第253回 移民に反対する人は現実を見よう

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第253回「移民に反対する人は現実を見よう」


安田

技能実習生の失踪が大変なことになってます。過去2番目の多さで、なんと9000人。

久野

実はこれ毎年問題になってるんです。

安田

そうなんですか?でも9000人が失踪するって尋常じゃないですよ。もうシステムとして崩壊してるってことですよね。

久野

そう思います。

安田

何がいちばんの問題なんですか。

久野

「日本人は素晴らしい」ってみなさん言うんですけど。じつは日本人ほど差別してる人はいないんですよ。外国人という扱いをして同じ仕事でも極端に給料が安かったり。

安田

日本人は差別意識が強ですよ。

久野

そうなんです。相手に敬意を払って雇っているとはとても思えない。

安田

「こんなのは技能実習ではない」って言われてますね。単に安く外国人をこき使っているだけ。そりゃあみんな逃げちゃうだろうと。

久野

日本人が働きたくない会社に外国人が来てる。それが1番の問題。日本人はみんな退職しちゃうから。退職できなかったら日本人でも失踪しますよ。

安田

なるほど。技能実習生は退職できないから失踪しちゃうわけですね。

久野

そうなんです。扱いがひどい上に給与も安い。残業代も払わないし。

安田

酷すぎますね。

久野

もちろん外国人を使っている会社が全てそうだとは言わないです。ただ多くの会社は「日本人が来ないから外国人で」という発想になってる。

安田

日本人がやりたがらない仕事でもやりたい外国人はいるでしょう。「この仕事を学んで母国で一旗あげたい」って人。

久野

技能実習の現場って安田さんが思っているような世界じゃないんです。技能を教えないんです。

安田

なんと。

久野

日本人がやりたくない単純業務を労働者として押し付けているだけ。何かを教えて育てようなんて気持ちはまったく会社の方にはないんです。

安田

そもそも技能を実習できるような仕事をさせてないってことですか。

久野

そうなんです。技能実習という名目で入ってくるんだけど、実際は労働です。

安田

物を運ばせるとか。洗いものをするとか。

久野

それに近いですね。

安田

そりゃあ逃げますね。

久野

ほとんどの現場は「これは逃げるよな」っていう状況ですね。

安田

「契約と違うじゃないか」って訴えたりはしないんですか。

久野

組合や技能実習機構が一応チェックてるんですけど。声は届かないです。それが言える雰囲気じゃない。

安田

でも逃げちゃったら技能は学べないわけで。日本に留まる意味がないと思うんですけど。

久野

彼らは技能を学ぶことと同時に稼ぐことも目的なんです。たとえば電気工事の技師として日本で学んで、資金を貯めて、本国で事業を始めようとか。

安田

なるほど。技能が学べないならせめて資金を稼ごうとなるんですね。

久野

はい。仕事はあるんです。外国人はもはや日本の労働力の一部になってますから。だったら移民として受け入れればいいんですけど移民とは言わないんです。

安田

移民反対とか言ってる場合じゃないってことですね。

久野

そうなんですよ。現実的には移民を受け入れるしかないのに技能実習生として働かせている。イメージ政策みたいなもんだと思います。

安田

こんなことしていいんですか?国際的には。

久野

ダメだけど、現場では横行してます。

安田

国としても目つぶっているわけですか。

久野

まあ黙認ですね。あと5年ぐらいほっとくんじゃないですか。

安田

これだけ失踪者出ても放っておくわけですか?

久野

すごく便利な外国人雇用システムになっちゃってるので。ちょっと今はやめられない。

安田

32万人のうち1万人が失踪するってことは、31万人は失踪せずに働き続けてくれるわけですからね。

久野

そうなんですよ。

安田

こんなことやってたら、いずれ誰も来てくれなくなりますね。

久野

いずれ立場が逆転すると思います。日本人が出稼ぎに行くしかない時がきて、むこうの現場で報復に合いますよ。日本人はそれだけ恨まれているので。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから