第299回 共働き1200万世帯の現実

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第299回「共働き1200万世帯の現実」


安田

夫婦共働きが1200万世帯を超えたそうです。専業主婦世帯の3倍らしいです。

久野

はい。どんどん増えていってる感じですよね。

安田

つまり現在75%が共働き。いずれ専業主婦は1割ぐらいになるんじゃないですか。

久野

もう絶滅危惧種みたいになるんでしょうね。

安田

経済的な余裕がないっていうのもあるんでしょうけど。 今や女性も自立してますよね。離婚も多くなってるし、別れたら生きていけないなんて超リスクですし。

久野

男より稼ぐ人もたくさんいますからね。

安田

そうなんですよ。だから普通に考えて女性も仕事を続けるのが当たり前になるだろうと。そもそも日本はなぜこんなに専業主婦が多かったんですか? 

久野

戦後に始まった国策でしょうね。旦那さんは100%仕事にコミットして、終身雇用で働いて、家族を養っていく。社会保障制度もそういう設計でしたから。

安田

そうなんですか?

久野

奥さん側が亡くなっても男性への給付が少ない構成だったんです。今は解消されてますけど。 今はかなり平等な制度設計になってますね。

安田

そりゃそうですよ。

久野

だけど実態としては変わっていない部分もあって。女性は子供を産むとどうしてもキャリアの断絶があるじゃないですか。

安田

今でもあるんですか?

久野

はい。出世しづらいとか。 そういった根本的なところは変わってないような気がします。

安田

半年ぐらいならキャリア断絶まで行かないはずなんですけど。何年も休んじゃうと確かに厳しいですよね。たぶん奥さんが子育てするのが前提だからだと思うんですけど。

久野

そうですね。そこら辺は全く変わってないですもんね。

安田

二人で同じだけ子育てするとなったら、お互いにキャリアを潰さずに済むと思いますけど。そこまでのサポートがまだないってことでしょうか。

久野

まだこれからでしょうね。

安田

ここまで共働きが当たり前になると、旦那が育休を取れない会社にはもう人が来ない気がします。

久野

はい。そこも義務化されつつあります。

安田

じゃあ子供ができたら「旦那も必ず休む」みたいな制度になるんですか。

久野

強制にはなってないけどそういう傾向はあります。1000人以上の会社だと「状況の報告」というのが義務付けられていて。

安田

状況の報告なんて意味あるんですか?

久野

要は調査で社会的な競争をさせるわけですよ。「あそこの方が休めるぞ」ってなると人が集まってくるので。だんだんそれがスタンダードになっていくわけです。

安田

なるほど。内情を社会にリークするわけですね。

久野

リークというか公表する感じです。

安田

昔は寿退社で女性の側が辞めるのが普通でした。これからは夫婦ともキャリアを維持し続けるようになるんでしょうね。収入も安定するし、離婚した時のリスクも減るし。

久野

はい。だから転勤とかはもう無理なんですよ。奥さんが働いてるので単身赴任になってしまうし、そもそも二人で家事や育児を分担しているはずなので。

安田

でも中小企業は難しいですよ。旦那さんがそこまで家のことをやるとなると、仕事量もかなり減らさないといけない。現場が回らないんじゃないですか。

久野

回らないでしょうね。今はただでさえ人不足なのに。

安田

そうですよね。大企業だったら回ると思いますけど。

久野

そうなんですよ。

安田

いま準大手クラスの会社が採用目的でテレビCMをやってるじゃないですか。

久野

多くなりましたね。CMできるくらいの優良企業でも知名度がないと採用が厳しいんでしょうね。

安田

そういう会社がどんどん人を集めると中小企業はますます人不足になります。中小企業でも男性の育休が必須になっていくんじゃないですか。

久野

そうですね。法律が変わるより先に世の中が変わっていく形になると思います。でないと人が採れないので。

安田

共働きが可能な職場しか選ばれなくなっていくでしょうね。

久野

間違いなくそっちの方向に動いてると思います。とはいえ中小企業はこれ以上休みを増やす余裕もないので。しんどいと思いますよ。

安田

もう中小企業で子育て世代を雇用することは無理なんじゃないですか。 50〜60代の人を採用することも考えないと。

久野

いつでも人を休ませられるくらいの組織力がない会社はもう難しいでしょうね。

安田

中小企業はまだまだ属人的ですから。絶対に休めない人っていますもんね。

久野

ギリギリの人数で回してる会社はもう無理です。余剰人員を1割ぐらい抱えた状態で、なおかつ生産性が高い会社じゃないと。 海外はそういう会社以外は残ってないので。日本も必ずそうなると思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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