第274回 カスハラで淘汰される人たち

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第274回「カスハラで淘汰される人たち」


安田

ついにバス会社が「過度のクレームには対応しません」と言い出しました。

久野

バスの運転手さんは人不足なんです。けどカスハラがひどくて辞めちゃうんですよ。

安田

お客さんを集めるより運転手を集める方が大変ですもんね。

久野

運転手を集める方がはるかに大変です。お金もかかるし。

安田

ネットの反応を見ても、今回のバス会社の対応は概ね肯定されていますね。

久野

クレームを言ってくる客ってほんの一部ですから。多くのお客さんは支持するでしょう。バスがなくなっちゃうとユーザーがいちばん困るわけで。

安田

ちょっと時間に遅れただけで怒鳴り続ける高齢者もいるみたいです。

久野

時代が変わっていることを理解できないんでしょうね。配送会社で土下座をさせた人がいるんですけど、逮捕されて実刑になりました。

安田

どんどん実刑にしてほしいですよ。運転手さんもかわいそうだし、他の客にとっても迷惑でしかない。

久野

とくに最近の若い子は怒鳴られる経験なんてしていないので。そんな環境では働いてくれないです。

安田

若い子はどこに行ってもウエルカムですから。人不足でいくらでも仕事がありますよ。

久野

お客さん1人よりも社員1人の方が重くなっちゃってる。だからこういう対応をせざるを得ないんです。運転手に怒鳴る人は「もう来てもらわなくていい」と。

安田

「あなたはお客さんじゃありません」ってことですよね。

久野

クリニックや歯医者さんでも先生に直接文句を言う人って少ないんです。

安田

そうなんですか。

久野

はい。そのぶん受付で文句を言う。だけどスタッフを雇うのも大変で。受付に防犯カメラをつけるところが増えてます。

安田

スタッフさんを守ってあげないと辞めちゃいますからね。

久野

そうなんですよ。カスハラ対策も会社としてちゃんと取り組まないと。

安田

中にはまともなクレームもあるんでしょうけど。

久野

そういう対応も含めて社外の「クレーム対応会社」に外注するところが増えています。

安田

クレーム対応を外注しちゃうんですか。

久野

中には過度なクレームもあって、社員に対応させると辞めてしまったり、病んでしまったり。

安田

なるほど。社員のケアの方が大事ってことですね。

久野

今回のバス会社もそうですが、完全に逆転現象が起きています。いまだに客が偉いと思ってる人が多いんですけど。

安田

バスなんて料金も安いし、使えなくなったらユーザーが困るのに。

久野

そうなんですよ。なのでサービスを提供する側が毅然とした対応をするようになってきました。

安田

学校のペアハラなんかも早く対応しないと先生がいなくなっちゃいますよ。

久野

はい。結局、割を食うのはまともな生徒や両親なので。

安田

今後はこのバス会社のような対応が増えていくんでしょうね。

久野

そうせざるを得ないでしょうけど、問題は断っても次のお客さんが来るかどうかです。そこが「ノー」と言える分岐点になってくる。

安田

バスや鉄道は他の選択肢がないから「ノー」と言いやすいです。でもクリニックなんかは難しいかも。

久野

めちゃくちゃ売上に貢献してるお客さんがカスハラした時に会社としてどうするか。切れるだけの勇気と資金があるのかどうか。経営的な余裕がないと社員を守れないわけですよ。

安田

やっぱり最終的には集客力ですね。

久野

強い集客力があればお客さんを選べます。

安田

断られた客はどうするんでしょう。性格はそう簡単には変わりませんけど。

久野

他に選択肢がある商品なら他に移っていくでしょうね。

安田

カスハラ顧客だとは知らずに受けれてしまうと。

久野

いずれ情報が共有されていくと思います。一般の飲食店とかも顔認証でハラスメント顧客がわかるようになったり。

安田

そしたらどこにも店に入れなくなっちゃいますね。バスや電車にも乗れなくなって。

久野

集客力がない店はそういう人でも顧客にせざるを得ないでしょうけど。

安田

そんなことしたらスタッフが辞めて仕事が回らなくなりますよ。

久野

だから最終的には淘汰されちゃうでしょうね。

安田

つまり最終的にはカスハラ顧客が行く店はなくなっていく。いいことじゃないですか。そもそも日本人は「お金を払ってる側が偉い」という感覚が強すぎるんですよ。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから