第284回 転勤しない若者について

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第284回「転勤しない若者について」


安田

今の就活生は転勤を避ける傾向にあるそうです。

久野

はい。無理やり転勤させたり、希望じゃない部署に移動すると辞めちゃいます。

安田

最初から「君はこの部署で、この上司の下で、この地域で」って決めてあげないと採用できないし、定着しないって事ですね。

久野

そうなんですよ。

安田

ゼネラリスト採用はもう成立しないんでしょうか。終身雇用する代わりに「どの仕事でも、どの地域でも、誰の部下でも、受け入れる」というのがセットだったじゃないですか。

久野

ゼネラリスト採用はなくなりつつありますね。今は勤務先も職種も限定する採用が多いです。

安田

「転勤がある会社は受けない」という人が4分の1もいて。これからも増えていくでしょうね。

久野

潜在的な層も含めると半分は超えてると思います。とにかく転勤がある会社にはいかないってことです。

安田

大企業でも地域限定採用が増えてきましたよね。

久野

地域限定・職種限定にするとガタンと報酬が下がっていたんですけど、今はそこが標準になってます。「受け入れる人だけ報酬が増える」というスタイルですね。

安田

そこまでしないと良い人材が採れないんでしょうか。

久野

はい。特に海外勤務は不人気ですね。

安田

昔はそれが魅力で総合商社に入る人もいたのに。

久野

今は総合商社も地域限定採用をやってます。

安田

そこまで来てるんですね。海外に行ってまで稼ぎたくないというか、スキルアップしたくないってことですか。

久野

そうだと思います。商社勤務なのに「転勤ガチャ」とかXでつぶやかれていて。下手するとそのままいなくなっちゃう。

安田

都市銀行はどうしてるんでしょう。支店を回りながら本部に戻ってくるのが出世コースだったじゃないですか。

久野

だから銀行員にならない人が増えてるんですよ。

安田

なるほど。銀行は転勤が必須だから。30万円近くまで初任給を上げているのも人が採れないから?

久野

はい。めちゃくちゃ気を使って転勤手当もすごくたくさん出したりしていますね。

安田

調査によると「基本給の30%手当てがあっても転勤したくない」「受け入れない」って人が4割もいるそうです。

久野

お金じゃないってことでしょう。もうどうしようもないです。中国人は商売のネタがあればどこでも行くじゃないですか。そりゃ勝てないですよ。

安田

日本では一部のエリートだけが転勤を受け入れていくんでしょうか。

久野

そうですね。もう転勤という言葉自体が死語になるというか。ブラックの条件みたいになるんじゃないですか。

安田

転勤どころか部署や上司を代えるだけで辞めちゃう人もいるみたいで。

久野

いろんな経験を積むことも大事なんですけどね。

安田

転勤がここまで人気ないのはちょっと不思議です。独身の間は転勤を受け入れてガンガン稼げばいいのに。

久野

環境が変わることが嫌なんでしょうね。自分のコミュニティから離れることをすごく嫌がります。

安田

もう大企業といえども転勤を減らしていくしかないと。

久野

そうですね。そうしないと辞めちゃいますから。かなり妥協していくんじゃないですか。

安田

じゃあ転勤がない中小企業は逆に有利かもしれませんね。

久野

いや、中小企業はそんなに単純ではないです。仕事の役割が分担されてないから、マルチタスクをこなさざるを得なくて。

安田

確かに。いくつも仕事を掛け持ちしてますね。

久野

大企業のほうが役割は明確です。大企業から中小に移ると「競技が違う」と感じるそうです。

安田

大手から来て活躍しない人はそのパターンが多いみたいですね。

久野

はい。中小企業では通用しにくいです。「こんなことまでやるんですか?」という状態になって。

安田

中小企業と大企業とでは競技が違うってことですね。

久野

大手には大手のルールがありますし、中小にも別のルールがありますから。

安田

この先、流動化していく可能性は高くないですか。

久野

大企業は大企業同士での転職が増えて、中小企業は中小企業同士の転職が増えていくと思います。

安田

そこには目に見えない壁があるんでしょうね。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから