この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
301人以上の企業は「有給休暇と育児休暇の取得率、それと残業時間を公開しろ」っていう法律が、いま通りそうなんですよ。
それはいつ頃の話ですか?
2020年がめどみたいです。
2020年ですか。それは厳しい。
でも、これ見て喜んでる経営者がいるんですよ。「中小企業はやらなくてOK」みたいな。
やらなくていいんですか?
確かに、中小企業は努力義務なんですよ。
じゃあ、そんなに厳しくはないと。
それ、ぜんぜん違ってて。大企業はオープンにされるじゃないですか。
はい。
そうなると食べログみたいなもんで、レビューが書いてないような企業には人が来なくなる。
なるほど。じゃあ、結果的に中小企業も情報を出さざるを得なくなると。
その通りです。出してないってことは「よほどブラックなんだろう」と思われますから。
なるほど。
2020年はすごく大きな節目になると思います。
じゃあ、まだ残業規制は始まってませんけど、「始まってからじゃ遅い」ってことですね。
遅いです。手遅れになります。
まだ強制じゃないうちに、いかに残業を減らしておくかが大事だと。
はい。いきなり減らすのは無理なので。オープンになったら一気に人が流れ出していくと思います。
でも猶予されてるなら、動かないでしょうね。中小企業は。
とくに建設業と医療と運送業は、さらに5年延長されるんですよ。
そうなんですか!医療っていうのは介護ですか?
先生です。お医者さん。
医者は結構過酷ですからね、いまでも。
でも、残業規制のある業界と残業規制のない業界だったら、普通は残業規制のある業界に行きません?
まあ、行きますよね。
にも関わらず「うちは稼ぎたい人だけ来ればいい」なんて言ってる経営者が、とくに建設業には多いんですよ。
いまどき「稼ぐために死ぬほど働く」とかあり得ないですよね。そこまでお金に執着してない。
してないですよね。
「生活できなくて大変だ」とかネットに書かれてますけど、あれ書いてる人は40〜50代ばっかり。若者はみんなお金のかからない生活してる。
質素な生活してますよね、若者は。仕事もべつにないわけじゃないし。
そうなんですよ。だから中小企業はもっと頑張って生産性を上げないと。
ですよね。若い子が本当に来なくなっちゃいます。
中小企業さんから、そういう相談は受けないんですか?
いや、受けますよ。「どうやったら生産性が上がるんだ?」って。
丸投げですね(笑)
やっぱり、創意工夫をしないといけないです。
何を工夫すべきなんですか?
真似をしないこと。何らかの付加価値を生み出すこと。
そもそも中小企業って、赤字のラインがいい加減じゃないですか?
たとえば?
「この人は赤字だ」とか「この案件は赤字だ」とかのラインが曖昧。
そこは確かに「どんぶり」ですね。
個人とか案件ごとに「月に何万円赤字か」を把握してない。
営業マンぐらいでしょうね。把握してるとしても。
ですよね。でも生産性を上げるなら、そこがいちばん大事じゃないですか?
その通りですね。社長が「300万円の仕事をとってきたぞ」って喜んでちゃ駄目。
重要なのは利益ですからね。
じっさい社員にやらせて、コスト計算してみたら「赤字」だったり。
今までは社員に頑張らせて、融通が利いたじゃないですか。
そうなんですよ。固定給払って「とりあえず社内で回せば利益が出る」みたいな。
でも今回、労働法が変わっちゃったら、それも通用しないですよね。
もう通用しないです。
なあなあで残業させ続けるとか、もう無理ですよね。
絶対に無理です。適正な労働時間で、適切な仕事をしてもらって、利益を出すしかない。そういう改革なので。
そもそも、そういう仕事じゃないと、もう採用できませんし。
はい。負荷をかけたらすぐに辞めるし。辞めちゃったら逆にコストがかかるんで。
まずは案件ごとに「これは赤字」「これは黒字」っていうのを、ちゃんと明確にしないと。
まあ、そうなんですけど。
難しいですか。
その案件に、誰と誰が、どれぐらいの時間携わってるか。それって、なかなか分かりにくい。
人件費自体も把握しにくいですよね。給料以外にも、見えない経費ってありますし。
統計を取ると、だいたい給料の1.8倍ぐらいコストがかかってます。
1.8倍ですか。
はい。社会保険料とか、システムのアカウントとか、座っただけでそこの坪単価もかかりますし。
給料の倍ぐらいはかかってると。
はい。だから誰が何時間、その案件に関わってるか明確になれば、赤字ラインは確定できます。
じゃあ、まずは誰が何時間関わってるかを把握すると。
それが必須ですね。今までみたいにどんぶり勘定ではもう無理なので。
残業だって規制されますしね。
最終的には「1,800時間以上働かせないようにする」ってことになります。
じゃあ基本的に残業は無しで考えたほうがいい。
残業せずに、仕事を快適にして、尚且つ案件ごとに黒字になるようにする。
なかなか厳しいですね。
かなり厳しいです。でもこれをやらないと、もう生き残れません。
そう決めたということですよね?日本政府が。
そういうことです。とにかく政府としては生産性を上げたいので。
先進国で労働生産性最下位ですもんね。なんでこんなに落ちちゃったんですか?
いや、もともと低かったんだと思います。
人口増加していたので、それでカバーしていただけだと。
そうです。当時の日本の強豪は、みんな先進国ばかりでしたので。
安い人件費で、効率よく大量生産していけば、それでカバーできた。
これまでは、それでよかったんですけど。もう無理ですね。
ですよね。途上国の方が人件費が安いし、技術力でも迫られてるし。
分野によってはもう抜かれてます。
確かに。韓国にも生産性で抜かれそうですもんね。
だからやるしかないんですよ。
このまま放置すれば、日本の人件費はまだまだ下がりますか?
じっさい下がって来てますからね。
確かに。じゃあ、このまま行ったら韓国に抜かれ、中国と並ぶぐらいまでは人件費が下がる?
その可能性は高いですね。日本人って給料安くても、休みがなくても、我慢しちゃうんで。
だから国が強制的に休ませて、強制的に給料を上げさせる。
うまく行くかどうかは、分かりませんけど。もうサイは投げられました。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。