さよなら採用ビジネス 第52回「銘柄を背負い続ける人たち」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第51回『序列と格と上下関係』

 第52回「銘柄を背負い続ける人たち」 


安田

たとえば「俺がNECをかえてやる」とか「東芝をかえてやろう」みたいな人が入ってくるとするじゃないですか。意欲をもって。

石塚

どこから入るんですか?

安田

新入社員で。

石塚

それは申し訳ないけど無理ですね。

安田

「私がNECや東芝を変えます」って言った時点で採用されない?

石塚

いや、入れたとしても、誰もそんな話は聞いてくれないですよ。

安田

まぁ実績積まないと聞いてくれないでしょうね。

石塚

その実績積むのに何年かかると思いますか。

安田

確かに。2〜3年では無理ですよね。

石塚

ひょっとすると、ジーニアスな新入社員だったら2〜3年で役員レベルの仕事をするかもしれないですよね。

安田

そういう人も世の中にはいるじゃないですか。

石塚

でも、やっぱり、役員にはなれないんですよ。

安田

じゃあ、そういう人も大企業の色に染まっていくんですか。それとも組織を飛び出しちゃうんですか。

石塚

両方のケースがありますね。出る人は見切りが早いです。

安田

そういう人はベンチャーに転職するんですか?

石塚

もしくは自分で起業しちゃう。こっちの方が多いかな。前にも言いましたけど、今はすごくお金がつきやすいので。

安田

そういう意欲のある人が、40歳ぐらいまで耐えてから飛び出すってことはないんですか?

石塚

そこまで行ったら、もう飛び出さないです(笑)

安田

やっぱりそうですか。

石塚

入社5年以内じゃないですか。30過ぎてからっていうのは、あまり聞かないですね。

安田

30歳を過ぎると「もう染まってしまえ」と割り切るんですか?

石塚

染まってるという自覚とか、染まっていったという記憶もないと思います。ただ目の前の、部分最適の仕事を一生懸命やってるだけ。

安田

じゃあ、自分でも気がつかないうちに。

石塚

大企業ってそうじゃないですか。あまりに大きいから。目の前のことを一生懸命やっていったら気が付いたらそうなる。

安田

じゃあ30歳を過ぎた人の定着率は高いんですか。

石塚

大企業は、ある一定年数を過ぎると定着率がめちゃくちゃ高い。ほぼ100%です。40過ぎて辞めるって、介護とかご家庭の事情を除けば、ほぼゼロじゃないですかね。

安田

じゃあ早期退職についてはどうなんですか?応募する人がたくさんいますけど。

石塚

それはチャンスだと思ってるんですよ。お金がバサッともらえるから。

安田

それは優秀な人の話ですよね。

石塚

優秀であればあるほど早期退職は前向きになりますね。

安田

2000〜3000万ですよね。もらえる退職金って。

石塚

おっしゃるとおり。それだけのお金があればリセットできますから。

安田

でも大企業で40過ぎまでいたら、そのぐらいの貯蓄はあるんじゃないですか?

石塚

貯蓄はほとんどないですね、子供の教育費と住宅ローンが高いから。大企業のサラリーマンほどお金持っていないですよ。

安田

今の若い人たちは質素な生活しますけどね。大企業のサラリーマンでも、そんなところに見栄を張らない人っているんじゃないですか?

石塚

いやー、今の40以上はみんな見栄張ってますよ。

安田

そういう人って、定年になった後はどうするんですか?ずっと見栄張れないでしょ。

石塚

東京23区で、老人クラブや老人会の加入率がいちばん低い区って、どこだかわかります?

安田

老人会ですか?いや、分かりません。

石塚

世田谷区なんですよ。

安田

世田谷区は老人がたくさんいそうですけど。

石塚

いるんですけど加入率が低い。なぜだと思います?

安田
いや〜分かりませんね。
石塚

世田谷って、大企業にお勤めだった方が住んでるから、上下関係が厳しいんですよ。

安田

え!近所付き合いに上下関係なんてあるんですか?

石塚

これがあるんですよ。格下の人から気楽に「石ちゃん!」なんて言われたら、「お前俺を誰だと思ってるんだ」と。

安田

それは会社員時代の肩書きってことですか?

石塚

はい。

安田

そんなの社外の人からみたら関係ないじゃないですか。

石塚

でも本人はそれが世界だから。退職しても、何歳になっても、自分を変えられない。

安田

それ本当なんですか?

石塚

はい。だからゲートボールはなくなって来てます。

安田

ゲートボール?

石塚

ゲートボールは団体戦だから。一流企業を出た人が、めちゃくちゃ鬼のように、陣頭指揮とって仕切るんですよ。

安田

遊びなのに?

石塚

はい。だから楽しんでやっているのに切なさしかない。外すと「何をやっているんですか!」ってなる。

安田

もはや接待ゲートボールですね。

石塚

遊びがない世代だから。全部ミッションになってしまうんですよ。

安田

ミッション?

石塚

「おれが指導しなくては」って思ってるんですよ。「おれがマネジメントして立て直さなくては」みたいな余計なお世話というか、勝手な使命感というか(笑)

安田

迷惑な老人ですね。

石塚

そういうおじいちゃん多いらしいですよ。世田谷に限らず都内は。だからゲートボールが廃れて、今は一人でやれるグランドゴルフ。

安田

そういう人がいるとチームプレーは楽しくないですもんね。

石塚

そりゃあ楽しくないでしょ。「日ごろの練習が足りないんじゃないですか」とか言われたら。

安田

本当にそんなこと言うんですか?

石塚

ホントです、これ全部実話です。

安田

じゃあ、そこまで言って、本人が失敗したらどうするんですか?

石塚

だから本人は、人一倍練習するんですよ。

安田

そういう人って練習が好きなんですか。

石塚

なんでもモーレツにやるんですよ(笑)努力するプロセスが好きな人たちですから。それを「ゆるくやろう」って言ったら、宇宙人が来たかと思いますよ。

安田

そういう人たち同士は仲悪いんですか?

石塚

すごく連帯感が強いですね。お互いに「日本経済をけん引してきた銘柄企業出身だ」って自負がありますから。

安田

自分たちがけん引してきたって思ってるんですか?

石塚

それは強烈にありますよ。一緒に飲んだ時の、あの「日本経済は俺が引っ張ってるんだ感」「この会社は俺が背負ってるんだ感」。思わず笑っちゃいそうになります。

安田

言っちゃ悪いですけど、大きな組織の一部品みたいなもんじゃないですか。そういう感覚はないんですか?

石塚

ご本人にはないですね。

安田

じゃあ一生その会社のブランドを背負って生きていくと。

石塚

それ以外の生き方を見つけられないんですよ。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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