第161回 だって時給が安いんですから

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第161回「だって時給が安いんですから」


安田

円安が50年前の水準まで来ちゃってるそうで。

久野

そうなんです。日本は資源がない国なので、輸入品が値上がりしてみんな苦しんでます。

安田

「円安の方が日本にとってメリットがある」ってよく聞くじゃないですか。車とか家電とか、同じ金額で売っても企業のもうけが多いとか。

久野

それは一部の企業だけですね。国全体として見たら絶対円高のほうがいい。

安田

そうですよね。半分の価値になるってことは、輸入品を買うために倍働かないといけない。

久野

結果として円高は目指すべきです。同じ金額で海外の物がたくさん買えるわけで。海外のものを食べて生活してる私たちからすると、円が強い方がいいに決まってる。

安田

円がどんどん強くなったら、働く時間を減らしても美味しい輸入品が食べられたり。海外から人が来てサポートしてくれたり。

久野

そういうことが可能になりますね。

安田

逆に円がどんどん暴落していくと、日本はかなり困りますよね。

久野

困りますよ。そもそも国の通貨が安いってのは信用がない証拠ですから。

安田

なぜそれを目指そうとするのか。トヨタのためだけにやってるんじゃないかと思う。

久野

固有名詞出されると困ります(笑)それにトヨタだって現地生産に切り替えてますから。ほとんど関係ないと思いますよ。

安田

現地で稼いだお金を日本に持って帰ってくるでしょ。そのときに価値があるってことじゃないんですか。

久野

そうですね。でも今は戻す必要もないじゃないですか。海外で再投資すればいいので。

安田

確かに。じゃあみんなで円高を目指せばいいのに。

久野

適切な円高がいいですよ。中小企業の経営者もまったく感謝されなくなってるし。

安田

それ円高と関係あるんですか。

久野

だって給与アップ以上に物価の方が上がってるので。

安田

なるほど。輸入に頼る日本の現状を考えたら厳しいですよね。円安がどんどん進めば、どんどん物価が上がっていく。とくに必需品が。

久野

原油高も大きいですよ。全ての動力になるので。だから国内生産のものまで上がりまくってるじゃないですか。

安田

インフラの値上げもすごいし。

久野

海外旅行も現地でめちゃくちゃ高い。

安田

今の円安は半世紀前の水準だそうです。つまり半世紀前の水準まで国力が落ちてる。

久野

はい。どんどん国力が落ちてます。

安田

でも円安って国家戦略なんですよね。

久野

いいえ。世界から見た日本の国の価値が劣化してきてるってことです。

安田

だけど「円安になったら国際競争力が上がる」って言われてますよ。

久野

円安になっても、日本製の商品が選ばれるのかどうか。

安田

選ばれませんか。

久野

すでに選ばれなくなってる。安田さんはそんな気しませんか。

安田

確かに私も「家電は日本製じゃないとダメ」というのがなくなっちゃいました。今はほとんど気にしてないです。

久野

むしろ海外製品のほうが保証はしっかりしてたり。

安田

そうなんですよ。国産なのにすぐにつぶれたり。その割に高いし。信用もなくなってきてますね。逆に中国製や韓国製がつぶれなかったり。安いし。

久野

海外ではさらに売れなくなってます。材料の輸入でも今は買い負けてますし。

安田

牛丼とかそうですよね。日本にいい肉が回ってこないって。

久野

アメリカも中国もいま調子がいいので。日本に売る理由がなくなってる。

安田

私もワインが好きでしたけど、もう高くて買えないです。有名ワインを円で買おうと思ったら天文学的な金額です。

久野

中国の方が近いし、輸送コストもかからないし、高く買ってくれるし。日本人はもう海外のいいものは買えないです。

安田

1杯250円の牛丼売るのに付き合ってられないですよね。

久野

感覚が日本人だけ変わってない。中国人は高くてもどんどん買うし、アメリカ国内でも高く売れるのに、日本に安く持ってくる理由がない。

安田

これを解決するにはどうしたらいいんですか。

久野

頑張って円高にするしかないです。

安田

どうやったら円高になるんですか。

久野

まずは商品の価格自体を上げて、給与も上げてかなきゃいけない。

安田

今までと同じ価値なのに、価格だけ上がって消費者は納得しますか。

久野

国内の消費者は納得しないでしょうね。

安田

海外はどうですか。

久野

日本に魅力がなさ過ぎて、円が上がってくイメージが湧かないです。

安田

ぜんぜん上がる要素がないじゃないですか。

久野

ないですね。だからスタグフレーション気味というか。物価だけ上がって、安い仕事ばかりになっちゃってる。

安田

それは日本人のスキルが下がっているからなのか。それとも安い仕事ばかり取るからなのか。

久野

両方ですね。根っこにあるのは「安い方がいい」っていう日本人のメンタリティーです。それが大きく影響してる。

安田

イノベーションが起きない国民性ですもんね。リスクは嫌だとか。確実に稼ぎたいとか。安い価格で勝負するしかなくなる。

久野

新しいテクノロジーや商品生み出そうとしたら、当然リスクもある。国も国民もそういうのを避けようとするから。

安田

そんな感じですね。

久野

だから全員で沈没していく。

安田

もう日本に成長期は来ないんでしょうか。

久野

このままだとそうですね。

安田

何を変えればいいんですか。

久野

まずは一掃しないといけないでしょう。ずっと同じようなやり方で、何年も変わらずに、ITも使わずやってるような会社を。

安田

ほとんどの会社がなくなりそうですけど。

久野

だけど、まずそれをやるしかない。

安田

安くするほうが楽なんでしょうね。経営者も。

久野

楽ですよ。それで売れちゃうから日本って。

安田

ですよね。

久野

安さって、極限まで突き詰めると人間がいらなくなるはずで。本来はロボットがやるから安いって構造にしていかなきゃいけない。

安田

なぜ海外は安売りに流れないんでしょう。ラーメンとか、ハンバーグとか、どんどん値上げしてくじゃないですか。どうしてですか。

久野

海外は一般的に「人が介在すると高くなる」という文化なんです。

安田

へえ〜。

久野

だってコスパが悪いと人が働かないんで。

安田

つまり、安くても働いてしまう日本人に問題があると。

久野

それと安いものばかり欲しがること。この二つが最大の問題ですね。

安田

コンビニで働く外人さんもやる気なさそうですもんね。ポテチの上に重いものを入れたり。日本人は絶対やらないですけど。

久野

温かい弁当の上に冷たいものを置いたり(笑)だけど時給が安いですから当然ですよ。あれが正しい姿なんです。日本人は安いものにサービスを求めすぎ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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