第205回 正しいリストラの境目

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第205回「正しいリストラの境目」


安田

Twitterのみならず、Amazonなどの世界の勝ち組企業でもリストラが始まりました。

久野

はい。

安田

コロナで業績が良くなった時に一気に採用して、もう落ち着いたから要らないや、みたいな削減に見えるんですけど。

久野

実際そうなんだと思います。

安田

日本人の感覚からすると、「伸びてる会社がこんなに人を切るのか」というのもあって。

久野

組織は戦略に従うと言いますから。アメリカらしい経営なんじゃないですか。

安田

合理的ってことですか。

久野

日本も昔はそうだったんです。経済環境が変わって明らかに人も要らなくなった。そうなったらすぐに動き出すのがアメリカ企業。

安田

日本もそうだったんですね。

久野

労働法が今のようになる前はそうでした。

安田

そちらの方がまともってことでしょうか。

久野

日本でも、エネルギー価格が上がったら価格転嫁しないといけない。忖度してるうちに会社が悪くなるパターンが多いじゃないですか。

安田

日本人は値上げに厳しいですから。

久野

本当はアメリカ企業のような合理的な判断が、極めてシンプルで正しいと思います。

安田

ネットはかなり炎上してましたよ。「必要ない人材をどうやって判断したんだ」って。

久野

成果に直結しない人材ってことでしょう。

安田

成果を上げてないように見えて、実はその人がいるおかげで売上が成り立ってることもあるそうで。

久野

そんなケース稀でしょう。

安田

「若いとき頑張って貢献してきたんだ」という意見もありました。こういう冷たい仕打ちを見て「会社のために頑張る若者も減っていくぞ」って。

久野

そんなことないと思いますよ。「上が重いから自分たちの給料が上がらない」と思ってる若者も多いはずで。

安田

明日は我が身だってなりませんか。若者もいずれは歳をとるわけで。

久野

私も日本的な経営は好きなんですけど。経営側が責任持つみたいな。ただ、それでは海外の企業には勝てないです。

安田

やっぱそうですよね。

久野

重いと感じたらすぐに外しちゃう外資と、ぜんぶ背負って走る日本企業と。競争にならないですよ。

安田

「それは経営者の責任だろ」みたいな感覚の人が多いですよね。日本人は。すごく他責というか。

久野

そこが問題です。

安田

そもそも大企業の経営者なんてサラリーマンですから。ついこの間まで社員だった人が経営者になっていくわけで。

久野

そうですね。

安田

同じサラリーマンなのに、社員の人生背負うなんて無理ですよ。単に役割として担っているだけですから。

久野

日本は連帯保証もありますし。経営者の責任が重いんです。

安田

だから経営者になる人が増えないんですよ。労働者=弱者という図式がすごくありますよね。

久野

あります。

安田

実際どうなんですか?労働者ってそんなに弱い立場なんですか。

久野

今は需給バランスが悪いと思います。労働者の数が多くて、会社側がいつでも人を採れる状態じゃないと、その理屈は成り立たない。

安田

労働者=弱者ではないと。

久野

決して弱者とは言い難いんじゃないかなと思います。

安田

そうですよね。

久野

昔は本当に弱者だったと思いますけど。

安田

日本は昔のままのルールが多いですよね。環境がまったく違うのに。

久野

多いですね。誰も責任を取りたがらないので前例がスタンダードになります。

安田

殺人のような重大犯罪でも、犯人の人権を考えすぎだろって言われますよね。被害者や被害者家族の人権はどうなるんだって。

久野

そうですね。

安田

弱者に寄り添うとか言っても、どっちが本当の弱者なのか。それに弱者に優しいのかっていわれたら、会社を潰した人には結構厳しいですよ。

久野

連帯保証が基本ですもんね。

安田

社長ひとりだけが全責任を負うって、すごくいびつな感じがします。

久野

今の常識だと、社員は時間を貸している構造じゃないですか。

安田

そうですね。

久野

経営者はその時間を使って利益を上げなくちゃいけない。社員を稼がせる義務も負ってるとは思うんです。

安田

稼がせる義務ですか。

久野

その責任を経営者が感じた上で、働く人は会社の方向性に従ってもらう。これが大前提。そこを勘違すると本当に受給バランスが悪くなる。

安田

「給料を増やせ。だけど言うことは聞かない」というのは成り立たないですよね。

久野

経営者が私腹を肥やすだけってのも良くないし、従業員が社長の言うことを聞かないのもまずい。出社するだけで全くやる気を出さない社員では会社は成立しません。

安田

そりゃそうですね。

久野

ここを解雇できないってことが問題なんだと思います。

安田

数合わせで解雇するのはよくないけど、社長の言うことを聞かない、全く頑張らない人の面倒までは見れないよと。

久野

さすがにそう思います。

安田

実際そういう社員がいるんですか?

久野

ウチにはいませんけど、たくさんいます。

安田

「言われたことを言われた通りにちゃんとやる」ってことに関しては、日本の教育は優れてそうなのに。

久野

大多数の日本人はすごく勤勉だと思います。だけど、それだけでは報酬は増えていかないです。

安田

言われた通りやってれば、ちゃんと給料が増えていく時代は終わりだと。

久野

経営者は増やしていく努力をしなくちゃいけない。だけど限界はあります。

安田

もっと稼ぎたい人はどうしたらいいんですか。

久野

申し訳ないですけど、最終的にはガッツみたいな話になっちゃいます。

安田

ガッツですか。

久野

会社に来ても「チャレンジしよう」っていうマインドがなければ、何も起こらない。

安田

最終的には本人次第だと。

久野

本人が努力するという前提は要りますよ。絶対に。

安田

どういう努力が足りないんですか。

久野

ただ出社してくるみたいな感覚は捨ててもらわないと。さすがに無理ですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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