第305回 会社命令で社員はもう動かない

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第305回「会社命令で社員はもう動かない」


安田

三井住友銀行が新卒学生に対してアメリカ・イギリスでの海外勤務を確約するそうです。

久野

入社する前に約束するってすごいですよね。

安田

三井住友海上も新卒の「転勤なし」を5年間確約するそうです。久野さんが学生の時に人気企業だった会社ですよ。

久野

はい。都銀や生保は人気がありました。

安田

だけど時代は変わりまして。今や転勤が多い銀行や大手生保は不人気なんです。銀行って上下関係がガチガチで、転勤が多いイメージじゃないですか。

久野

昔は銀行に内定もらったら家族でお祝いでしたよ。

安田

そうですよね。親戚にも褒められて。

久野

もうここまでしないと優秀な学生を確保できないんでしょうね。新卒もすぐ辞めていくし。

安田

中途採用も増えてますね。昔の銀行って新卒じゃないと入れない世界だったじゃないですか。

久野

そうですね。「1回こけたら終わり」というイメージ。

安田

今は20代社員の半分が中途採用になってるみたいです。

久野

転勤もどんどん減らしていくんでしょうね。

安田

銀行に入ると転勤は当たり前で、「支店を転々として本店に戻って出世する」という仕組みだったじゃないですか。支店長にもすごい権限があって。

久野

今だったらパワハラと言われるようなことも普通だったでしょうね。

安田

そういう部分も変えていかないと。もう20代が定着してくれない。いくら支店長が人事権を持っていても勝手に転勤させられない。

久野

中には転勤したい人もいるんじゃないですか。

安田

いるでしょうね。かなり数は少ないと思いますが。

久野

ニッチな層。そこを狙って転勤OKな人材を集めていくんでしょうね。

安田

採用のメインは地域限定・職種限定になるんじゃないですか。 どの地域で、どの事業部で、誰が上司かまで確約して。

久野

さすがに上司までは確約できないでしょう(笑)

安田

分かりませんよ。不人気企業はそれくらいやらないと採用できない時代なので。

久野

ほんと厳しい時代ですね。

安田

銀行に入ればかなりの生涯賃金が約束される。それでも転勤させただけで辞めちゃう。

久野

もう転勤はもう無理ですね。ご法度じゃないですか。

安田

ご法度ですか。

久野

「て」の字も言えない。中小企業がやったらSNS炎上するぐらいの勢いだと思います。

安田

大企業でさえ難しいですからね。

久野

これからの支店展開や海外展開って大変だと思いますよ。

安田

大変ですよね。

久野

ますます日本が弱くなっていきそうな気がします。中国人やアメリカ人って、そういうのが全然平気な超ハングリーな人がいるじゃないですか。

安田

たくさんいますよ。

久野

日本人にもいるんでしょうけど多くないイメージ。「アフリカ大陸に打って出るぞ」とか日本にはもう無理なんじゃないですか。アジアでちょこちょこやるぐらいが関の山。

安田

現実問題として共働きじゃないとやっていけないので。仕事と家庭を両立しなきゃいけない。

久野

そうですよね。

安田

家族を連れて転勤すると奥さんは仕事を辞めなくちゃいけないし。奥さんの方が稼いでる場合だってあるでしょうし。

久野

20代の人に聞くと「家事は分担してやります」って普通に言いますね。

安田

そりゃそうですよ。専業主婦がどんどん減って今や共働き世帯が8割近いですから。

久野

20〜30代はもっと比率が高いでしょうね。

安田

奥さんが専業主婦になって「仕事を辞める」って凄くリスキーじゃないですか。今の若者は絶対そんな選択はしないですよ。どうやって2人で仕事していくかを前提に考えると思う。

久野

共働き前提でいくと残業はダメで、転勤もダメで、職種替えもやっぱりダメですね。有給は必ず全部取るでしょうし。

安田

管理職への昇進もダメです。だけど給料は増やしていかないと転職されてしまう。日本全国を飛び回ってくれるのは一部のエリートだけですよ。

久野

ものすごく報酬も高くなるでしょうね。

安田

世界標準のエリートだと億単位です。何十億っていう報酬の人もいますから。

久野

海外で事業の立ち上げなんてさせようと思ったら、それぐらい必要でしょうね。もう海外展開なんて無理かも。沈まぬ太陽とか言ってる場合じゃない。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから