメリットはどこにもない訳です。

じゃあ、私の中に湧いていた抵抗感の原因は何だったのかと考えると、それはやはり「今まで支えてくれた恩」のような感情であり、より掘り下げて考えるとその商品を創業時に作った自分に対する小さなプライドのようなものだったように思うのです。

創業時から会社を支えてくれた商品。
私たち創業者は、こういった商品に特別な感情を持ってしまいがちな気がします。

そのため、創業時から売れ続けてきた商品を切ることに対して私のような感情を持ってしまうオーナーも多いのではないでしょうか?

でも世の中が変わり続けている以上、今売れている商品もいつかは売れなくなるのが普通であり、逆に考えれば私のように、売れなくなりつつある商品に思い入れがあるからといって売り続けようとしてしまうことこそが、お店の業績を悪化させる要因になってしまうのでしょう。

思い入れのある商品を切る決断をするからこそ、次の人気商品が生まれる。
売れ続けるお店とは自らの思い入れに固執するお店ではなく、冷静に顧客のニーズに適応し続けられるお店なのだろうと改めて感じたのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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