第272回 日本から職人がいなくなる日

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第272回「日本から職人がいなくなる日」


安田

シンガポールに移住する美容師さんが増えているそうです。

久野

日本にいるときの2倍くらい稼げるみたいですね。日本は美容師の年収が安すぎるので。

安田

日本で稼ぐには自分でお店を持つ以外ないですよね。

久野

はい。稼ぎたいなら独立というイメージです。

安田

個人にお客さんがついていて技術もあるわけですから、普通に考えたら独立しますよね。

久野

それが前提になっている業界なので「できるだけ安く使おう」ということになります。

安田

寿司職人もみんな海外に行っちゃうそうです。東南アジアの都市部で働くとかなり稼げるみたいで。

久野

マイアミでは簡単に1000万円を超えるって言います。夢がありますよ。

安田

ただアメリカやヨーロッパは稼げますけど生活費も高いじゃないですか。

久野

確かに。そういう意味ではシンガポールとか狙い目なんでしょうね。近いし。

安田

そうみたいです。近い海外で稼いで月に何回か日本に帰ってきて。

久野

円安だし日本円に換えたら結構な金額になりますよ。

安田

ついにマイナス金利は解消されましたが。これから円高になっていくんでしょうか?

久野

あまり為替のことは詳しくないんですけど、このまま変わらないっていう意見が多いです。

安田

そうなんですね。マイナス金利に関係なく円安は続いていくと。

久野

そもそも国に力がないし、そこまで円高に振ろうと思ってもいないし。

安田

確かに。円高になる要素がないですね。

久野

ないんですよね。国もなんとなくそれを容認してますし。

安田

そうなると海外で稼ぐ人が増えていくんでしょうね。ヨーロッパ、アメリカだけじゃなく、東南アジアに稼ぎに行く人もどんどん増えて。

久野

とくに手に職がある人は海外に行った方が稼げちゃうから。

安田

日本が安すぎるんでしょうね。

久野

私の知り合いが銀座で美容室をやってるんですけど。3ヶ月に1回くらいドバイに行くんですって。めちゃくちゃ稼げるらしいですよ。

安田

銀座に店があるのにわざわざドバイに行くってことですか。

久野

はい。銀座って家賃が高いはずなんですけど、家賃を払ってお店を閉めてドバイに行っても採算が合うんでしょうね。

安田

さすがはドバイですね。

久野

さすがドバイだとも思いますが、やっぱり日本が安すぎるんですよ。お客さんに染み付いてますから。

安田

この前ニュースになってたんですけど。市営の体育館が有料になって大ブーイングらしいんです。でも使用料2時間で3000円なんですよ。しかも1人で借りるわけじゃないし。

久野

もう日本人って本当、タダとか安いものに慣れすぎちゃってるので。染みついてますよ。

安田

ちょっと値上げするとニュースになって、お客さんが離れて行ったり。もう日本は稼ぐ場所ではなくなってきてますね。

久野

海外で稼いで2ヶ月ぐらい休暇を取って、「日本に帰ってきて遊ぶ」というのが主流になるかもしれません。海外だとお客さんから感謝もされるし。

安田

昔と真逆ですね。昔は東南アジアの人が日本で稼いで、お金を持って自国に遊びに帰っていたのに。

久野

このままだと日本人はもう髪も切ってもらえなくなると思います。

安田

美容師がいなくって。

久野

腕のいい美容師がいなくなって。もう初心者みたいな人が「経験を積むために切ります」みたいな。

安田

1000円カットしかなくなるかもしれませんね。

久野

本当にそうなるかもしれないです。どこかでマインドチェンジしないと。とにかく「安く買おう」というマインドが自分たちの首を絞めてるんですよ。安くて量が多い食堂の番組とか本当にやめた方がいい。

安田

日銀の発表によると「物価高と給料アップが同時に実現されるようになった」ということです。でも現場の人に聞くと実質賃金はずっと上がってないとのことで。

久野

そこは大きく変わっていくと思います。「給与を先にあげる」という概念がだんだん浸透していますので。

安田

「中小企業には無理だ」っていう話もありますが。

久野

払えないところはもう人不足を解消できないので。この流れが一周してくると本当の意味で物価が上がっていくはずなんです。

安田

円安とか原料費高の影響ではなく、収入が増えて高いものを買うようになっていくと。

久野

それが実現できるビジネスモデルを考えないと。「社員を雇えば利益が出る」という時代はもう終わりですよ。儲かるビジネスモデルを考えないと。

安田

気合いじゃ無理ですよね。

久野

昔は気合いが無料だったじゃないですか。今は働き方改革で気合いは有料ですから。経営者にとっては恐ろしい時代なんですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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