第206回 意味のないご褒美

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第206回「意味のないご褒美」


安田

管理職になりたい人がどんどん減っておりまして。

久野

そうですね。

安田

じつは今、公務員も同じ状況らしいです。公務員って昇進試験があるんですけど、試験を受けたくない人が増えてるみたいで。。

久野

試験を受けないと昇給しないはずなんですけど。

安田

収入を増やすより責任を背負わずに、ストレスをためずに、やっていきたいってことかなと思うんですけど。

久野

そういう人が増えてますよね。

安田

久野さんの会社も多いんですか?管理職になりたくない人。

久野

大変そうなので、なりたいと思ってないかもしれないです(笑)

安田

大企業と中小企業とで、管理職の価値って違う気がするんですけど。

久野

それはどこら辺が?

安田

大企業の管理職って本当に管理職じゃないですか。部下がたくさんいて、指示を出すのが仕事で。

久野

大手といえども「管理職になったら安泰」という時代ではないですけどね。

安田

確かにそうですけど。中小企業の場合はもう管理職って名ばかりで。飲食業の店長みたいな感じ。現場を抜けられないプレイングマネージャーで、現場の仕事+マネジメント。

久野

そういうケースは多いですね。人も足りてないし。

安田

部下の数字まで持たされて。でも給料は大して変わらない。管理職になると言っても、大企業と中小企業ではだいぶ違う気がします。

久野

そうですね。違うと思います。

安田

中小企業で純粋に「管理だけやっててくれたらいい」っていう会社、あまり見たことがないんですけど。

久野

社長ですら営業やってますから。

安田

久野さんもそうですよね。

久野

はい(笑)でも脱してそこをいかないと。組織としては強くなってかないです。

安田

そもそも中小企業に管理職なんて必要なんですか。ひと昔前はポストがあることで、みんな出世しようと頑張ってくれましたけど。

久野

憧れの対象みたいなところがありました。

安田

だけどもう憧れではない。だったら管理職を置いておく意味がないんじゃないかと。

久野

向井弁護士が言ってましたけど、中国で課長になると1500万ぐらいはもらえると。その代わり責任は負ってる。やっぱ責任と給与ってバランスが大事だと思うんです。

安田

日本はバランスが悪いですか。

久野

悪すぎるんじゃないですか。責任はめちゃくちゃ重くなるのに、給与は上がらない。そこが根本の原因だと思う。

安田

人選にも問題がありますよ。日本の中小企業だと、現場で活躍した人をご褒美的に課長にするじゃないですか。

久野

そういう傾向はありますね。

安田

マネージャーの適性があるかどうかではなく、単なるご褒美。そこに無理があると思うんですけど。

久野

プロ野球もそうですもんね。選手で活躍した人がコーチや監督になって。

安田

そうなんですよ。メジャーだと監督やコーチって、全く別の職業として選ぶじゃないですか。メジャーで一切活躍してなかった人が監督として成功したり。

久野

そうですね。

安田

会社も同じで、マネジメントスキルの高い人を管理職にするんだと思う。当たり前と言えば当たり前ですけど。

久野

それで成果が出なかったらすぐ解雇されるのがアメリカですから。

安田

はい。権利と責任がセットになってる。だけど日本の管理職はご褒美になっていて。

久野

もはや褒美にはなってませんけどね。

安田

そうなんですよ。喜びもしないご褒美って、ほんと意味ない気がします。

久野

日本でも超大企業は別ルートの採用枠があって。そこから管理職候補の選ばれし者が管理職になっていくんです。

安田

中小企業ではそんなの社長の息子ぐらいですよ。

久野

そうですね。中小企業の管理職って安田さんの言う通りですね。ご褒美的に管理職になって。でも給料は上がらないし、権限も持たされないし、責任だけ分割されて。

安田

やってられないですよ。

久野

そういう管理職だと、なりたくないですね。

安田

大企業で管理職になると、収入もすごく増えるじゃないですか。だけど中小企業はそんな報酬払えないし。

久野

払うようにしていくしかないですよ。

安田

私はシステム化や外注のほうが現実的だと思いますけど。

久野

マネジメントを外注するんですか?

安田

はい。社員を機嫌よく働かせてくれるプロに。会社の伝えたいこともちゃんと伝えてくれて、現場の声も吸い上げてくれる。

久野

そんな人いますか。

安田

今は少ないですけど、これから増えていくと思います。現場を持ちながらのプレイングマネージャーにそこまで期待するのは酷ですよ。

久野

そこにお金をかける余裕があるかどうかですね。

安田

だからシェアするんです。現場を持たないマネージャーに1000万も払えないじゃないですか。3〜4社でシェアすれば新入社員ぐらいのコストで済みます。

久野

ずっと現場でやっていくのも辛いですよ。現場って若い人の方がパフォーマンス出せると思うんですよね。マネジメントなら経験が活かせるし。

安田

いい選手がいい監督になるとは限らないと思いますけど。

久野

大事なのは順番だと思ってまして。経営戦略やビジネスモデルが悪いのに、マネジメントでなんとかしようって会社はもう無理だと思うんです。

安田

それは無理でしょうね。

久野

ビジネスモデルが悪いのに、マネジメントのせいにしてる会社って多いんですよ。そういう会社に入っちゃうとマネジメントが楽しくない。

安田

メジャーリーグだとGM(ゼネラルマネージャー)が組織編成するんです。監督は与えられた選手の使い方を考えるだけ。

久野

役割分担がはっきりしてますよね。

安田

そうなんです。GMには野球経験の全くないビジネススクールの卒業生がいたりして。若い人だと20代や30代で抜擢されて。

久野

それですごい成果を上げたりしますよね。映画にもなってました。

安田

はい。マネーボールですよね。単に現場の経験だけではここまでできない気がするんですけど。

久野

本当はそこも含めて考えてもらうのが、マネジメントだと思うんですよ。

安田

採用の権限まで持たせるってことですか。

久野

はい。一部分だけ中途半端に任されても手を打ちようがない。新規で採用しちゃだめ、機械は買っちゃだめっていう状態で、マネジメントやれって言われると割に合わない。

安田

メジャーで監督やGMになる人って、そのために勉強するんですね。当たり前だと思うんですけど、現場で仕事やってるだけでそういう能力は身につかないですよ。

久野

そういう経験も会社が積ませていかないといけないです。

安田

給料を払いながらマネジメントを勉強させるんですか。

久野

それしかないと思います。経験のない人が管理職をやってるのが、日本の組織の弱点だって言われてますから。

安田

自主的に勉強するかって言われたら、しないですもんね。

久野

残念ながらしないですね。会社が仕組みを作って育てるしかないです。

安田

それが嫌なら外注かシステム化でしょうね。少なくともご褒美でマネージャーにしても全く意味がないですよ。

久野

そこは私も賛成です。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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