その94 銀座のタワー

先日、はじめて歌舞伎を見る機会がありました。

日ごろ、郊外の町中に暮らし、
仕事も住宅街のちっこい建物で行っているもので、
東京の23区部に入るのはたまのことになります。
そして、そのたび、
都市の中心では20階以上のクラスのビルが無数に存在していることに
畏怖の念を覚えます。
そもそも、今日びの20階建てなんてただの住宅だったりしますしね。

それでも、「歌舞伎」でイメージされる通りの外観の劇場と
30階の巨大なオフィスビルが悪魔合体した「歌舞伎座タワー」には
なんともいえない唸り声を漏らしてしまいました。

完成からすでに丸10年経ったというタワーは
センター・オブ・東京という立地である以上
単なる芝居小屋を作ることなど許されず、
伝統の維持と現実の経済性の両立を図った結果のことであるのは自明ですが、
関連して設けられている形ばかりのギャラリーや小庭園をふくめ
昔からのファンに喜ばれるものかは正直疑問でありました。

やがて、上演中にイヤホンでガイドしてくれるミニラジオを借りて中に入ると、
そこに来訪している客層は
一部観光客的な方と、多くはかなり年配の女性でした。
個人的に、相撲や宝塚などを何度も観覧しているので
年配(自分もそう離れていませんが…)の方が多い
観劇空間には慣れており、その独特な雰囲気もおもしろいものです。

イヤホンガイドはなにげなく借りたのですが、
後から思うとこれは必須といえるものでした。
能に由来するという古い演目は
設定も台詞もストーリーも解説なしではなにひとつ飲み込めませんでしたが、
過不足のない説明が得られることで大幅に満足度が上がるのでした。

また、別の演目はバーチャルキャラクター「初音ミク」がコラボ出演するなど、
新作系でも意欲的な試みがなされており、
ここまでして周囲のマダムたちの理解が得られるのだろうかと
余計な心配をしてしまうほどの創作性、攻めっぷりでした。

と、終わってみると
エンタメとして大変堪能して劇場を後にしたのですが、
それらには実に細やかな気遣いが施されていることに気づきます。

伝統的なコンテンツには現代と橋渡しをするフォローを添え、
創作的なコンテンツにはこれまでの枠組みを出たアップデートを試行し、
大衆娯楽に必要な水準を充たしたうえで、すこし大げさに申しますと
「明日のために今日を生きる」
という姿勢を感じたところでございます。

そう思うと、銀座の街にそびえ立つ悪魔合体タワーというのも
生きる必然の末に至った形態ということがいえるのかもしれません。

あと、現代社会にアップデートするところといったら、
まあ役者さんのプライベートくらいでしょうかねえ……

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

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