第165回 儲かるのは両端の会社

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第165回「儲かるのは両端の会社」


安田

また雇用保険が上がるんですか?

久野

はい。閣議決定されました。

安田

税金もどんどん上がってるし。

久野

税金はみなさん敏感なんですよ。

安田

確かに。社保はいつの間にか上がってる感じですね。

久野

とくに会社員の方は額面の金額をあまり気にしてないので。

安田

手取り=自分の給料という感じですね。考えてみたら恐ろしいです。

久野

慣れちゃってるというか。慣らされているというか。

安田

いろいろ引かれて手取りが決まることに、あまり疑問を抱いてない感じ。

久野

私も社労士試験を受けてるときですら、自分の明細が分かってなかったです。

安田

なんと。

久野

じつは雇用保険って3〜4年前にこっそり下がってるんです。知ってました?

安田

え!下がったんですか。まったく知りませんでした。

久野

実は下がってたんです。でも下がったことも誰も気付いてない。

安田

下げるんだったら、もっと大々的に発表したらいいのに。

久野

介護保険料も下がる予定なんですよ。9月から。

安田

え!そうなんですか。下げてもらいたいけど財源あるんですか。コロナで失業も増えてそうだし。

久野

失業者は今めちゃくちゃ少ないんですよ。去年が戦後で2番目ぐらいに少なくて。

安田

へえ〜。

久野

雇用調整助成金が効いてる。だから雇用保険が上がるんですけど。

安田

そうなんですか。

久野

助成金の財源は雇用保険なので。

安田

なるほど。あんなにバラまいたら足りなくなりますよね。

久野

解雇も倒産もさせられないので。

安田

でも結果は一緒ですよ。失業して失業手当を払うか、失業させずに会社に助成金を出すか。実質は失業手当みたいなもんです。

久野

そうですね。だから給付が止まると失業者が増えると思います。

安田

飲食店の補償も財源は同じですか。

久野

社員の休業補償はここから出てます。小学校の休業とかも。

安田

小学校の休業も?

久野

お母さんが休まざるを得ないじゃないですか。子どもが休んだら。

安田

ああ、なるほど。

久野

そういった場合の助成金も雇用保険の財源です。

安田

もう財源が足りないってことですね。

久野

そういうことです。

安田

他からもって来れないんですか?無駄な支出がたくさんありそうですけど。

久野

財源を全部一緒にしたら逆に税金が跳ね上がります(笑)

安田

トータルがマイナスですもんね。でも年金の財源は他から持ってきてますよね。

久野

年金を年金だけで終わらせようと思ったら、社会保険の倍ぐらいになっちゃいます。

安田

恐ろしい。

久野

基本的には財源によって支出を決めた方が健康的ですけど。

安田

雇用保険に関しては今までが安過ぎたってことですか。

久野

雇用保険に関しては過去あまり使ってなくて。じつは取り過ぎてたんです。だからいったん下げた。

安田

なるほど。それがコロナで一気に。

久野

そう。ぜんぶ吐き出しちゃった。吐き出し過ぎたというか。

安田

じゃあコロナが落ち着いたらまた下がるんですか。

久野

何も有事がなければ下がっていくと思います。

安田

ちなみに今回は何%上がるんですか。

久野

0.2%ぐらいです。

安田

大したことないですね。

久野

大したことないです。1000分の2ですから。1000円で2円とか。

安田

だからみんな文句を言わないんですか。

久野

うまい棒の2円の方が、みんな文句言ってますね。

安田

うまい棒はちょっと安過ぎました(笑)じゃあ雇用保険は徐々に下がっていくと。

久野

いえ。大きなトレンドとしては上がっていく。社会保険も上がっていくし、物価も上がっていく。給与だけは上がるかどうか分からない。

安田

給料だけ上がらないと厳しいですよ。

久野

はい。上げないと生活できない。だから給与を上げられる会社だけが残っていく。

安田

中小企業が多過ぎるから「日本は給料上がらない」って言う人がいて。これは事実なんでしょうか。

久野

データを見れば正しいです。中小企業は総じて生産性が低いというデータが出てます。

安田

なぜ中小企業ってそんなに生産性が低いんですか。

久野

下請け構造が中心だからでしょうね。

安田

上から順番に中抜きして、最後はだんだん儲からなくなると。

久野

スマイル曲線って聞いたことありますか?

安田

いえ。ないです。

久野

プロダクトって最初の設計するところと、最後の販売するところが儲かるんです。

安田

いちばん下が儲かるんですか?

久野

組み立てるだけとか、部品をつくるだけとかは、粗利が落ちていく。でも最後の販売のところはまたお金が取れるんです。営業の部分ですね。

安田

へえ〜。

久野

だからAppleは設計をやるし販売もやる。逆に一番高い2箇所しかやってない。

安田

なるほど〜。

久野

日本の下請け中小企業は、スマイルカーブの一番低いところをやる。大企業が前と後ろをやって中小企業はその中間。

安田

なぜスマイルカーブって言うんですか。

久野

儲けのグラフがスマイルマークの口の形と同じだから。笑えないんですけど。

安田

自分たちで販売するか、自分たちで商品を作るか。どちらかに寄せないと駄目ってことですね。

久野

両方やればすごく儲かります。せめて自社で開発するか自社で販売するか。どっちか。中間だけやってる会社は厳しいです。

安田

自社で開発しても販売できなかったら買い叩かれませんか?

久野

開発でいくなら、とんでもなくブランド力が高くないと。

安田

もしくは販売力を持ったメーカーになるか。

久野

そうですね。自社で設計したものをファブレスで誰かにつくってもらう。それをとんでもないマーケティング力と提案力で売っていく。

安田

そのファブレスを引き受ける会社はどうなるんですか?

久野

国内でやったら儲からないです。付加価値をつける以外の製造は海外に出して行ったほうがいい。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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