第297回 的外れなフリーランス新法

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第297回「的外れなフリーランス新法」


久野

フリーランス新法というものが11月から施行されるんです。

安田

フリーランス新法? 

久野

要は業務委託の保護を目的にした法律ですね。

安田

ああ、なるほど。フリーランスは弱いから「守ってあげなくちゃ」っていう。

久野

そうですね。基本的には発注側がめちゃくちゃ強い立場だという考えで。発注側と委託側が平等だとは考えてないんですよ。

安田

「外注いじめをしないような法律」ってことですね。

久野

そうです。これで何が決まってるかって言うと「まず書面にて取引条件を明示してください」と。当たり前のことですけど。

安田

私は普通に契約書を交わしていますよ。

久野

安田さんはそうでしょうけど立場が弱いとできないわけです。で、2個目が報酬の支払い期日の設定。これをちゃんと決めましょうと。

安田

支払い期日を決めずに仕事を受けていたってことですか?

久野

そこを明確にしないまま仕事を受けちゃってる人が多いんですよ。

安田

なんと。

久野

あと面白いのが「育児休業にも配慮しろ」って言われてること。

安田

それはやりすぎでしょう。自分で仕事を断ればいいだけじゃないですか。

久野

それができないんですよ。実際にはフリーランスって「土日に仕上げて月曜までに出せ」とか言われちゃう。そんなことをしたらダメですよと。

安田

社員みたいですね(笑)

久野

そうなってくると相手の家族状況まで知らなきゃいけないって話になるわけですよ。

安田

雇用してるのと変わらなくなるってことですか。

久野

変わらなくなるという話ですね。あとは受領拒否しちゃダメとか。

安田

受領拒否って何ですか?

久野

ああでもないこうでもないとか言って、何回も戻したりするケースってあるじゃないですか。 

安田

クオリティに満足いかなくても戻したらダメってことですか?

久野

要は価格に合わないレベルまで何度もやり直しをさせられたり、本来の仕事を超えたところまでやらされたり。

安田

断りゃいいじゃないですか。

久野

安田さんだったら断るんでしょうけど。それができないわけですよ。

安田

次から仕事が来なくなっちゃうってことですか?

久野

そういうことですね。ここまで法律にしちゃうのはどうかなとは思うんですけど。

安田

やり過ぎですよ。そもそも仕事が来なくなるのは本人のスキルの問題でしょう。

久野

無茶な要望もあるみたいです。途中で報酬を減額したり、フリーランスに責任がないのに返品したり、 買い叩いたり、無理やり購入させたり。そういうことはやっちゃダメだと。

安田

そんな無茶苦茶な要望を断れないんですか?

久野

断れない人も多いんですよ。なので11月からフリーランスを守るための法律が始まります。

安田

それで弱い立場の人を守れるんですかね。禁止事項が増えることで仕事を失う人も出てきそうですけど。

久野

そうなりますよね。

安田

フリーランスの基準がズレてる気がします。金額とか納期とか支払い条件に納得いかなかったら断らないと。それができないフリーはそもそも食えないですよ。

久野

そうなんですよね。フリーランス新法ができることで「 フリーランスは虐げられている」というイメージがついてしまいそう。

安田

そうやって虐げられてるフリーランスがいることは事実だと思うんですよ。でもそれは受ける側の問題で。ちゃんと商品力上げて、お客さん選べる立場にならないと。

久野

本来こういうゾーンの人たちって雇用の範疇に入ってくる人なんですよ。

安田

絶対にそうですよ。そこまで守って欲しいなら就職すべきです。

久野

スキルがあってこそのフリーランスってことですよね。企業側も都合よく使いたいなら雇用するべきなんですよ。

安田

中小企業にはよくある話ですけどね。発注側から無茶な条件を突きつけられるとか。

久野

だから下請け保護法みたいなものがあるわけですよ。

安田

違法なことは取り締まったらいいと思うんですけど、自分で商品力を上げる努力とか新規集客する努力をしないと。力をつけない限りどこかで破綻すると思います。

久野

おっしゃる通りですね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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